第二十話 謎の少女
「あー、もういいから、とりあえず帰れ?」
「そういうわけにも行かないかなぁ?」
リリーのせいで妙な空気になってしまったが、それでも状況は変わっていない。
相変わらずゴロツキたちは俺達を囲ってるし、少女は俯いてるし、リリーは反省をしていない。
「かっこつけたいのはわかるけどよ、周り見てみ? 多勢に無勢、そうだろ?」
「説得はありがたいんだけど……」
ううん、なんかこちらに気を使われると逆にやりづらい。
純粋な悪役で居てほしかったんだが。
「なら仕方ないな、力づくになるぜ?」
「それじゃ、お互い様ということで」
心の中で謝ってタブレットを召喚、以前戦闘の際に回収したままだった土をゴロツキたちの上に召喚する。
「なっ!?」
「ぐぎゃっ!?」
派手な音と悲鳴が上がる。
いや、そこまで大量に出してないんですが。
あ、岩が混ざってたっぽい?
てへぺろっ!
「お、おまえ、魔導師か!」
「まぁそんなところかな」
効果範囲から外れていたゴロツキがそんなことを叫ぶ。
違うけど否定するのもめんどくさいので適当に流すことにする。
「くそっ、なら仕方ねぇ。おい! 魔素吸収だ!」
「へいっ!」
「魔素吸収?」
ゴロツキが叫んだかと思うと背後からチンピラが出てきて壺らしき物体を掲げ、その栓を引き抜いた。
が、なにも起こらない。
「へへっ、魔導師ならわかるだろう? これでもう魔法は使えねぇ、残念だったな?」
え、なんだって?
いや、本当になにしたの?
俺には自信満々に壺を振り上げているチンピラしか見えないけど……。
もしかしてわからないだけで俺の能力が封じられているとかか!?
「兄貴達の仇、取らせてもらうぜ?」
「くっ……!?」
慌てる俺にゴロツキとチンピラがにやけながら歩み寄ってくる。
そんな……、ここまでなのか……?
「ワブッ!?」
「……そうでもないみたいだな」
特に問題なく能力は発動した。
そして生き埋めとなるゴロツキたち。
水分抜いてて軽いから死にはしないだろう。
「とりあえず行こうか」
「うん、あ、私次あれ食べたグエッ」
「主様、あれ、食べてみたいです」
「ん、いいぞ」
「ちょっと! ルナと私とで扱い違くない!?」
だってリリーだし。
そんふうに和気あいあいと話しをしていた俺たちに待ったの声がかかるのだった。
「まて! 妾を置いていくでない!!」
「え、なんだって?」
「妾を置いていくでないと言っておる!」
えぇ……。
そりゃ困ってる人を見ないふりするのは良心が咎めるけどさ。
どう考えても面倒ごとの匂いしかしないんだもの。
「妾も一緒に行くぞ!」
「ご遠慮願いたいのですが?」
「その願いは叶えられぬな。不甲斐ない妾を許してたもれ」
だが、面倒事からは逃げられないのだろう。
ん? なんか変なふりがなが入った気が。
いや気のせいか。
ともかく彼女は俺たちについて来る気満々のようだ。
撒こうにも俺たちの宿はすぐ近く。
それにちょっと話を聞いてあげれば満足して帰ってくれるかもしれないし。
そう俺は自分に言い聞かせ、ついてくる少女をそのままにしたのだった。
「助力、感謝するのじゃ!」
宿の裏口から自室へと戻り、鍵を締めると同時に少女が口を開いた。
路地裏では気が付かなかったが、見れば泥に汚れてしまった仕立てのいい白いドレスにウェッジソールの赤い靴。
よく手入れされた亜麻色の長い髪の毛にも土がついていた。
暴漢どもめ、こんな幼気な少女をなんて目に合わせるんだ!
そんな正義の炎が胸に灯る。
「いや、あんたが出した土のせいだからね?」
エスパー!?
いや、こいつの精霊魔法か?
「主様、口に出てましたよ」
「あ、そう?」
やっべ。
なんか泥少女も変な顔してるし。
「えーっと、俺は山田太郎。一般人です」
「む? 山田太郎? くくっ、そうかそうか! ならば妾は田中花子じゃ! 貴殿と同じく一般人じゃぞ!」
気の強そうな赤い瞳で俺たちを見据え胸を張る。
そしてこれからよろしく頼むぞ!
と花子は笑うのだった。
いや、よろしく頼まれても困るんですが。
「とりあえずまぁ座ってください。それで、花子さんはなんであんなところでゴロツキに絡まれていたのですか?」
花子に椅子をすすめると俺たちはベッドへと腰掛ける。
俺たちがリリーと花子を見つけたときには既にゴロツキに囲まれており、どうしてそうなったのかはよくわからないんだよね。
ちなみに俺はルナに引っ張られてゴロツキの中を突破して彼女たちに駆け寄りました。
連中が油断してなかったら無理だったよな。
「うむ! よくぞ聞いてくれた!」
花子いわく、腹が空いたが金はなく、じっとで出店を見ていたところにリリーが肉串を差し出してきたらしい。
流石に立ち食いはとは思ったが、背に腹は代えられぬとその串を受け取ったそうな。
だが、リリーもお金は持っておらず、結果追われることになったと。
「つまりリリーが悪いのですね?」
「なんでそうなるのよ!」
そうにしかならねえよ。
俺が生き埋めにしたゴロツキさんたちに申し訳ない。
後で謝りに行ったほうが良いのか?
「私たち売られそうになったんだからね!?」
「うむ、そうじゃな、危うかったわい。感謝するぞ! あと敬語は不要じゃ。妾もただの一般人ジャからな」
「あー、もういいや、うん。どういたしまして。さ、用は済みましたよね? ならご退席いただけませんか?」
「なっ、待ってたも! 妾には今日の宿もないのじゃぞ!? それに敬語は不要と!」
だって赤の他人ですし。
そりゃリリーのやらかしに巻き込んだのは申し訳ないとは思うけど。
だからといって最後まで面倒を見てやる義理もない。
「いいじゃん、今更一人や二人増えても変わらないでしょ?」
リリー、お前が言うな。
「なっ、妾に奴隷になれというのかっ!? そ、それはあまりにも……」
「言わないよ!? なんでそんな発想になるの!?」
と、思ったがそういえば俺の連れ、二人共奴隷だったわ。
それも小さい女の子の。
勘違いされても仕方ない、のか?
いや、ちょっと納得行かない。
「違うのか……?」
「違います!」
「嘘じゃっ!!」
WHY?
本当にそんなつもりがないのになぜ信じてもらえないのか。
「男は狼じゃから気をつけろと母上からも言われておるでな!」
「はぁ、そういうことはもう少し成長してから口にしたほうがよろしいかと」
ルナとリリーの間くらいの身長、だいたい小学校の高学年くらいか?
まぁ背伸びしたくなる年頃なんだろうなぁとは思うけど。
後五年くらいしてからならそのセリフも似合うだろうが、今はまだ早すぎる。
「ふむ、そなたは紳士なのじゃな」
「はい、主様は優しいです」
「そうかそうか。良い主人を持てて良かったの」
そう言ってルナの頭を花子が撫でる。
うーん、子どもたちのふれあいっていうのは良いものだな。
なんというかこう、癒やされる。
そんなことを考えていると腹が鳴る音が室内に響いた。
またリリーか、と思ったが違った。
その隣りにいた花子が頬を染めていたのだ。
あー、さっきも腹が空いてたみたいなこと言ってたしな。
「まぁなんじゃ、袖振り合うも他生の縁というしの。夕餉をごちそうしてたもれ」
「あいにくと三人分しか頼んでおりませんし、お口に合うとは思えませんが」
下手したら腹を壊すだろう。
万が一があったら、もしかしたら俺のクビが飛ぶかもしれないし御免こうむりたい。
「んじゃ、一人前追加するようお願いしてくるわ」
だが、断ろうと頑張ってる俺をスルーしリリーが一階へと向かってしまった。
ちょっと待てリリー!
なんで君はこうも勝手に行動するのさ!?
さっきそれで危ない目にあったばかりでしょ!?
「ちょっ、待てよ!!」
そういうと俺はリリーを追いかけ宿の一階へと向かった。
しかしリリーの足は速かった。
彼女は追いつく前に注文を終えていたのだ。
だが、追加注文をして戻ってきたとき、花子は居なくなっていたのだった。
「主様……」
「えっと?」
一体何があったのか聞いてみたが、いまいち要領のつかめない答えだった。
なんとかまとめてみると、王国近衛兵がいきなりやってきて嫌がる花子を連れて行ってしまったそうだ。
「それでこれを……」
ルナが差し出してきた小さな袋。
その中には金貨が数枚入っていた。
それも今までに見たことのない金貨、神聖金貨ってやつだろうか?
「口止め料らしいです」
……、花子、君は一体何者なんだ。
イヤーサッパリワカラナイナー。




