2.徒競走
私は子供の頃から運動神経が悪く、スポーツは全てずば抜けてできなかった。徒競走はもちろんいつもビリ。
そのため、私は徒競走はできるだけ少ない人数で走る方が好きだ。例えば五人で走れば五位だが、十人で走れば十位。一度クラス全員で一斉に走ったことがあった。その時はクラス全員の中のビリ。人数が多いほど、走る遅さが目立ってしまう。
それでも一度だけ、運動会の徒競走でビリから二番目になったことがあった。一緒に走った人が途中で転んだからだ。後にも先にもビリでなかったのはその時だけで、あの日は嬉しかった。転んだ人がかわいそうとか、本当の実力ではないとかは関係ない。結果が全てだ。ビリでないというのは事実なのだから。転んだ人は私の後にゴールに入った。他人より先にゴールをするというのは、なんて気持ちの良い事実なのだろう。
例えば五人で走る時、五人ずつ並んで自分の走る順番を待つ時間がある。この時の会話は必ず
「やだ、早そうな人ばかり。私、走るの遅くて」
「私も」
こういう話になる。この時、子供心に自分はこの会話に参加してはいけないと分かっていた。なぜなら「遅い」と言っている人の中に、本当に走るのが遅い人はいない。そういう人に限ってスタートすると先頭を走り、一番になるからだ。「私、遅いの」と言う権利があるのは早く走れる人だけで、本当に遅い人は隅でひっそりとしていなければならない。だから私はいつもそういう会話が出たら何も言わず、聞いていないフリをしていた。 そして常にビリだった。
同様のことは勉強でも言える。頭の良い人ほど試験前になると
「私、全然勉強しなかったから自信ない」
と言う。そう言う人に限って成績が良い。
私は中学まではスポーツはできないが勉強はできた。高校になってから、勉強も落ちこぼれてしまったが。そのため、中学までは試験前に同級生に向かって
「全然勉強しなかった。どうしよう」
と言って試験を受けた。高校生で落ちこぼれになってからは、試験直前の友達との会話に加わらず、静かにしていた。