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山田太郎は異世界を征く。  作者: すぴか
第一章 異世界は日本人には厳しいようです
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第十話 捕虜

 状況を整理しよう。

 周囲にはネツァク帝国と言ったか?

 ともかくその国の騎士一人と兵士二十人程度。

 俺たちは完全に包囲され、槍を向けられている。

 マップで確認したところ、伏兵は特に無いようだ。


「余計なことはしないでくれよ? 君は殺さないが、他の者の命は保証しないからね」

「主様……、ごめんなさい……」

「……」

「クソッ……すまねぇルナ様、貴族様、こいつは無理だ……」


 リリーとルナが俺の足を引っ張っていると申し訳なさそうに下を向く。

 そしてガルさん、しれっとルナ様とか言ってるけど、あんたロリコンなのか?


 ともかく俺がマップで確認していればそんな事態も避けられたんだし気にしないで欲しい。

 荷馬車のあまりの揺れの酷さに見ている余裕がなかったとはいえ、気を緩めすぎていたかもしれない。


「それで、家名を教えてもらえるかな? じゃないと身代金の請求ができないからね。この意味、わかるだろう?」


 つまり、身代金の請求ができないのであれば俺の命の保証はできないと。

 うん、これはこのまま投降する訳にはいかない。

 だって俺貴族じゃないし、身代金の請求なんてできないし。


「……ああ、わかったよ」


 お前さんたちが俺の射程範囲内に全員いることもはっきりと。

 あんましやりたくなかったんだが、こうなっては仕方がない。

 正当防衛ってやつだ。

 ちょっとばかし痛いが我慢してくれよ?


 そう思いながら俺はすばやくメニューを召喚する。

 召喚先は連中の腕だ。


 あ、もちろん切り落としたりしないよ?

 ちょっと斬り込みを入れる程度だ。

 命の危機もないのに相手に腕なしの人生を送らせる度胸は俺にはない。


 ともかくマップと連動させ、一気に決める。


「ぐあ!?」

「がっ!?」


 武器が地面に落ちる音が周囲から響く。

 俺たちを取り囲んでいた兵士たちが武器を取り落としたのだ。


「ぐっ!? 無詠唱魔術だと!?」


 それと同時に馬上の騎士も剣を手放す。

 騎士の篭手を貫通してメニューが刺さり、血が吹き出ていた。


「そんなバカな! ミスリル製の篭手を貫通!? ……だがっ!」


 騎士は一瞬動揺したものの、左手を腰に回し短剣を抜き放とうとする。

 だがマップでじっくり確認したからな、予備武器の存在は把握済み。

 当然、剣はメニューで切断済みだ。


「な!?」

「投降してくれると助かるんだけど?」


 柄だけになった短剣に動揺を隠せない騎士に向かってメニューから召喚したナイフを煌めかせ投降を促す。


「なぜ魔導師がこんなところに!?」

「さて、なんでだろうね」


 俺も教えてもらいたいくらいだ。

 肩をすくめてそう答える。


「……、仕方ないか、いいだろう。投降しよう。貴族としての待遇をお願いするよ」

「と言っても何もないけどな」

「ポーションをよこせとは言わないが、治癒魔術を頼めないかい? 呪い(まじない)程度でも構わないのだが」


 自分で治してもいいが、捕虜の身で魔法を使うのは気がとがめるからね。

 そう言ってロロは手を軽く振る。


「んー、どうしようかね」


 魔法とやらの存在は未だわからないことが多いからなんとも言えない。

 とりあえず今のところは使えないけど、そのうち使えるようになれたらいいな。


「はは、もう戦闘は終わったんだ。手の内を隠す必要もないだろうに。存外警戒心が高いんだな」

「別にそういうわけじゃないんだが」

「せめてきれいに洗い流したいのだがね。傷口からマモンに入られてはかなわない」


 マモン、破傷風とかの隠語かな。

 意外と言っていいのかわからないが、消毒とかの概念はあるのな。


「綺麗な布と水は用意しよう、あとは各自でやってくれ」


 そう言いながら俺は水と布を召喚して渡してやる。

 ペットボトルを見ながら不思議そうな顔を浮かべる彼に治療を促す。


「ん? 数がずいぶんと多いな」

「そうか? ちょうどいいくらいだと思うけど」

「……、あぁ、なるほど、兵士たちの分も用意してくれたのか」


 いや、当然だろ?

 何を言ってるんだこいつは。

 と思ったが、兵士たちも驚きの視線を俺に向けてきた。


「いいのかい? 彼らは獣人だぞ?」

「いいから早く治療してくれ。出発できないだろ」

「……、ふっ、聞いたかお前たち、早く治療を済ますんだ」

「は、はいっ!」


 騎士、ロロは軽く笑うと兵士たちに指示を出す。

 その言葉を受けてようやく兵士たちが自らの治療を始めるのだった。



 その後、俺たちの集団は街へと向かうことになった。

 ロロたちの部隊の資金を接収したおかげで水や食料には困らない。

 収納に干し草を突っ込めば補給もほとんど不要。

 歩兵も装備はほとんど接収済みで身軽なため、軽快な足取りだ。

 食事の提供は俺が全て賄った(まかなった)のだが、ものすごくありがたられた上、一回目の食事の後からは行軍速度がぐっと上がった。

 おかげで荷馬車の上では地獄の階層が深まるばかりです。


 結果、残り三日を予定していた行程を一日短縮、二日間で街にたどり着くことができた。

 もっとも、敵国の兵士を連れてやってきた俺達が怪しまれないはずもなく、街の門前で再び兵士に囲まれることになったのだが。


 石で作られた立派な門の前で先日と同じく槍を構えた兵士に囲まれる俺たち。

 だが、焦る俺たちをよそにロロが胸を張って一歩前へと踏み出した。


「はじめまして、兵士諸君。私はネツァク帝国が騎士の一人、ロロ=ル=ロワだ。ここの彼に捕虜にされてね、今こうしているわけだ。領主のダヴォリ卿への面談は可能かな? 確認を頼むよ」


 おい、捕虜。

 もう少し捕虜らしく、ってこっちの世界だとこれが当たり前なのか?

 よくわからないな……、いや流石にないだろ。

 ないよね?


 ともかく、彼のおかげでスムーズに領主への面談ができることとなった。

 いや、する必要あったっけ?

 俺の目的は生活基盤の確保とついでに種子集めなんだけど……。


 ともかく兵士が走っていって三十分も経たないうちに領主館への案内人がやってきた。



「すごいな」


 石門を抜けると中には石造りの立派な町並みが広がっていた。

 ここがこの街のメインストリートなのだろうか。

 正面に見える大きな館、そしてそこへとまっすぐ続く石畳の左右には大きな店が門を構え、忙しそうに人が出入りしていた。

 彼らは領主の紋章が入った馬車に先導される俺たちに一瞬視線を向けるがすぐに興味をなくしたように仕事へと戻っていく。

 村の人たちとはずいぶん態度が違うんだなと思いながら俺たちは領主の館へと向かった。

 なお、捕虜のはずのロロは先導する馬車の中である。

 解せぬ。


 領主の館の前には使用人が並び、頭を下げて俺たちを出迎えてくれた。

 こんなの日本ではデパートに開店直後入るときくらいしか見ることはないだろう。


 館に一歩足を踏み入れれば、ふかふかのカーペットが足に気持ちいい。

 視線を上げると立派な階段が正面に鎮座し、ステンドガラスとシャンデリアが訪問者を圧倒する。

 これが貴族の館なのか。


「ああ、山田殿、私は着替えのために少し席を外させてもらうよ」

「着替え?」


 あっけにとられる俺にロロが続ける。


「流石に鎧姿で閣下に面談するわけにも行かないからね」

「あ、そう?」


 彼はそう言ってメイドに連れられ、別の部屋へと向かっていった。

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