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坂道の話(習作)

作者: 久代 羽稀

習作です。

 そこは山道だった。少年は父親と母親の背中を押してあげていた。斜面は石ころや土塊が無数転がる荒れ地だったが、それらを脇によけてくれる父母の後ろにいた少年には何ら危険が及ばなかった。少年はそれを知らなかった。

 脇を歩く男は、随分と大変そうに見えた。両親にもそれなりの荷物があったが、二人で共有していたし、少年が背中を押していたから、あまり大変そうには見えなかった。それに対して、その男は両親よりもさらに多くの荷物を担ぎ、一人で坂を上っているのだった。たまに滑落しそうになっていたが、靴を滑らせつつ何とか耐え忍んでいた。少年は荷物を少し代わってあげたいと思ったが、何もしないでいた。思うだけで満足していた。

 やがて男の前に巨大な岩が現れた。土に半ばまで埋まっていたが、それでも男の身長より高くまでそびえる巨岩だった。男はそれに挑みかかった。坂を上り続けるには、その岩を乗り越えるしかないのだ。表面の凹凸に指をかけ、男は登り始めた。だが、頂点にたどり着く寸前で指が外れた。男は転落し、息絶えた。だが、既に成長しつつあった少年は、両親との喧嘩で忙しかったために、男の死を知らずに置き去りにした。

 しばらくすると、隣に、別の家族がやってきた。一人っ子だった少年の家庭と違って、隣の家族は両親の間に兄妹があった。少年と違って、兄は両親の間に立って、つまり両親と並んで前列を歩いていた。妹は三人に率いられているように見えた。

 だが。兄の方が少年に話しかける。彼が言うには、両親は妹を率いてはいないのだという。前に立ってはいるが、妹を引っ張っているのは自分だけで、両親は妹をかわいがるだけだと。少年はそんなものかと思っただけだったが、はたして、兄は妹に引っ張られて遅れていった。二人の両親は妹だけは助けたが、転げ落ちる兄には目もくれなかった。彼は死にはしないだろうと少年は思った。でも、もはや家族に追いつけはしないだろうとも思った。

 少年の両親は歩みが目に見えて遅くなり、痺れを切らした少年は二人を追い越した。二人の間を割って出た。だが、すぐに少年は大きな石ころを踏みつけた。バランスを崩して転倒し、両親がそれに追いついた。両親が坂道を埋め尽くす石ころを払いのけていたことを、少年は初めて知った。感謝した少年は、坂道で素材を拾い集めて台車を作り、両親をそこに乗せて自分が押した。少年は大変ではあったが、落ちるわけにいかないと思って地面を踏みしめ歩いた。やがて彼は少年から成年へと成長する。ある時から女性を隣に引き連れ、一緒に台車を押してもらった。登坂は楽になったが、かと言って駆け足にはならなかった。やがて両親はいなくなり、二人は台車を捨てた。おおよそ時を同じくして、二人の後ろに小さな子供が付き従い始めた。彼は満足を踏みしめて歩く。石ころなど、もはやどうでもよかった。


 坂道を転げ落ちた石ころは、今日も加速の末に誰かにぶつかり危害を加える。


面白いものとは自分では思っていない節が。

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