閑話 大隊の隊長
「父さん! 正気なの!?」
「オスカルか。帰ってきていたのか」
僕は帰ってきてすぐに父さんの書斎に飛び込んだ。
父さんが従兄弟のロロを捕虜にして連れてきた男を食客として招くという話を聞いたからだ。
それも捨扶持を白金貨四枚も与えて。
「帰ってきていたのかじゃないよ! 一体どういうつもりなのさ!?」
「落ち着け、オスカル。彼はそれだけの価値があると踏んだまでのことだ」
「白金貨四枚もの価値がある人間なんてどんな人間だよ!?」
いくら父さんでもやって良いことと悪いことがある。
一時金ならそこまで言うつもりはない。
だが、捨扶持を与えるとなると話は別だ。
その男の行動に対する責任もダヴォリ子爵家に回されるのだ。
しかも白金貨四枚、それだけの信用を初対面の人間に与えるだなんて。
父さんは気でも狂ったのだろうか。
そんなことを思ってしまう。
「見ろ」
「これは?」
そう言って父さんが差し出してきたもの。
それは裂けた銀色の篭手だった。
「儂がロロの就職祝いに買ってやった篭手だ」
「え? でもこれ、裂けて……」
ロロの就職祝いの篭手。
彼が軍務につくと聞き、心配のあまり奮発しすぎて総ミスリル製となったと聞いている。
その防御力は折り紙付き。
よほどの名刀を達人が扱うとかでない限り傷一つつけることはかなわないはずだ。
「ああ、そうだ。これは、彼が魔法で傷をつけたそうだ」
「ありえない。父さん、僕をからかっているのかい?」
「まぁそう言うだろうとは思っていた。だがな」
お抱えの魔術士に鑑定を頼んだが、この傷跡は間違いなく魔法によるものとの結果だったらしい。
つまり件の男は本当に魔法で総ミスリル製の篭手を切り裂いた。
それも無詠唱で。
「信じろというのが難しいのは理解している」
「いや……、ロイドさんが鑑定したのであれば間違いはないでしょう……」
魔法に対し、絶大な防御力を誇るミスリルを無詠唱で貫通。
どれだけ強大な魔導師なのだろうか。
なるほど、そんな人物の首に鈴をつけるのであればこの待遇もわからないでもない。
「僕も、念の為会ってきます。離れにいるんですよね?」
「おいおい、忙しないな。王都から帰ってきたばかりなんだろう? 少しは休んでいったらどうだ」
「公務を投げ出してきてしまったので。片付いたらまたすぐに顔を出しますよ」
そう言うと僕は踵を返し、離れへと向かった。
道中、執事のセバスチャンから彼らの話を聞きながら。
「エルフと獣人の奴隷?」
「はい」
僕は奴隷というものが嫌いだ。
意志ある存在をモノとして扱うそのシステム。
反吐が出る。
だが、それが奴隷が僕たちの生活を支えている。
その事実が僕をまた不快にさせるのだ。
「その二人は男か?」
「二人共少女です」
「チッ……」
女の、それも少女の奴隷か。
エルフの方は性奴隷であることは間違いなさそうだ。
獣人の方は暴力のはけ口といったところか。
魔導師はある種の特権階級。
それも若くしてその地位に上り詰めたのだ。
才能はあるのだろう。
だが、根性は腐っているに違いない。
「二人共、特段怯えた様子などはありませんでしたね。特に猫獣人の奴隷は懐いているようでした」
「なに?」
猫獣人が人に懐く?
それも奴隷の少女の?
獣人の中でも警戒心が強く、他人に心を開かないのが猫獣人だ。
少女であればその傾向が特に顕著のはず。
暴力を振るっていたりすれば例え奴隷の首輪をつけていようがいうことを聞くことはない。
ましてや懐くなど。
「セバスチャン、それは間違いないのか?」
「はい。エルフの少女の方も気を許している雰囲気でした」
「そうか……」
あのプライドが高く扱いづらいエルフが気を許しているとは。
しっかりと『躾』を施せば従順にはなるものの、気を許したりはしない。
少しだけ彼に興味が湧いた。
もしかしたら、僕の想像とは真逆の人物なのではないか?
そんな期待を胸に、僕は離れの前に立つのだった。




