第十七話 勇者
「その昔、人間の勇者と名乗る連中に私達の神様、ニョルズ様が殺されたの」
ココアを飲みながらリリーがぽつりぽつりと話し始めた。
「奴らはニョルズ様たちのことを悪魔だ、魔王だと罵っていたらしいわ」
私たちからすれば奴らのほうが悪魔や魔王に思えるけど。
俯いたままリリーは吐き捨てるようにそう言った。
「まぁ、立場の違いだろうな」
「っ! でも奴らのせいで私は奴隷に!!」
奉仕種族たる人間の突如の反攻。
当初はエルフたちもどうせなにもできない、すぐに諦めると思っていたそうだ。
だが、結果は違った。
人間たちはエルフたちの弱点をよく知っていた。
「世界樹を切り倒し、森を焼き、私たちの力を奪っていったそうよ……」
エルフたちの使う魔法は精霊へ祈りを届け魔法を発現させる。
だが、精霊がいなくなれば当然、魔法は使えない。
「精霊は自然とともにある、そんなこと、当たり前過ぎて私たちはその弱点に気が付かなかったのよ」
気がついたときにはもう手遅れ。
風神ニョルズは討たれ、祝福の力が弱まったエルフと人間との力関係は逆転してしまったそうだ。
「エルフの里も、壊滅的な被害を受けたそうよ。滅びはしなかったけど、その後は……」
人間の風下に甘んじることとなってしまったと。
とはいえ、種族全体が奴隷となったわけではなく、人間が作った国とエルフの里で一応対等な関係を作り上げたそうだ。
「でも、あんたたち人間の卑劣さは私たちの想定以上だったのよ」
「なるほどなぁ」
それで人間と同じく騙されたり借金を背負ったエルフが奴隷にされてしまうと。
「ぐすっ……、こんなことならお父さんとお母さんのいうこと聞いて里からでなければよかった……」
「あー、あれだったら実家に戻るか?」
いくら実家が貴族で、奴隷になったのは家のの恥になるからといっても、自分の娘だ、受け入れてくれるのではないだろうか。
「言ったでしょ、戻れないって……」
人間の奴隷になるっていうのは、そんなに甘いもんじゃないのよ。
リリーは瞳に涙をたたえてそう呟いた。
……、普段は気丈に振る舞っているが、辛いものがあったのかもしれない。
そういうことならもう少し優しくしてやっても良いのかな。
そう思えてくる。
「あ、お替り」
「……、ほれ」
「っていうかね、エルフを奴隷にするのって人間にとってはステータスなんだからね!」
「あー、そうなの?」
「そうよ! だからもっと私を大事に扱いなさいよ! グエッ! ちょ、ちょっとなんで今首絞めたの!?」
うん、俺の勘違いだったかもしれない。
この厚かましいがこいつの素なんだ。
危ない危ない、危うく勘違いするところだった。
「すまん、手が滑った」
「手が滑ったって、あんたね!!」
「リリーうるさい。主様、ホットミルクください」
「ん、ほい。ビスケットお替りいるか?」
「ありがとうございます」
「ルナ!?」
ルナは俺からホットミルクとビスケットを受け取ると再びソファーへと戻っていく。
うーん、昨日の迫力とのギャップが凄い。
「それで、リリーはどうして奴隷になったんだ?」
「里の外を見たかったのよ!」
ちょっと外に出るつもりだけだったが、道に迷ってしまったらしい。
エルフのくせに森で迷うとは。
ともかくそこで人間の商人に出会ったのだが、最初はとても優しかったそうだ。
「それで、果物とかも貰って、私が街を見てみたいって言ったら連れて行ってくれるって言ってくれて……」
すっかり信用しきったところに、エルフが街に入るためにはこの首輪をはめる必要があると奴隷の首輪を渡されたらしい。
「ほんと人間って卑怯だわ!」
「いや、それはお前が悪いだろう」
「なんでよ!?」
なんでって言われてもなぁ。
それで素直に首輪をはめて、奴隷契約を交わすなんて頭の中にババロアでも詰まっているのかと思ってしまう。
「だってだって、街に入ったら首輪外してくれるって言ってたもん!!」
「で、奴隷契約交わすときにはその文言外されてたと」
「そうよ!」
「なんだかなぁ」
その後、この性格が祟ってかなかなか売れず、他の街へと移動する最中に飛竜に襲われ、後は知っての通りだそうだ。
「『魔法』さえ使えれば、ニョルズ様を復活させられる。そうすれば人間なんて!」
「その目処は付いてるのか?」
「……」
『魔法』は神様が用いた奇跡の力だとこいつは言っていた。
そう簡単に届くものではないだろう。
「それにその魔王が「神様!」、神様が倒されたのってどれくらい前なんだよ?」
「えっと、七百年くらい前かな?」
「大昔だな……」
「そう? まぁ人間の感覚からしたらそうなのかもね」
ん?エルフと人間では時間の感覚が違うのか?
「私たちの寿命は千年くらいあるから。特に人間から見て若く見える期間が長いから性奴隷とかには重宝されるって商人が言ってたわ。ちょっと! 変な目で見ないでくれる!?」
そう言って腕で自分の体を抱きしめ、俺を睨みつけてくる。
いや、別にそんな目で見てないし。
お前さんにそんな思いを抱くのは無理があるだろうよ。
ああ、だから売れ残ったんだよな。
「……、ところでお前の年齢聞いてなかったよな」
「レディーに年を聞くなんてデリカシーが無いんじゃないの? ってなによその顔!?」
レディー(笑)
そう思ったのが顔に出ていたのか、リリーが憤慨する。
「まぁいいわ、特別に教えてあげる。感謝しなさいよね!」
「へいへい」
リリーの年齢は、俺の十倍近くあった。
こういうのロリババアっていうのだろうか?
いや、なんか違うな。
「年相応の落ち着きを持ってもらいたいんだがな」
「ふん、まだ若いんだから問題ないでしょ」
「ソーデスネー」
お前がそう思うならそうなんだろうな、お前の中ではな!
「私は年、わかりません」
リリーを呆れて見つめていると空になった器を持って来たルナが口を挟んでくる。
「ん、ルナは仕方ないのかな」
「ごめんなさい」
「気にするなって」
そのうち獣人についても調べよう。
そう俺は心のメモ帳にメモをするのだった。




