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運命の血液

空に浮かぶ月が雲に隠れて見えなくなる。

辺りは真っ暗で、家々の明かりも消えてきていてとても静かな中を当てもなく走り回る。

時計はもうすぐ夜中の12時をさそうとしている。タイムリミットが近い。

急がないと…。

こんな時間帯にそれなりにか弱い高校生の女の子が一人で出歩いていること自体見つかったら厄介なのに…それでも私には出歩かなくちゃいけない理由がある。


「今日を逃したら…強制ダイエット2週間を突破してしまうの…お腹…空いたのーーー!」


小説や漫画において使い古されてもういいよ!とよくあげられるらしい属性「天使と悪魔」、「死神」…そして「吸血鬼」。

なにを隠そう、私は由緒正しい、大和撫子な吸血鬼なのだ!!

…すみません、嘘をつきました。別に由緒正しくありません。鉄血にして熱血の方とか、大きなお城で美女の首筋に噛みつく方とか…本当尊敬してます。私はなんだろう…偏食家が行き過ぎた結果吸血鬼になってしまったというか…とにかく、多くの物語に出てくるような美しく、冷酷で、残虐で…そういうタイプではありません。

身長も140センチしかなくていまだに小学生に間違えられるし、髪の毛は黒髪のパッツンの前髪で姫カット。瞳も真っ黒。これは全部人間のお母さんの遺伝。

因みに生粋の吸血鬼のお父さんは金髪碧眼、身長も185センチもあって、マントを被ると本当に吸血鬼みたい…いや、本当に吸血鬼なんだけれど…私はお父さんから「吸血鬼」としての体質だけを遺伝したのです。


さてさて、そんな私はグルメです。

美味しくないモノ、なにより嫌いな人間の血など吸いたくもありません。いりません。そんなもの飲むくらいならトマトジュース飲みます。

それが災いしました…災っています。私が好きなのはAB型のAR-の血液!もうこれだけでもレアの部類なのに、感情として相手を「好き」でないものは飲めないのです。お腹を下します。吐きます。

奇跡的にお父さんがずばりの血液型で、もちろんお父さんのことは大好きなので、ずっとお父さんの血をいただいていました…美味しかったです。

ところが、私も大きくなってきて食事の量が増えてきたために…調子に乗ってお父さんの血を吸い過ぎたら、お父さんが貧血で倒れたのです!たかが貧血と最初はみんなさほど気にせず、私も少しセーブしながら食事を続けていたのですが……それらが祟って現在入院中です。

そうなったらお母さんの血を!ともなったのですが…お母さんの血を一番飲みたいのはお父さんだから…私は決めたのです。


『運命の血液』を持つ人を見つけることを!!


…それから毎日、学校が終わってから夜中の12時まで、私はいろんな人を味見しました。

…結果、この辺りで季節外れの蚊が増えているとかなんとかニュースになっています。だって、それこそ蚊程度にしか飲めない不味さなんですもん。あんなものを大量に飲んだら…考えただけでおぞましい。

幸いなことに完璧な吸血鬼ではない私は、普通の食事からも栄養を摂取できますが…それもそろそろ限界です。常にお腹が空いた状態が2週間…目の前がくらくらするようになってきました。


「血…血ぃ…AB型…RH-の人はいずこなのーーー!?」


もう、仕方がない。最悪嫌いでもいいから血液型があってくれればいいと思うのですが、このレアな血液型を探すのがまず難しい。

今の気分としては、献血を求める札を持っている人たちに混ざって、血を集めたい…吸血鬼としてどうなのそれって感じですが…。

そんなことを考えているうちに、もう12時まで5分を切っていました!


「大変なの!時間をかけすぎてしまった…帰らないと!」


今ならぎりぎり間に合うかもしれない。家に向かって、走ろうと踵を返した瞬間でした。


「あ、あの…僕AB型のRH-なんです!」

「…へ?」

「さっき、そこで…探している声が聞こえて…もしかして家族か誰かに輸血が必要で探しているのかなって!!僕の血液って珍しいから…良かったら、使ってください!」


くりくりとした栗毛の真ん丸な目をした男の方でした。身長は私よりも大きいけれど…決して大柄とは言えません。一瞬、女の子かと思いましたが、私を引き留めるのに引っ張った手の力は確かに男性の力でした。


なんだろう…心がぎゅーーっとしました。この人だって思いました。

お腹が空いたなって思っていたのに…掴まれている腕が熱くて…そこがどきどきして…私は…私は…

あぁ…食べたい…この人のすべてを食べて…私の一部にしたい。

美味しそう美味しそう美味しそう美味しそう美味しそうオイシソウオイシソウオイシソウオイシソウオイシソウ…


私は、その男性の頬に手を添えて笑った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

僕は、もう夜も遅いから寝ようと思って、ベランダの戸締りを確認していた。

するとこんな時間に制服姿の小さな女の子が、地面にしゃがみこんでなにかを叫んでいたんだ。

断片的に聞き取れたのは「AB型」「RH-」…それは僕の血液型。日本人で一番少ない血液型の上にさらに珍しいので人口換算してみても約6250人程度にしかならないとか…。

だから僕は、自分の血液が重要なことを昔から周りに言い聞かされてきました。

こんな時間に困っているということは…家族になにかあったのかもしれない!!

それなら助けないと!!

僕は急いでアパートの階段を駆け下りて、また走り出そうとしている女の子の手を掴みました。

女の子はとても驚いていたけれど、僕の言葉を聞いて…その手を僕の頬へ…って…なんで?


そんな疑問を抱いた瞬間、隠れていた月が光を取り戻し、漆黒だった女の子の髪が…その光で月のような銀とも金ともつかない輝きを放ち始めました。僕を見つめていた瞳は、猫のように緑色になり…すごく綺麗で…僕はこの異様な光景を前に動けなくなりました。


「私は…弥美やみ、テレラ・弥美やみなの。あなたはとってもオイシソウ…私を救ってくれる王子様。やっと…出逢えたの…。」


そのまま女の子は恍惚の表情で、僕の腕に噛みついてきた。

身体から血と力が抜けていくのを感じながらも…僕は逃げ出すことができなかった。

女の子の身体があまりに華奢で…振り払ったら壊れてしまいそうで…甘い痛みを甘んじて受け入れるしかなかった。

すごく長く感じる一瞬が終わりを告げて、女の子は満面の笑みで僕を見上げて、血の付いた口を拭った。


「やっぱり…運命の血液なの…王子様は…弥美の物…もう離さないの!」


女の子がしがみついてくる。

僕にはいまだに現状が理解できていなかった。




そしてこれが僕、小さくて気も弱い大学生、日野閏之ひのじゅんのとハーフの吸血鬼、テレラ・弥美やみとの出逢いだった。

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