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山田太郎は異世界を征く。  作者: すぴか
第一章 異世界は日本人には厳しいようです
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第十六話 因縁

「すまない、本当は君の戦果なのに」

「いやいや、俺はほとんど何もしてないし」


 申し訳なさそうな顔をするオスカルを見ていると逆にこちらが申し訳なくなってくる。

 俺は相手の位置と規模を教えてちょっと川を作っただけだし。


「……、君はもう少し欲を持つべきだと思うけどね」

「そうか? 人並みにはあると思うけどな」


 やれやれと言いながらオスカルはため息を吐く。


「……なぁ、太郎。君も、王都に来ないか?」

「ん、採用試験には合格したってことか?」


 やったか!?

 と思わず口に出しそうになる。

 だが、そんなフラグは建てない。

 俺はそこまで間抜けじゃないのさ。


「はは、そういうんじゃないさ」


 そもそも採用だなんておこがましい。

 オスカルはそんな事を言いながら苦笑いを俺に投げかけてくる。


 ぱーどぅん?

 い、今なんて言った?

 おこがましい?

 いやいや! おこがましくなんてないですから!

 むしろ恐縮してますから!

 それともあれか!?

 俺を雇うような愚か者は居ないって言いたいわけか?

 でも魔法使いは貴重なんだろ?

 嘘だと言ってよオスカル!!

 フラグを建てないように我慢したのに、そんなバカな……。


「ま、まぁ王都には行ってみたいとは思うし、観光で行くのも悪くないかな」


 動揺しながらもなんとかそれだけ返す。

 いや、王都に行けば他の仕事もきっとあるはずだ。

 それにオスカルと一緒なら荷馬車ではなく、ちゃんとした馬車で移動できるだろう。

 なら悪くない話、のはずだ。


「そうか、だったら来週にでも出発しよう」

「お、おぅ」


 領都ダヴォリから王都までは馬車で片道一ヶ月程度、早馬でも五日程度かかるらしい。

 ずいぶん遠いものだ。

 それにしても、戦闘からまだ一週間しか経っていないのにもう叙勲の話が届くとは魔法ってやつは凄いな。

 また、偉い人の移動は転移門を使用するのであまり問題はないらしい。


「だが、他の連中はどうするんだ?」

「今回は特別に王軍が大隊全員分の荷馬車を用意してくれる事になったんだ」


 道中は軍の宿泊施設が使えるって連中、喜んでいたよ。

 そう言ってオスカルは笑う。


 えー。

 荷馬車(地獄)で喜ぶってどんだけー。

 まぁ装備を抱えて歩くのはしんどいのはわかるけど。


「ま、王族をあまり待たす訳にはいかないっていう理由なんだけどね」

「そうなのか?」

「ああ、自国内で補給が楽とはいえ普通に行軍してたら三ヶ月近くかかってしまうし」


 ずいぶんと移動速度が遅いと思わないでもないが、テントを設営したり食事の準備を考えるとどうしてもそれくらいになってしまうそうだ。


「いつもこうだとありがたいんだけどね」

「五百人分の馬車ってなると用意も大変だろうしな」

「そういうこと。それじゃ、お茶ごちそうさま」

「おぅ、またな」


 オスカルを見送り、リビングに戻ると入り口でリリーが腕を組んで仁王立ちしていた。

 彼女の脇を抜けてルナの待つソファーに戻り腰を下ろす。


「ねぇ、前に迷い人って話したじゃない?」

「ん? そんな話したっけか?」


 後ろからかけられる声に返事をしながら膝に登ってきたルナの頭をなでた。

 あ、枝毛発見。


「したわよ! んんっ、それでさっきのオスカルの話聞いてて思ったんだけど、迷い人って勇者なのかしら?」

「さぁ?」


 俺には関係のない話だし、どうでもいい。

 まぁ異世界から召喚された云々は少し気になるところではあるけど。


「そ、それで、あんたは……、勇者なの?」

「はぁ?」


 何を言っているんだと首を倒して後ろを見ると、蒼白となったリリーと目があった。


「おい、大丈夫か?」


 流石に心配になりルナを膝からおろし、腰を浮かせてソファーから乗り出す。

 勇者とかいうのと因縁でもあるのか?

 徐々に険しくなっていくリリーの(まなじり)に浮かせた腰が引けてしまう。


「答え、て、う゛っ……、あん、たは、勇者、なの? ゲホゲホッ……」


 見てわかるくらいに奴隷の首輪が彼女の首に食い込んでいる。

 一体どうしたというのだろうか。

 気がつけば窓を開けていないのに室内に微風が吹いている。

 リリーが魔法を使おうとしているのか?


「リリー、主様から離れて」

「ルナ?」

「……」


 リリーの問が終わると同時にルナが立ち上がり、俺とリリーの間に立ちふさがる。

 耳はピンと立て、持ち上げられた尻尾は山の形となっていた。

 そんなルナを無視し、リリーが一歩踏み出そうとする。


「離れろ!」

「っ!」


 が、ルナの咆哮にビクリとなり立ち止まる。


「ルナ、落ち着け。リリーもどうしたんだ急に」


 慌てて立ち上がりルナを抱えあげた。

 いつもは抱き上げるとすぐにダランとしてリラックスするのに、今は体を固くして息を荒げている。


「あん、たが、勇、者な、ら。……殺す、わ……」


 徐々に強くなっていく風がまるで彼女の感情の強さを表しているようだ。

 今では暴風とでも表現すべき風が室内に吹き荒れている。


「いやいや待って? なんでそうなるの?」

「刺し、違えて、も……!」


 紫色に変色しかけている肌に涙が伝う。

 いや、これやばいだろ。


「させ、ないっ!!」

「ルナっ!?」


 俺の腕の中からするりと抜け出すと、どこからか取り出したナイフを構える。

 俺の指示に逆らったせいか首輪がルナの首を締め付けるのが見える。

 だが、彼女はナイフをリリーに向け構えたまま微動だにしない。


「ちょっ、二人共とにかく落ち着けって! 俺は勇者とかじゃないぞ!?」

「ほん、と、に……?」

「さっきも言ってただろうが! 俺は勇者なんかじゃない!」

「そ、う……」


 風がピタリと止む。

 そして、リリーは絨毯へと倒れ込んでいった。


「おいっ! ったく、一体何なんだよ……」

「主様、とどめを刺しますか?」

「やめてっ!?」


 なんでそんな殺伐としてるのよ君。

 リリーとは結構仲良くやってたよね?


「主様を害する者は敵です」

「お、おぅ。でもリリーは特に俺に害を与えてないからね? 大丈夫、敵じゃない、敵じゃない」


 ルナにいいつつ、自分にも言い聞かせるように敵じゃないと繰り返す。

 いや、流石に怖かった。

 うん、本当に死んだと思ったもんな。


「はぁ、とりあえずベッドに運ぼう……」

「主様……」

「大丈夫だよ、気を失ってるし」


 止めようとするルナを避けて、倒れ込んだリリーに近づき抱き上げる。

 はぁ、生まれて初めてのお姫様抱っこがこれとは。

 情けなくなってくるね。


「傷が残らなければ良いんだけど……」


 首元を見ると、奴隷の首輪が締め込んだあとが首にはっきりと残っていた。

 起きたら事情聞かないとな、めんどくさいけど。



「……」

「おはよ」


 翌朝、ダイニングで朝食後のお茶を楽しんでいると扉の向こうに気配を感じた。

 昨日の今日だ、入りづらいだろうな。

 そう考えてこちらから声を掛ける。


「早く入ってきたらどうだ?」


 一拍の間の後、扉が開きリリーがダイニングへと入ってきた。

 リビングのソファーでビスケットを頬張るルナは我関せずといった様子だ。

 そのまま椅子へと腰を下ろす。


「あんたのこと、まだ信用したわけじゃないから」


 そう言いながら俺の出したパンケーキにフォークを突き立て、口へと運ぶ。

 信用していないとか言いつつこれである。

 人のことを言う割にこいつも常識がないよな。

 毒殺されたらどうするつもりなのか。


「っ! こ、これは、その、あれよ、私を今殺すつもりなら昨日寝てる間にでも殺せただろうし! それに奴隷の首輪でいつでも殺せるじゃないの!」


 俺の生暖かい眼差しに気がついたのか、頬を染めてまくしたててくる。


「飲み物はホットミルクでいいか?」

「あ、ココアが良いわ」

「……」

「なによ……」


 別にぃ?

 なんでもないですよぉ?


「言いたいことがあるならいえばいいじゃない! 性格悪いわね!!」

「……ポンコツエルフ」

「なんですって!? ゲホゲホッ……」


 あれだけ人間のことをよく知っているのに迷い人と勇者が繋がらなかったんだし。

 それにこれまでの言動をみるとその称号がふさわしいと思うのだ。


「ほれ、ココア」

「ありがと……」


 大人しく出されたココアに口をつける。

 ともかく、話を聞かなきゃ、だなぁ。

 ああめんどくさい。

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