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山田太郎は異世界を征く。  作者: すぴか
第一章 異世界は日本人には厳しいようです
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閑話 大隊の副長

「ルナ様! はじめまして!」

「ルナ様! ご機嫌麗しゅう!」


 獣人の兵士や下士官たちが一人の少女に向かって過度なまでに丁寧に接している。

 これは理解できないことだ。

 元来獣人たちはプライドが高く、自分たちが認めた相手以外の言うことは絶対に聞かない。

 認める手段にしても、基本的には腕力だ。

 決してこのような子供におべっかを使ったりはしない。


「なんだというのだ……」


 私の名はエルコレ=ファクタ。

 ファクタ男爵家の長男だ。

 主流とはかけ離れた家柄のせいで、もう三十も近いというのに王軍では未だ少尉。

 獣人主体のこの部隊でなんとか副長を拝命できた程度。


 かと言って文官に転向したところであちらもコネと縁が跋扈(ばっこ)する世界だ。

 新規参入組は冷や飯しか食べれない。

 ならばコネも縁もある軍のほうがまだマシというものだ。


 鬱々とした思いを抱えながら、なかなか言うことを聞かない部下をなんとか統率して居たというのに、ぽっと出の少女がすべてを持っていってしまった。

 いや、獣人の連中、他のことが見えなくなっているからな。

 その分、なお質が悪いかもしれない。

 なんせ来客を無視してその奴隷の少女たる彼女にのみ歓迎の意を表明してしまったくらいだ。


「ルナ様に良いところを見せるぞ!!」

「おうっ!!」


 眼の前で罰走している連中の口からそんな言葉が聞こえてくる。

 罰が罰になっていないのだ。

 とはいえ、演習前ということもあり、あまり厳しい罰を与える訳にはいかない。

 私は歯を噛みしめるのだった。



「一体何のために?」


 急遽大隊長に呼ばれ、天幕に戻ると少女の主人、山田とか名乗る貴族がとんでもないことを口にした。

 帝国軍三千が近くの川沿いを進軍しているというのだ。

 信じられない、信じられるわけがない。

 私は末席とはいえ王国軍の将校だ。

 そんな訳のわからない奴の言葉にホイホイ乗る訳にはいかない。

 だが、やつは更に信じられないものを私たちに見せつけたのだ。


 四角い板を召喚、それの上には周辺の地形が描かれていた。


「これは……」

「リアルタイム更新の地図みたいなものかな」


 敵の位置、数、その動きが板の上で表現される。

 それもリアルタイムらしい。

 地図上のマーカーの赤が敵、黄色がどちらでもない、青が味方であると説明が続けられた。


 おいおい、冗談だろう?

 この力があれば、間者だって簡単見つけ出すことができる。

 逆に相手に見つからないように重要施設に潜入することだって容易だ。


 大隊長が連れてきた男は、とんでもない魔法使いだったわけだ。

 だが、それはあまり救いにはならない。

 なぜなら大隊長はその大部隊と戦闘を行い、足止めを図るというのだ。

 私も王軍に入った時点で覚悟はしていたが、まさかその日が訪れるとは……。



「突撃!!」

「ウォオオオオオオオ!!!」


 夜になり、気持ちが悪いほどよくいうことを聞くようになった兵士たちを率い、夜襲をかけた。

 今までの彼らとは比べ物にならないほど静かに、正確に、そして力強く行動する彼ら。

 彼らの正体を知らない人間が見れば王国軍の最精鋭部隊と思うことだろう。

 それが下に見られる獣人部隊とは露程も思わないはずだ。


「ルナ様のために!!」

「ルナ様に勝利を!!」


 信じられないほどの膂力(りょりょく)を発揮し、敵兵を斬り飛ばしていく自軍兵士たち。

 いやまて、槍はそういう使い方をするものではない。

 あくまで突きが基本動作なのだ。

 敵兵を袈裟懸けに切り裂いたり、貫いた敵兵を持ち上げてハンマー代わりにするものではない。


 いろいろと間違っているとしか思えないが、それでも良いのかもしれない。

 勝てば官軍、勝利はすべてを許してくれる。


 ……そう思わないとやっていられない。



 後年、獣人に関する文献を紐解くと、獣人たちの魂の統率者、獣皇という存在が数百年に一度現れると書いてあった。

 獣皇はその存在があるだけで獣人たちの力が増し、その命令はどんなものでも喜んで実行されるらしい。

 特に軍人等、戦いに身をおくものほどその傾向が顕著なんだとか。


 嘘か真か、獣皇がホルモンを食べたいと言ったとき、近くに居た牛獣人が笑いながら切腹、その(ハラワタ)を奉納しただなどという記述すらあった。

 もはや狂気としか言いようがないが、ともかくそういう存在であるらしい。

 この記述を見たとき、私は彼女の存在を思い出したのだった。

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