第十四話 説明
「太郎、これで士官は全員揃った。状況を説明してくれ」
「ああ、まずだが、敵の位置はこの辺だ。街道から徒歩で三十分程度のところをゆっくりと西に向かって進んでいる」
天幕内の机に広げた大まかな地図を指差し、説明を始める。
敵の現在地は俺たちの居る丘からは歩いて数時間程度の位置だ。
川と街道の間、草原と湿原の中間程度の環境を歩兵を中心とした部隊が進軍中。
数はおおよそ三千、魔法使いは十名程度いるようだ。
先程まではいなかった後続の輜重部隊も俺の脳内に展開されている『マップ』上に表示されている。
その数、五千……?
え、なにこれ。
半日程度の距離が離れているものの、本隊より多い輜重隊ってなんだよ。
「たしかにそこだと見つかりにくいでしょうが、一体何のために?」
ネツァク帝国は内乱で疲弊しており、大部隊を遠征させる余裕はないはずだ。
それに小競り合いは今までもしていたが、大規模戦闘など早々起こるものではない。
数年後、第四王女が帝国の皇帝に嫁ぐ予定だったが皇帝派の劣勢を受けて話が白紙に戻った今、わざわざ無理をしてまで攻めてくる理由はない。
そう将校たちが次々に疑問を口にする。
「不確定な要素だけで動くのはリスクが高いのでは?」
副長が俺に向かって怪しげな視線を向ける。
まぁ当たりまえだよな。
なんの根拠もなしにそんなことを言われても信じれるわけがない。
簡単に信じたオスカルが異常なのだ。
「副長、太郎の魔法探索の結果だ」
「しかし……」
やはりだめか。
手の内を見せたくはなかったんだが、仕方がないか。
相手には命をチップにさせるのだ。
こちらも誠意を見せる必要があるだろう。
「わかった、根拠を見せる」
「いいのか?」
気遣うような視線を向けるオスカルを横目に俺はメニューからタブレットを召喚、マップをタブレット上に表示させる。
「これは……」
「リアルタイム更新の地図みたいなものかな」
地図上のマーカーの赤が敵、黄色がどちらでもない、青が味方であると説明を続ける。
「そして、各マーカーをタップすると対象の詳細がでるってわけだ」
「幻術の類、ではないようですな……」
副長が目を見開き顔を青ざめさせる。
そして将校たちも同様だ。
「これで信じてもらえたかな?」
「あ、ああ。しかし太郎、君は一体……」
オスカルが驚愕の眼差しで俺を見つめてくる。
しかし俺の正体って言ってもなぁ。
「ダヴォリ子爵家の食客で、オスカルの友人」
「……」
「そして優秀な借金取りだ」
「はは、わかったよ、ありがとう。みんなも見たな? これで納得してくれたかい?」
見渡すと、全員動揺はしているものの納得はしたみたいだ。
少しホッとする。
俺の情報を信じてもらえないんじゃ話にならないからな。
「しかしこの動き、何を目的にしているのか……」
「うむ、進路上に目標となりうるものなど見当たらぬ」
「いや、まさか……、しかしこの輜重隊の数を考えると……」
将校の一人が青い顔をして地図を指差す。
「川沿いをこのまま三ヶ月も登り続ければ……」
「王都近くまで行けるな……」
「まさか、それまでに食料が尽きてしまうだろう。略奪をすればそこで居場所が判明……だからこの輜重隊か!」
「そんなことを本気で実行しているというのか?」
「……、奇襲はありえないところから襲うから奇襲となる」
未だ半信半疑といった様子の将校たちに向かい副長が呟く。
それで大勢は決した。
大隊は、迎撃のための行動に動き出す。
「救援を呼んで数を揃えてからあたったほうが良いのでは?」
「一戦もしてないのでは信じてくれるとは思えないな」
「それに今の王家では果たしてどの程度の戦力を揃えられるか……」
「ともかく、ダヴォリ卿に早馬を出して王都へ連絡を」
なるほど。
あまり地図読み込んでなかったから知らなかったが、王都ってあっち側なのね。
それで王都を強襲するためにひっそりと移動している可能性があると。
「とりあえずは敵の存在を信じてもらえたみたいでよかったです。それではまず斥候部隊から潰しましょう。相手の目と耳を防がないと」
「斥候部隊を潰しても魔法使いが居るのなら使い魔がいるのでは?」
将校の一人が疑念を呈する。
まぁそれは気になるよね。
「一応確認しましたが、それらしき姿はないようです」
斥候部隊は本隊の前方、徒歩で一時間くらい離れた辺りを十名程度の規模で索敵しながら進んでいるようだ。
これくらいなら上手く立ち回れば軽く潰すことができるだろう。
それも敵に気取られることなく。
「しかし、これは昼間の攻撃は厳しいですな」
「ああ、これでは手が出せない」
将校たちが難しそうな顔をして腕を組み唸り声を上げる。
川沿いに続く草原と湿原の混合地帯。
相手は二百名程度の集団を多数構成した上で長蛇の陣を取っており、先頭だけ叩いたところで後続部隊に潰されてしまう。
「仕方ないだろう。夜間、相手がテントを敷いたところを強襲しよう」
オスカルの一言に全員が首肯を返した。
実際他に手もないだろう。
相手の位置がわかるとはいえ、戦力比は一対六。
話にならない。
で、あるならば、だ。
夜まで待って相手の本陣を急襲、混乱に乗じて補給物資を奪取。
進軍能力を奪う。
これがベストだろう。
「とりあえず、兵士たちには夜まで休養を取らせよう」
「ああ、丘の影に隠れるような位置であれば相手に見つかることもあるまい」
「仮に見つかってもこちらが相手に気がついていると気づかれなければ手を出してくることもないでしょう」
話が決まると将校たちはそれぞれ兵士たちに指示を出すため、天幕から出ていくのだった。
さて、新たに得た能力はマップのタブレット表示というわけではない。
新たに得た能力、それは能力の拡張だった。
「だから、こういう事もできるわけよ」
打ち合わせのあと、日が暮れるのを待ってから荷馬車と兵士を一人借りた。
急に出てきた雲が月を隠し、暗闇が辺りを支配している。
そんな中俺達は馬車で草原をゆっくり走りながら地面からごっそりと土をそぎ取り、収納していく。
能力が拡張した結果、能力の効果範囲がおおよそ二倍程度なっているようだ。
万が一にも気付かれないように表面だけはうまく残していかなければいけないのが少し難しい。
しかし文句など言っていられない。
あとは連中が気が付かずハマってくれればいいんだけど。
「なんでもありね……」
「ご主人様、凄いです」
俺の両脇で揺られているリリーとルナがそれぞれ感想を口にする。
本来半分湿原となっているため、馬車は通れない。
だが、水分や緩んだ土を収納することで強引に道を作ることに成功していた。
「まぁな。なんでもアリってほどじゃないけどね」
当たり前だが流石に三千人もの集団相手に俺一人ではどうにもならない。
普通に連中の上へ土を落としただけじゃせいぜい巻き込めて数十人だからな。
敵を全滅させる前に弓矢とかで俺がやられてしまうのがオチだ。
ならどうするか。
簡単だ。
敵を分断してしまえばいい。
なんせ川がすぐ横にあるからな。
水は取り放題だ。
導水路の深さは二メートルもあれば十分だろう。
敵兵を直接倒す必要も、ましてや全滅させる必要なんて無いのだ。
俺たちの勝利条件は相手の撤退なのだから。
ある意味イージーな任務と言える。
とはいえ、全く危険がないわけじゃない。
なのでリリーたちには帰っておいてほしかったのだが……。
締まる奴隷の首輪に苦しみながらも帰らないという二人に俺が折れる形となったのだった。
「んじゃ収納っと」
しかしギリギリのタイミングになってしまった。
俺はそう思いながら最後の土の塊を収納、その後川を堰き止める様に再度土のブロックを出現させる。
「おー、すごいな」
俺の作った導水路に勢いよくを水が流れ込んでいく。
これならある程度の効果は期待できるのではなかろうか。




