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山田太郎は異世界を征く。  作者: すぴか
第一章 異世界は日本人には厳しいようです
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第二話 命をつなぐチカラ

 まずは現状を確認しよう。


 周りは荒野。

 持ち物は木の棒、鍋の蓋、そして手紙。

 装備は制服にスニーカー。


「うん、死ぬわ」


 さよなら異世界。

 さよなら人生。

 まぁ夢の世界だし良いよね。


「とは思えないこの渇き……」


 徐々に増してくるひりつくような喉の渇きが、この世界が現実であることを否応なく俺に突きつける。

 仮に夢だとしても、ともかく水を得たい。

 ここまで水を切実に求めたことなんて今まであっただろうか。

 蛇口をひねれば水が出る。

 そんな当たり前の世界に居た俺にはこの環境は厳しすぎる。


 立ち上がり再度見渡すが、遥か彼方に緑が点在しているだけ。

 もしかしたらそこまで行けば水があるかもしれないが、生水なんて飲んだら腹を下してしまうだろう。

 かと言って近くに町なんてなさそうだし。


「どうすんだよ……」


 途方に暮れながら手紙に目を落とす。


「ん? 裏になにか書いてある?」


 手紙の裏には、『君の初期能力(スキル)はメニューだ。念じれば使える』とだけ書いてあった。


「メニュー……?」


 能力(スキル)って、まるでゲームみたいだな。

 俺はそう思いながら苦笑する。

 馬鹿らしい、とはいえ他に当てになるものはない。

 (わら)をもすがる気持ちで頭の中でメニューと念じる。


「おお……」


 眼前に三十センチ×五十センチ程度の長方形の薄い板が現れる。

 空中に浮いたままその存在を主張していた。


「これが、俺の能力(スキル)、『メニュー』か」


 空中に浮いているメニューを手に取ると動かせるようだ。


 一度手に取ると空中に再設置はできないようだな。

 そんなことを思いながらメニューを開くと俺は息を呑んだ。


「サラダにスープ、それからサイドメニュー。飲み物は……、フリードリンクか。フォークやナイフも頼めるみたいだけど、これメニューに載せる必要あるのだろうか」


 いやいや、そうじゃなくて。

 うん、なんだろうね。

 『メニュー』を持つ手が震えてくる。


「これでどうしろっていうんだよ!!」


 違うよね、これどう考えても違うよね。

 ファミレスのメニューが単体であっても団扇(うちわ)代わりにしかならないだろ!

 大体これどうやって注文するんだよ。

 あのピッて押すボタン無いと注文できないでしょ!?


 それにフリードリンクってなんだよ。

 飲み物はあちら(異次元の彼方)にありますってか?

 ふ・ざ・け・ん・な!


 何かの間違いだろう。

 そう信じて再度メニューと念じる。

 メニューがゲシュタルト崩壊を起こしそうだが気にしない。

 そして現れるソレ。


「そうそう、これだよこれ。太陽が高くなってるし、お昼も近いもんな」


 俺はランチメニューを手に入れた!

 ……、違う、ソウジャナイ。


 ヤケになって繰り返すこと四回、今までの『メニュー』とは違うものが出てきた。


「お……? これは……!」


 タブレット端末のメニューだった。

 普通、これがあれば紙のメニューって用意しなくないか。


「あー、うん、なるほどね。……最初に出せや!」


 イライラしながらダメ元でタブレット端末のメニューを操作してみる。

 ミネラルウォーターをタップ、注文ボタンを押す。

 普段ならまず頼まないが、背に腹は代えられない。


「おお……、ようやく異世界(ファンタジー)らしく……」


 注文ボタンを押すと同時に目の前に現れるペットボトル。

 メニューを呼び出したときと同じく空中に浮いている。

 よく冷えているようで表面には水滴が付着していた。


 それにしてもはじめてのファンタジーとの遭遇が『これ』とか、泣けるね。

 一応召喚ってことになるのかもしれないけど、なんかコレジャナイ感がひどい。


 ともかく俺は宙に浮いているペットボトルを掴み、キャップを開けると勢いよく傾けた。

 カラカラの喉に流れる涼やかな癒やしは最高に美味く感じる。

 至高の一杯とはまさにこのことだ。


「ぷはっ! 美味いなっ!! それにしてもフリードリンクあるのにミネラルウォーターは別料金なのな。しかも八百円って高すぎだろ」


 あっという間に飲み干し、一息ついた俺は愚痴を(こぼす)す。

 まるでどこぞの高級レストランみたいだ。

 まぁ俺は自分の意志ではっきり注文したんだけどさ。


「ん? でもこれ会計ってどうするんだ?」


 そう思い、財布をポケットから取り出す。


「残り千六百円……?」


 制服に着替えた際に中身を確認した時はニ千円以上あったはず。

 学校の帰りにでもコンビニでお金を降ろそうと考えていたから間違いない。


「財布の中身が自動で減るってことか?」


 便利なような、怖いような。

 それに、金が尽きたらどうなるんだ。

 能力これしか無いのに、お金がなくて使えませんとかか?


 異世界に身一つで何も能力無い高校生が放り出されても、すぐに死ぬ未来しか想像出来ない。

 と言うか、俺の能力って本当にこれだけなの?

 もうちょっとこう、まともな能力欲しかったんですが。


 その後、いろいろ確認してみたが、メニューは半径二十メートル程度であれば任意の場所に出現させることができるようだ。

 ナイフやフォーク、おしぼりなんかも。

 だからなんだって言うんだけどな。


「とりあえず人がいるところを探そう……」


 最悪働いて稼ぐって方法もあるはずだし。

 もっとも、この近くに町があればの話だが。


「だけど、どこへ向かえば良いんだ……」


 とりあえず道を探さないとな……。

 道さえ見つければ、その道はどこかにつながっているわけだし。


 俺は気を取り直すと、周辺を探索することにしたのだった。

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