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山田太郎は異世界を征く。  作者: すぴか
第一章 異世界は日本人には厳しいようです
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第十二話 食客と長男

「ここが俺の家?」

「結構広いわね」

「綺麗……」


 ダヴォリ卿との交渉から一時間後、俺たちは子爵家の館の一角にある離れの前にいた。


 生活基盤の確保を望んだ俺に、ダヴォリ卿の出した答え。

 それは俺を食客としてダヴォリ家に招くというものだった。

 屋敷の他に捨扶持(すてぶち)として毎年白金貨四枚を出してくれるそうだ。


「とりあえず中に入ろうか」

「うん」

「開ける」


 ルナが鍵を回し、扉を開く。

 てっきりすえた匂いでもするかと思ったが、しっかり管理が行き届いているらしくホコリすらなかった。


「ずいぶんと奮発してくれてる気がするな」


 とりあえずとリビングに向かいながら呟く。


「たしかにそうかもだけど、貴族としての体面を維持するにはカツカツじゃないかしら」

「え、そうなの?」


 俺のつぶやきを拾ったリリーの忠告に少し驚く。

 だって白金貨四枚って、約四千万円だぞ。

 それだけあれば十分だと思うんだけどな。


「私達の生活費の他にも屋敷の維持費が要るでしょ? それに使用人を雇うにもお金がかかるし」


 使用人の生活費も主人が出す必要があるらしい。

 そうすると……?


「仮に執事一人、使用人を四人としてもそれだけで白金貨二枚分は必要かな」


 その他諸々を考えると、あれ、足りない……?

 リビングに入り、大きめのソファーに腰を落ち着けながら考える。


「いや、別に使用人とか雇う必要無いんじゃない?」

「私達がいる」


 膝の上に乗ってきたルナが珍しく自己主張をしてきた。

 うん、リリーとルナもいるんだよな。


「あんたはダヴォリ子爵の食客だからね。人間の使用人がいないとなるとあのおじさんに恥をかかせることになるわよ?」


 私としてはそれでもいいんだけどとリリーが嫌らしい笑みを浮かべる。

 いや、そういう訳にはいかないだろ。

 しかし貴族ってめんどくさいな。

 俺は貴族じゃないのに食客になっているせいでそれに準じた生活をする必要があるってことか。

 ルナを胸に抱き、頭をなでながら思わず唸ってしまう。


「まぁ幸い使用人たちの紹介のあてはあるし」


 ダヴォリ卿に紹介してもらえばいい。

 そんな事を考えているとピクリとルナの耳が動き鼻をくすぐった。


「誰か来た」


 ルナがそう言うと同時に玄関の方からノックの音が聞こえてくる。

 さすがは獣人ということだろうか、耳が良いらしい。


「ああ、俺が行くよ」


 流石に子供二人に来客の相手をさせるわけにも行かないもんな。

 そう考えるとやっぱり使用人はいるか。

 そんな事を考えながら俺たちは玄関へと向かった。



「夜分遅くに失礼」

「あなた様は?」


 玄関には執事とメイドを連れた貴族然とした青年が立っていた。

 少し俺より歳上だろうか。

 どことなくダヴォリ子爵に似ている気がする。


「僕はオスカル=ダヴォリ。ダヴォリ子爵家長男、次期当主だ」

「山田太郎です。ダヴォリ卿には食客として招かれております」


 とりあえず自己紹介を交わすも、一体彼は何をしに来たのだろうか。

 そんな思いが顔に出ていたのだろう。

 彼は話を続ける。


「ああ、聞いたよ。それで少しばかり様子を見させてもらいに来たのさ」

「なるほど? とりあえず立ち話も何なのでどうぞ」

「お邪魔するよ」


 リビングに案内し、席につくとメニューを使用して紅茶を用意する。

 なお、ティーカップだけはこの屋敷に置いてあったものをリリーが準備してくれた。


「無詠唱魔法をこうも気軽に、しかもこの程度のことに、か」

「あはは……」

「僕の大隊にも魔導師がいればだいぶ違うんだが」

「大隊ですか?」

「ああ」


 オスカルさんは王軍に所属しているらしく、歩兵大隊の隊長を拝命しているそうだ。


「もっとも、僕は大尉だから大隊長心得といったところだけどな」


 オスカルさんは肩をすくめた。

 本来は少佐が勤める職だが、大隊のメンバーが獣人を中心としているため大尉が()てがわれているらしい。


「王軍ということは大隊は王都にいるんですか?」

「ん、いや、今は警戒ついでの演習でこの近くに来ていてね。普段は僕も王都近郊に滞在しているんだ」


 獣人中心の部隊だから王都への入場は許可されず、いいように使われてるんだ。

 自嘲気味に笑い、そしてため息を吐きながらオスカルさんはうなだれる。

 そんなことを初対面の俺に言ってもいいのだろうか。

 他人事ながらそんな思いが胸によぎる。


「ああ、もちろん誰にでもこんな話をしているわけじゃないよ。君なら特に問題なさそうだからさ」


 そう言って俺の膝の上、ルナに指をさす。


「猫獣人がそんなふうに懐くということは、君は獣人に対して偏見を持っていないんだろう?」

「あー、まぁ、そうですね。オスカル様も特に偏見は無いようで」

「はは、だと思ったよ。うん。あと敬語はやめてくれ、そして僕のことは気軽にオスカルと呼び捨てにしてくれると嬉しい。僕も君のことを太郎と呼ばせてもらうから」


 なんとなくこの人とは波長が合うな。

 仲良くなれる気がする。


「わかりました、いや、わかった。オスカル」

「うん。そうだ、よかったら今度うちの部隊を見に来ないか?」

「それは勧誘ってことかな?」

「まぁそんなところかな。優秀な魔導師は喉から手が出るほど欲しいしね」


 それも獣人に対して偏見のない。

 そう言うと彼は紅茶を飲み干し立ち上がった。


「明日の朝迎えに来たいんだが、いいかい?」

「ああ、もちろんだよ」


 そう言って俺たちは握手を交わしたのだった。


「ああそうそう」


 帰り際、玄関で足を止めたオスカルが何かを思い出したかのように振り返る。


「僕の従兄弟を助けてくれてありがとう。この礼はいずれ」

「それじゃ、そのうちうまい飯でもおごってくれ」

「任せてくれ、王都にはいい店がいっぱいあるんだ」


 そう言ってオスカルは帰っていった。


「オスカル、良いやつだな」


 なんせ俺に安定した仕事(国家公務員の職)を紹介してくれるというのだから。

 トントン拍子で物事が進んでて少し怖いくらいだ。


 その後、屋敷の中を物色すると、俺たちのサイズぴったりの服が用意されていた。

 一体どこで測ったんだ。

 やっぱりあの執事さんたちの仕業だよな?

 執事、恐るべし。



 翌朝、オスカルに連れられて郊外へと俺たちは向かった。

 地獄の荷馬車に再び揺られて……。

 だが、俺は以前の俺じゃない。

 気合でマップを確認しながら移動していたのだ。


「オスカル……」

「どうした? 酔ったかい?」

「かなり……」

「もうすぐ到着だから我慢してくれ」


 オスカルは鬼だった。


「おいおい、大丈夫か?」

「悪魔だろ、お前……」

「はは、慣れるまでの辛抱だよ、頑張ってくれ」

「おぅ……」


 なんとか部隊の駐屯地まで到着し、地面に突っ伏す。

 ああ素晴らしきかな、地面。

 俺は君との邂逅(かいこう)を楽しみにしていたんだ。

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