番外編5.飴切名人
昔、立派な漢方の師匠のところで働いていた時期があった。
その師匠は西洋医学で見捨てられて絶望した患者さんが多くやってきて、漢方の販売の他に、一時間くらい話をして、心の相談までしていた。
それは師匠が偉いのであって、私は単なる使いっ走りだ。しかし私にも一つだけ自慢できる技術があった。
師匠は普段は平気なのに、相談が長くなってくると段々咳が出るようになる。放っておくと、咳こんで話が中断したりする。
「あの咳はストレスだよね」
周囲の人はよく言っていた。真剣に話をするほど、緊張によって咳が出る。その時、私は患者さんに気づかれないように、師匠の手元にのど飴をスッと出していた。喉飴師匠に相談してもらった患者さんは、涙を流さんばかりに喜んで帰っていった。その飴を出すタイミング、そしてのど飴が大きすぎると口の中でもごもごするので、適当な大きさに切って小皿に置く、その飴の切り方。これは絶妙に上手だったと思う。私には、飴を出す下っ端としての才能が充分あったと思う。
最近、熊本議会で風邪のために喉飴を舐めながら質疑をしたら「議会に対して礼儀が悪い」と、その後8時間その議員が糾弾されたという事件があった。風邪で具合が悪い時に8時間怒られ続けたら、随分身体が辛かっただろう。もしかしたら、この議員さんにはちょうど良い大きさに飴を切り、絶妙なタイミングでこっそり飴を差し出す、私のような人材が必要だったのかもしれない。
そういえば昔、オリンピックの時に
「良い成績は出せなかったけれど、楽しく泳げたから良かった」
と発言した選手がバッシングを受けたことがあった。その数年後、良い記録を出すためにはリラックスして競技を楽しむ、という考えが主流になった。
また、サッカーでガムを噛みながらプレーをして、不真面目だとバッシングを受けた選手がいた。今は緊張をほぐすためにガムを噛むのが良い、という考えに替わっている。




