第二十二話 新たな能力
「あー、大丈夫?」
「なんとかな、痛てて……」
あのジジイ、ほんとに遠慮なく投げまくりやがって。
王女一行とオスカルが会議室から出ると傷の状態を確認する。
「でもほんとに手加減してくれていたみたいね」
「あれでか? 冗談だろ」
だが、確かに打撲や擦過傷はあっても骨折や大きな切り傷等はない。
それは下士官の連中も同じだった。
「太郎、あんたなかなかやるな」
「以外だったぜ、魔導師なのに根性あるな」
「ボコボコにやられてただけだったけどな」
下士官たちが労いの言葉をかけてくる。
褒めてくれるのは嬉しいが、ボコボコにやられたことには変わりない。
「魔法使いが魔法使わずにあれだけやれれば上等だろう」
「身体強化は使ってたのか?」
「いや、特に使ってないよ」
ひたすら投げられては立ち上がり、投げられては立ち上がりを繰り返していただけだ。
途中からもう意地になってたからね。
何回か投げられた段階で諦めて倒れていればよかったのに。
それでも最初に床に寝そべるのは嫌だったんだ。
とはいえ、あれだけ投げられてもなんとか立ち上がれていたのは少し疑問だ。
異世界に来たときに、体も強化されているとかなのかね。
「痛っ……、ほんとあのジジイ遠慮なしに投げやがって」
「あー、大丈夫か?」
いくら大怪我をしていないとはいえ、みんな全身ボロボロだ。
戦闘に参加して無事なのは最初に離脱したルナくらいだろうか?
「主様……」
「ごめんなさいとか言うなよ? ルナが無傷でよかったって俺はホッとしてるんだから」
派手に蹴り上げられたものの、上手く頭を揺らすように蹴られていたらしくルナは傷といえる傷は負っていなかった。
だからこそ、下士官連中も矛を収めたのだろうが。
領都ダヴォリから王都までの間に見ていて気がついたのだが、ルナは獣人に妙に人気があるからな。
本当に怪我をさせられていたら下士官連中、死ぬまで戦い続けていた気がする。
「はい……」
「よっと、痛っ……」
起き上がってメニューからタブレットを召喚する。
「さてと、使ってみますかね」
「ね、ねぇ」
「ん?」
タブレットを操作しようとした俺にリリーから何かを迷っているような声がかけられた。
「その……、大丈夫?」
「ああ、まぁなんとかな」
「そ、そう、でも傷が……」
まだなにか言いたそうなリリーを放置して俺はタブレットの操作を始める。
先程の戦闘の後、新たに俺は能力を手にしていた。
「お……?」
「おいおい、まじかよ?」
傷ついた、いや傷ついていた下士官たちが驚きの声を上げる。
「どうだ?」
「凄いな」
「ああ、痛みが欠片も残っていない」
「そうか、よかったよ」
新たに得た能力、それは傷の回復だった。
と言っても体の再生能力を上げて治すだけだが。
それでもようやく俺も異世界らしい能力を手に入れられたってわけだ。
喜びを噛み締めていると、横でなぜかプルプルと震えていたリリーと目があった。
「どした?」
「っ! なんでもないわよ馬鹿!」
どうしたのかと尋ねるとジト目で俺を罵ってくるリリー。
なんだよ一体。
「ちょっと外で空気吸ってくるわ!」
俺が訝しんでいると彼女は会議室から飛び出していってしまったのだった。
「なんなんだよ、もう……」
「リリーを追いかけてきます」
やや冷たい目でそんな事を言うルナ。
いやまって、リリーをどうするつもりですかあなた。
「え、いや、俺そこまで怒ってないからね?」
「……、そうじゃありません」
焦って止めようとする俺にルナは軽くため息を吐き、会議室から出ていった。
むしろ俺が悪いみたいに言われたような気がしたが、なぜだ。
「おいおい、夫婦喧嘩か?」
「太郎。リリーの嬢ちゃん追いかけたほうが良いんじゃないか?」
「いや、ルナが行ったから……」
誰が夫婦だ。
それになんで怒ったのかわからないのに追いかけても火に油を注ぐだけな気がするんだよな。
少し怖いし。
「うーん、しかしなぁ。こじれても知らないぞ?」
「いや、むしろこういうときは女同士のほうが良いものだ」
「そうだな、下手に男が首を突っ込んでも良いことなんて無い」
下士官たちが口々に好きなことを言い合う。
こいつら何いってんだ?
意味がわからないよ。
「しかし太郎、よかったのか? 俺たちは獣人だぞ?」
「ん? なにがよ?」
「まぁ太郎がそういう奴だってことはわかってるけどよ、気をつけたほうが良いぜ」
「そうだな、獣人に回復魔法を使うところなんて見られたらなにを言われるかわからん」
「え?」
要約すると魔法は高貴なモノなので下賤な獣人に使うのは好ましくないということだった。
馬鹿らしい。
同じ人間だろうに。
ちょっとケモミミが生えてるとか寿命が違うとかってだけでなぜそんなことを思うのか。
「ははっ、やっぱりお前は良いやつだな」
「ちょっ!? 痛いって!!」
お前にならルナ様を任せられる。
バシバシと背中を叩かれながらそんなことを言われるのだった。
せっかく治したのに、また痛くなったじゃないか。
これ絶対痣になってるだろ。
だが、この痣、痛みは治したくないな。
そんなことを思いながら俺たちは会議室をあとにした。
その後の宴会では、いつの間にか戻ってきていたリリーが荒れに荒れていた。
下士官連中を相手に一気飲み勝負を仕掛け連戦連勝。
今、会場の中心には一人酒を煽るリリーと顔を赤くしてひっくり返った獣人たちの山が出来上がっていた。
そしてまた一人、その山が大きくなったかと思っているとグルリと首を回したリリーと目があった。
軽くホラーだ。
「太郎ー! 飲んでるううううう?」
蒸留酒を片手に千鳥足で俺のもとへと歩み寄ってくるリリー。
うっ、アルコールの匂いがキツイ……。
「お前、酒のんでも良いのか?」
「エルフの成人は人間と同じ十五歳だもーん!」
彼女いわく、エルフは見た目の成長は遅いが体の重要器官の成長は人間と同じらしい。
だから肝臓や成長への悪影響の心配はないのだとか。
だが、エズラは最悪である。
それに飲むのは自由だが、シラフの人間に絡むの早めてほしい。
リリーは酒癖が悪いらしく、バカバカ言いながら肋骨で俺の背中をゴリゴリと削ろうとしてくる。
俺に臭い息を吐きかけ、そしてそのまま寝てしまった。
「んんぅ……」
「……、すまんオスカル、リリーが寝たからベッドまで運んでくる」
「ん? ああ、ずいぶんとその、酔っていたみたいだね?」
「ああ、エルフの考えはほんとわからないわ」
「……、太郎、もう少しリリー君に優しくしてあげなよ」
「ん、気をつけるわ」
オスカルに適当に返すと、俺はリリーを背中に担いでベッドへ持っていった。




