19.身の程知らず
高校時代、球子さんという友達がいた。
ある日、先生が休みで自習になった。自由時間だ。球子さんは
「inaさん、テニスやらない」
と誘ってくれた。球子さんはテニスが好きでテニス部に入っている。そんな人がなぜ私を誘ったか、多分他の人は勉強をしているので、ぼうっとしている私が誘いやすかったのだろう。
「うん、やろう」
ここで私は間違いを犯した。本来私は誰かとスポーツをすることができるような人間ではない。何かの理由をつけて断らなければならなかったのだ。気軽に返事をしたのは、私は今までテニスをしたことがなかったからだ。テニスをしたことは無かったが、テニスをしている人を見たことはある。
要するにラケットに玉を当てて、行ったり来たりすればよいのだろう。その位に甘い考えだった。
そして球子さんと向かい合ってテニスコートに立つ。
球子さんがサーブを打ってくる。
当たらない。ラケットに当たらない。
「ドンマイ」
そう言いながら、再び球子さんが打つ。
当たらない。
これを十回くらい繰り返した後、球子さんはムッとすることも怒ることもなく言った。
「それならそっちからサーブするといいよ」
なるほど、止まっている玉なら打ちやすいかもしれない。
そしてサーブを……。
当たらない。
よくテレビでやるようなボールを上に投げてそれを打つのではなく、下にバウンドさせて跳ね返った玉を打とうとしても、ラケットに当たらない。 ラケットと玉との感覚が自分の脳の中で理解されていないのだ。
そして空振りのサーブをすること数十回。球子さんは貴重な自習時間、コートの反対側にずっと立っていた。
三十分くらい空振りを続けた後、私は同級生がこちらに向かって歩いてくるのを発見。
「あ、私、疲れたから代わってもらう」
とその同級生に声をかけて、テニスの相手を代わってもらった。
それから十分くらい、球子さんはその同級生とパコンパコンと玉の打ち合いをして、やっとテニスらしきものをすることができた。
せっかくの自習時間、テニスコートに反対側にずっと立ちんぼさせてしまった球子さんに「ごめんね。私が下手で本当にごめんね」
と、ひたすら謝った。すると球子さんは
「ううん、全然大丈夫」
と、いつものようにサラッと笑って返事をしてくれた。
球子さんは、このように寛大で優しい立派な友達だった。
そして私は自分の身の程を知らず、周囲に迷惑をかけていた。




