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山田太郎は異世界を征く。  作者: すぴか
第一章 異世界は日本人には厳しいようです
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閑話 エルフの奴隷

 なんで事になっているんだろう。

 幾度となく繰り返した自問。

 わかってる。

 私が馬鹿だったからだ。

 そして自答。


 ちょっと外の世界を見に行きたかった。

 そんな安易な考えで動いた私の行動に返ってきた結果。

 それが今私の首に掛かっている奴隷の首輪だ。


「大人しく言うことを聞け!!」

「いやっ!! グガッ……ゲホッ……」

「チッ……、せっかくいい商品が手に入ったと思ったのに。仕方ない、専門家に教育を依頼するしか無いか……」


 人間の商人に騙され、奴隷に落とされた。

 本でしっかり勉強していたのに。

 わかったつもりでいただけだった。



 だから飛竜に襲われたときも、ああ、私の命はここまでか。

 くらいにしか思わなかった。


 もし奇跡が起きて奴隷から開放されたとしても、もう実家に戻ることはできない。

 普通の家庭なら、こっそりと戻ることができたかもしれない。

 でも私の家は貴族だ。

 貴族といっても一番下の騎士爵。

 だからこそ、プライドだけは人一倍高かった両親のことを思い出す。

 それが嫌で、ちょっとした反抗のつもりだったのだ。

 そんな馬鹿な私が死ぬのは、仕方のないことなのだ。

 そう諦めがついたのだ。


 だけど、私だけ生き残った。

 生き残ってしまった。

 私を騙した商人も、嫌らしい目つきで私を見ていた護衛もみんな死んだというのに。


 でも、だからなんだというのだろう。

 動く気力もなく、食料も水もない。

 あとは飢えと乾きで死を待つだけ。

 これならいっそ飛竜に殺されたほうがマシだったかもしれない。


 気がつけば岩を背に座り込み、命がこぼれ落ちていくのを数えていた私の口に冷たいなにかが触れた。

 水?

 そう思ったときには夢中で嚥下していた。

 美味しい。

 本当に美味しかった。

 でも、その至福の時間は水を与えてくれたであろう相手を見たときに終わりを告げた。


 私に水を恵んでくれた相手はよりにもよって人間だったのだ。


「触らないで……!」


 私は叫んだ。

 もう私の命を弄ぶのはやめて欲しい。


「一体何のつもり! ニンゲン!」


 私は叫んだ。

 こいつも私にひどいことをするつもりなんだと信じて。


「倒れてたから助けただけなんだけど?」

「助けた? 私を?」


 なんの冗談?

 人間が、下等種族の人間が、奴隷の首輪なんて作るような卑劣な人間が、私を騙し奴隷にするような卑怯な人間が。

 倒れていたから助けただけ?

 馬鹿にするな!!


「ふざけないでこのっ! ウ゛グッ……!」


 思わず魔法を使って攻撃しようとしたが、その意志に反応してか精霊に願いを告げるタイミングで首輪が私の首を締め込み魔法の発動に失敗した。


 あまりの辛さに、思わず商人から呪文のように言い聞かされた言葉が口を衝く(つく)


「ゴシュジンサマ、モウシワケアリマセン……」


 悔しい。

 惨めだ。

 そんな思いで頭の中が染まる。

 こんな首輪がなければ人間なんてすぐに殺してやるのに。


「おーい、大丈夫かー?」

「奴隷相手に、いい御身分ね……」


 自分だけは安全圏に居るつもりなのだろう。

 その余裕が腹立たしい。


「下等種族の分際で! っぐ!」


 悪態も最後までつききることができない。

 そんな自分の不甲斐なさに、涙が溢れてくる。


 どうせこいつも私をモノとしか見ていないんだ。

 私を売れば、どのくらいの利益になるか。

 そんな考えで頭がいっぱいなのだろう。


 そんな風に思っていたのに、こいつから出た言葉は違っていた。


「大丈夫そうだな、じゃあ俺は行くぞ」

「え?」


 どういうこと?


「私は……?」


 私は価値のある商品(モノ)ではないのか?

 なんでこいつは私を置いていこうとしているのだろう?

 意味がわからなかった。


「連れて、行かないの?」


 自分でも、どうしてこんな事を言ったのかわからない。

 疲れすぎていて考えていたことがそのまま口に出たのだろうか。


「え、だって、だって、私、奴隷、それにエルフ……」


 何故か自分の商品価値アピールをしてしまった。

 だが、それに対する反応は無関心に近いものだった。


 腹が立つ。

 先程まで抱えていた感情とは違う腹立たしさだ。

 あんたは一体何なんだと叫べば、自らを山田太郎と名乗ってくる。

 勇者物語の見過ぎだ。

 そうとしか思えなかった。

 勇者は死ぬほど嫌いだが、夢見がちな少年までは嫌いになれない。


 見れば黒目黒髪、そして上質な黒の服。

 本に書いてあった貴族そのものじゃないか。

 貴族、それも世間知らずのお坊ちゃんなのだろう。

 なんせ奴隷に名前を尋ねてくるくらいなのだから。


 お人好しのこいつを一人で行動させれば、一体どんな事になってしまうのか。

 きっと私と同じ様に、ろくなことにはならないだろう。

 ならば馬鹿な行動をした先輩として、助けてやるのが人情というものではないだろうか。


「私も一緒に行くわ」


 仕方がない。

 ほんの少しだけ、命を助けてくれた礼をしてやろう。

 そう思って私は立ち上がった。

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