表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

一日一回○○して?

昔々ではなく、こちらも現在。

好きな人に「愛しているよ」と言われないと生きていけない女性がいました。

それは精神的なものではなくて、身体的な問題で。「愛しているよ」と言ってもらえないと彼女は泡となって消えてしまうのです。

初めの愛は両親からもらっていました。ところが大学に通うようになって一人暮らしをしてから電話越しに聞く「愛しているよ」だけでは声が出なくなったり、足が動かなくなったりと問題が発生することが分かったのです。そんな時、彼女は恋に落ちました。少し童顔だけどとても優しい心の持ち主で困った人を放っておけない同じ年の男の子。

初めは恥ずかしくて陰から見ているだけで…それから授業が一緒になったりしてだんだんと仲良くなって、なかなか言えなかったけれど、ある日彼女は勇気をだして、彼にお願いをしたのです。


ーお願いです。一日一度私に「愛しているよ」と言ってくださいー

と。

青年は恥ずかしそうに笑いながらも、それを受け入れてくれました。

それは不思議な愛の告白でした。

でも彼は毎日ちゃんと約束を果たしてくれます。

だから二人は幸せです。


もしも、王子様が自分以外の人を好きになってしまって、お姫様に「愛している」と言ってくれなくなったら…人魚姫は泡になって消えてしまいます。

それを回避するには、王子様にずっと「愛しているよ」と言ってもらうか…王子様が他人を愛した瞬間にその命をもって償ってもらうしかありません。

二人が永遠に幸せでいるには、王子様の心変わりはあってはいけない大問題。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夏澄かすみ~今日は、閏之じゅんの君と一緒じゃないんだ、珍しいね?」


「そうですね、まったくじゅん君には困ってしまいましたわ。昨晩からLINEの返信も下さらないの…どこかで何かに巻き込まれていないといいのですが…。」


「あはは、夏澄かすみってば、相変わらず心配性だねー!どうせ寝坊か何かだよ!」


「あらあら、それならば…起こしてこなくてはなりませんね、彼女さんとしては。」


私の名前は湊夏澄みなとかすみ。大学三年生、文学部。ずっと女子校にいたためか世間からはややズレていると言われることが多いのですが…皆様仲良くしてくださるので、楽しく大学生をしております。

最近、かねてより好意を抱いておりました日野閏之君に告白をしてめでたくお付き合いをさせていただくことになりました。それ以来私と閏君はいつも一緒にキャンパスライフをおくっていました。

…今日以外は。

なんででしょう、閏君は遅刻をするようなタイプでもサボタージュをするようなタイプでもない真面目な青年でいつも校門で私を待っていてくださりました。それなのに…今日は私がいくら待っていても校門に現れないのです。今日は二人とも2限目からの予定なのに…もう4限目が終わってしまいました。

まちぼうけ。


「スマホさんも眠ってらっしゃるのかしら~。」


「夏澄、いくらなんでも忠犬じゃないんだから…ここで待たなくても…冷えてきてるじゃん。」


「ダメですよ~、それですれ違いになってしまったら悲劇なので~。」


「本当に夏澄、大げさ…というか彼氏君に依存しすぎだよ、ダメだよ!」


「あらあら~、でも私は閏君からの愛がないと生きていけないので…。」


友達は明らかに苦笑いを浮かべているけれど、この言葉は嘘でも偽りでもなく本当で…実は私のお母さんはあのおとぎ話に出てくる人魚で、私はその血を半分受け継いだハーフの人魚…「水」がなくても生きていける代わりに「愛」がないとどうにも生きにくいという体質を受け継いでしまったのです。

一刻も早く…閏君から「愛しているよ」と言ってほしい…本当は昨日の夜中にその衝動がやってきて、せめてラインで言葉をもらおうと思ったのに…。


「既読すらつかないなんて…。」


だんだんと、息をするのが辛くなってきました。

だから、私はここを離れるわけにはいかないのです。すぐにでも「愛」をもらわないといけないから。


「んん…?ねぇちょっとあれ?」

「え、マジで!?ちょ、夏澄!」

「はぃ~?」

「「あれ、見て!?」」


ざわざわとしている方向に目をやると、どうやら男の方が可愛らしい幼女に抱き着かれながら通学しているようでした。それだけなら妹さんかな?微笑ましいと思うのですが、私にとっては非常にショックな光景でした。

…正確にいうと…閏君が…私の母校でもある私立セルナ学院の女子生徒にがっちりと抱き着かれながら歩いていました。


「…これは…浮気…ですか?」


「いや、夏澄そんな冷静にしている場合じゃないって!?」


「明らかにあの子小学生か何かでしょ!?警察呼ばなくて大丈夫かな!?」


我慢できなくなって私は走り出しました。そうです…こんなことで止まってはいけないのです。


「あの、閏君!おはようございます…それで色々聞きたいことはあるのですが、まずあの、早速ですが…一日一度のあの言葉を早く、私にください!!」


周りがさらにざわめいているのを感じます。


「王子様ー、この女誰なのー?」


閏君より先に抱き着いているコアラのような女の子が私に言葉を発しました。

全く同感です。あなたは一体誰ですか?


その時に私は気が付いてしまったのです。閏君の首筋と腕に…蚊に刺されたような跡が2つあることに。

そして直感的に気が付きました…この子はきっと…吸血鬼。

なんてことでしょう…私の大切な閏君が…そんな厄介なものに噛まれてしまうなんて…。

閏君は優しいから…噛みたくなる気持ちも分かりますが…私と言う先約がいるということを踏まえないなんて…いえ、私としての彼女力不足…悔やんでも悔やみきれません!


「あの…夏澄ちゃん…まず遅れて…」

「違います…そちらよりも…」


泣いてしまいそうです…あぁ、お願いだから早くアイシテイルトイッテ…。

私が飢えて乾いて消えてしまう前に…。


「…夏澄ちゃん、遅れてごめんね。愛しています。」

「な!?」

「閏君!!」


この一言があれば私はどんなに死にかけても生き延びることができるのです。

周囲の好奇の目は増していきますが、そんなの気になりません。私のことをアイシテイルと言ってくれるのならば…そしてそれが他でもない閏君からの言葉なのが大切なんですから。

理解なんて求めません。この言葉こそが私の生きる栄養素なのですから。

呼吸をするように愛を求めるのが人魚なのです。


思いっきり睨み付けてきているなじみ深い制服を着た女の子に視線を合わせます。

…やっぱり、私たち特有のハーフが受け次ぐ猫のような眼をしています。


「…はじめまして、小さな吸血鬼ちゃん…今回は体は取られてしまったみたいだけれど…心は絶対に譲らないですからね。」


「な…なんなの…あなたも…ナニかね!?」


「えぇっと夏澄ちゃん、どうしたの?そんなに楽しそうな顔して…僕まだなにも説明できてないし、なにより僕も分かってないんだけど…。」


「あらあら…うふふ、私がナニかはひ・み・つ。女の子はミステリアスな方がいいのですよ。

すぐに正体を明かしちゃうなんて…まだまだお子様だなーって思っていたのです。」


「なにをーーーー!!?このデカ乳妖怪!?」


「何言ってんの、弥美ちゃん!?」


「うふふ、デカ乳妖怪でもかまいませんよー。」


大丈夫、閏君の正妻は私なのだから、ここでこんなちびっこの鳴き声に真剣に対応する必要なんてありません。

それよりも今日は…まだ愛が足りておりません。だから…遅くなってしまった分もたっぷりと愛の言葉をもらわなくてはなりません。そのことを想像すると…私の顔は自然と緩んでしまうのです。


「とても愛していますわ、閏君!」


私がこらえきれずにそう言うと周囲は悲鳴のような歓声をあげ、吸血鬼はがるるとうなり、閏君は少し恥ずかしそうに頷きました。


私にかかった呪いを解いてくれる閏君の心は…永遠に私とともにあるのです。

だから…もう一度、アイシテイルトイッテ??

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ