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山田太郎は異世界を征く。  作者: すぴか
第一章 異世界は日本人には厳しいようです
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閑話 獣人の奴隷

 暗い洞窟の奥深く。

 私は考えることをやめて膝を抱えていた。


 だから、松明の光が私を照らしたときもなにも考えていなかった。

 洞窟から連れ出され、久しぶりに空を見たときも特に何も感じなかった。


 変な男が、私の名前を問うてきたときも、最初は何のことかわからなかった。

 もっとも、名前なんて無いのだから質問が理解できても答えようがなかったのだが。


「……、ナイデス……」


 じっと自分を見つめる視線に根負けし、無いとだけ返す。

 それでもその変な男はいろいろと聞いてきた。

 仕方ないので何も考えずに答えていると、一緒に居た女と少し話し、急に機嫌が悪くなった。


「ひっ……」


 恐怖が体を支配する。

 痛いのは嫌だ。

 考えることをやめていても、嫌なものは嫌なのだ。


 殴られる。


 数瞬先の痛みを覚悟し、体を固くする。

 だが、その男の次の行動は予想外のものだった。

 私の前にしゃがんだかと思うと、ごめんごめんといってきたのだ。

 ごめん……謝罪の言葉だ。

 私がいうべき言葉だ。

 なのになぜ?

 混乱する頭に更に言葉が降り注ぐ。


「ルナって呼んでいいかな?」


 これは、私の名前ということだろうか?


「月って意味なんだけど、綺麗な銀色の髪の毛と何となくイメージが近い気がしてさ」


 今まで私を殴ったりしてきた奴らは、髪の色をバカにしてきていた。

 高貴な黒とは間逆な色だと。

 その高貴な黒い髪を持つ男から、綺麗な銀色の髪の毛だと。

 お月様とイメージが近いと言われる。


「ルナ……、これが私の名前……」


 これは夢なのだろうか。

 実は嘘でしたと言われるんじゃないだろうか。


「そうだよ」


 そんな不安を、目の前の男は優しく微笑んで拭ってくれた。

 この人が、私のご主人様なのだ。

 本能的にそう思えた。


 ぐ~……。


 ……。

 自分の体を殴りたい。

 なぜこのタイミングで鳴るのか。

 主様はそんな不甲斐ない私に怒ることもなく、晩御飯にしようと言ってくれた。



 少し歩いたところにあった小屋に入りると、どこからともなく主様はいい匂いのする白い丸いものと白と茶色のものを取り出した。

 プチパンと洋風ドリアというらしいが、私の意識は釘付けだった。

 一口、食べてみたい。

 だがこれはご主人様のご飯だ。

 私なんかが口をつけて良いものではない。

 そう思っていたのに、ご主人様はあろうことかこれを私たちに食べろという。

 しばし逡巡(しゅんじゅん)したものの、繰り返し食べるように促されては従わざるを得ない。

 そう自分を納得させ、思い切ってプチパンに手を出す。


 熱かった。

 でも、それ以上に美味しかった。

 気がつけばお皿の上には何も残っていなかったくらいには夢中になっていた。


 この人に、一生ついていこう。

 この生命(いのち)、燃え尽きるまでこの人に仕えよう。

 最後の一口を飲み込んだとき、そう決心した。


 が、そこで気が付き、血の気が引く。

 木箱の上にはプチパンの乗っていたお皿が二つ。

 そして洋風ドリアの乗っていたお皿が二つ。

 四つのお皿は、綺麗に空になっている。


主様(あるじさま)のご飯……」


 そう。

 私は卑しくも主様のご飯まで食べてしまったのだ。

 気にするなと言ってくれてはいるが、ハイそうですかなんて言えるはずがない。


「んー、とりあえずお替りいる?」


 ……。


 出していないだけでまだあったらしい。

 今回は良かったが、次から同じ失敗をしないように気をつけよう。

 そう私は決心するのだった。


 だが、その決心は気持ちのいいお風呂と、その後私を包み込んでくれた主様の香りに溶かされ夜の静寂(しじま)に消えていった。


 明日から、明日から……は、主様の、役にたって……、みせ、る……。

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