3.体育会系の人間は根性がある
世間では「体育会系の人間は根性があって、社会に出てからも仕事をしっかりこなす」とよく言われている。それはある意味正しいかもしれない。
学校で一度も体育会に入らなかった私は、大人になって薬剤師として病院で働くようになった。
病院というのは常に人手不足の職場だ。風邪をひいたくらいではなかなか休むことはできなかった。ある程度まではみんな少しずつ無理して頑張って働く。しかしそれが長い間続くと、だんだん自分の身体や生活に無理がかかり退職していく。一人が辞めると残った仕事は他の人がやらなければならなくなる。そしてますます忙しくなる。そしてその忙しさが嫌になり、また次の人が辞めていく。その繰り返しだった。
その忙しさで私の疲れもギリギリの段階になってきた。その時「私は病院と患者さんのために我が身を犠牲にして頑張る」などということはしなかった。私も退職した。最後の一年間はあまりの忙しさに、テレビのニュースをきちんと見ていたはずなのに世の中で何が起こっていたのか記憶にない。そのように文科系のクラブにいた私は根性が無く、さっさと敵前逃亡をしてしまったのだ。
同じ職場に雪野さんという人がいた。雪野さんは薬局長の次に偉いナンバー2の地位にある。冬は毎週のようにスキーに行っているスポーツマンだ。その人はそんなに忙しい状況でも辞めずに残った。これもスポーツによって精神が鍛えられたためだろう。
薬局では毎日一人が通常勤務が終了してからそのまま残り、急病の人に備えるという当直がある。それは薬局長を除いた全員が交代でやることになっていた。一番偉い人は当直をしなくてもいいという暗黙のルールがあった。私が退職してすぐ、雪野さんは薬局長に続いて自分も当直のローテーションから抜いた。その分他の人の当直回数が増え、他の人はますます忙しくなった。しかし雪野さんがナンバー2と言う地位のため、誰もそれに対して文句を言うことはできなかった。
それからしばらくして、その病院で過労による自殺者が出た。