第十八話 王都へ
一週間後、王都へと向かう馬車に俺達は乗っていた。
「士官用の馬車は特に奮発してくれたみたいだ」
「凄いな、箱馬車か」
ずらりと街道に並ぶ馬車を眺め、俺は感嘆の声を上げる。
その数、およそ百台。
護衛はいないが、そもそも中に乗っているのが兵士である。
その殆どは荷馬車だが、ホロがついているので雨風は問題ないだろう。
しかも途中で野宿することもないのだから。
道程は順調に進み、予定よりやや早く王都へ到着することができた。
「ううん、ずいぶんと早く到着できたな」
「そうなのか?」
これが普通だと思っていたが、違ったようだ。
「まぁ、天候にも恵まれてたし、運が良かったよ」
「そうだなー」
そう言いながらあたりを見渡す。
風に揺れる青々とした草が心地いい。
その中にポツンと石造りの建物が建っていた。
……。
え?
王都は?
あれか、もしかして大規模戦闘はとっくに終わっていて王都はすでに灰燼に、ってんなわけあるか。
「あー、ここは王都じゃなくてその近くのポダノ平原ってところなんだ。悪いね、ほら、前にも言ったけど僕の大隊は獣人中心で構成されてるからさ……」
「叙勲されるっていうのに王都に入れないのか?」
「全く入れないってわけじゃないんだけどね、どこから横槍が入るかわからない」
そうなると叙勲の話が流れる可能性もあったらしい。
「僕だけならともかく、無茶をさせた部下にはその働きに見合った報酬を渡してやりたいんだ」
「なるほどね」
名より実を取ったってわけか。
オスカルと将校だけなら全員人間、それも貴族だから王都に入っても全く問題ないだろうに。
こういうヤツだから部下たちがついてくるのだろう。
「あの建物が王都周辺に駐留するときに僕たちが使っている駐屯地なんだ」
「結構立派なんだな」
「もともとは砦だったものを改修したものだからね」
そんな会話を交わしながら建物へと向かう。
「ここから王都までは馬車で半日くらい離れているんだ。さっき早馬を出したから来週にはお偉いさんがやってきて僕たちを叙勲してくれるはずさ」
「それまではここで訓練というわけだ」
「いや、流石にあの戦闘の後だ。兵士たちには休みを上げる予定だよ」
その後、オスカルは大隊費から兵士たちに一時金を渡し、王都でハメを外しすぎないよう好きに遊ぶように指示を出すのだった。
「んじゃ、俺達も遊びに行ってきていいかな?」
「あ、王都についたら先に宿を押さえたほうが良いよ」
「そうなのか?」
「うん、夕方になるともうろくな宿は残ってないから」
「わかった、アドバイスありがとさん」
「ああ、誘っておいて悪いね。僕はまだ仕事が残っているんだ」
そう言ってオスカルは横に積み上がっている書類を軽く叩く。
彼の時間が空くのは叙勲の後くらいになるようだ。
「まぁ、僕が頑張ればみんなが遊んでこれるからね」
「損な性格してるよな、お前」
「よく言われるよ」
そう言って笑うオスカルと別れ、俺達は王都へと向かった。
……、荷馬車に乗って。
「半日でも辛いな……」
「お尻痛い……。ねぇ、オスカルの馬車借りれなかったの?」
「結構揺れた……」
王都東門に到着し、なんとか荷馬車から降りる。
道が比較的整備されていたとはいえ、それでもかなり辛い道のりだった。
一緒に乗っていた兵士たちは何でも無い顔をしているのが信じられない。
「これ、ありがと」
「いえ! ルナ様のお役に立てて幸いです!!」
「家宝にいたします!!」
兵士たちの様子を見ているとルナが彼らのもとへと走り寄る。
その手には兵士たちからクッションに使ってほしいと差し出されていた上着を持って。
何故かルナは獣人からの絶大な人気があるんだよな。
もう崇拝と言っていいレベルなんじゃないかってくらい。
あれか、獣人は子供が好きとかそういうのがあるのだろうか?
「おまたせしました、主様」
「ん、それじゃ行こっか」
「早く早くっ! 私王都って初めてなのよね!」
落ち着けポンコツエルフ。
まずは入場手続きからだ。
「はぁ? 旅行者?」
「ああ、俺は山田太郎。こっちの二人は俺の奴隷のリリーとルナだ」
訝しげに俺を睨めつける門番を前に俺は入場の目的などを説明していく。
「んー? そっちのは、エルフか?」
「なによ! 汚い目で私を見ないでくれる!?」
「はっ、奴隷がよく言う。おい、貴族の旦那、奴隷の教育はしっかりしておいたほうが良いぜ」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると門番は行ってよしと俺達の王都入場を許可してくれた。
「全く、失礼しちゃうわね」
王都に入場すると大きな噴水が俺達を歓迎してくれる。
その噴水を眺めながらリリーが憤慨していた。
「リリー、フードしっかりかぶって」
「ルナ、わかってるわよ。それにしてもなんで私が……」
今まで通ってきた街でわかったことだが、エルフの奴隷というのはいろいろと問題に巻き込まれやすいようだ。
それがわかったのでリリーにはフードをしっかりかぶるように言っていたのに、王都について油断したのか先程は少し緩めていたのだった。
「とにかく、ここでは落ち着いてみんなと一緒に行動すること。余計なトラブルに巻き込まれないように変なところには行かないこと。いいな?」
「なんで私に向かって言うわけ!? 子供向けの注意ならルナでしょ!!」
だってなぁ。
ルナ、いい子だし。
君みたいに気がついたらどこかにフラフラと行ってるとか無いもの。
ルナとリリーだとルナの方が大人びているように思えるくらいだ。
しっかし、これで年齢三桁とは、今までどんな暮らしを……、ああ、里に籠もってたんだっけ?
本で勉強したから知識はあるし、各種注意事項は知っているものの、身についてないんだよな。
まぁそのうち慣れるだろうけど。
「手をつないでおいたほうが良いか?」
思ったより人通りが少ないとはいえ、はぐれるとめんどくさいし。
そう思って手を差し出す。
「バカにしないでよっ! グエッけほけほ……」
「手、つなぎます」
大丈夫な方が手をつなぎ、大丈夫じゃない方に拒否されてしまった。
まぁ、注意してみとけばいいだろう。
俺もはじめての王都、遠慮せず楽しみたかったんだけどな。
まぁ仕方ないか、俺は彼女たちのご主人様なのだから……。
それにしても、東門でもこの大きさか。
振り返り門を見上げる。
正門はもっと凄いんだろうな。
もし次来る機会があれば正門から入場してみたいものだ。
「それでっ! どこから回るっ?」
腰に手を当て上目遣いで楽しそうに俺に聞いてくるリリー。
うん、すぐにでも観光したいのはやまやまなんだけどね。
君、でかける際にオスカルから注意されたこと忘れてない?
「まずは宿の確保だ」
「ええー!?」
「野宿したいなら好きにしていいぞ」
「ソレハヤダ……」
だろうな。
しかし宿を探すにもどう探せば良いのか。
この世界には宿泊検索サービスなんて無いわけで。
「主様、あの宿が良いと思います」
どうするかと考えているとルナから袖を引かれた。
どうやら彼女は事前にいろいろと調べてくれていたらしい。
う、うん。
なんかこの幼女凄いな。
俺たちなんかよりよっぽどしっかりしている。
「それじゃ行こっか」
「はい」
「はぁい……」
少し自慢げに俺の前を歩くルナを俺と不満げなリリーがついていく。
宿の名前は眠れぬ小鳥亭。
いや、寝させろよ言うツッコミは野暮なんだろうな。
そんなことを思いながら俺は門扉を抜けるのだった。




