救いと懺悔
またまたシリアス。次から明るくなっていきます。
ブックマークありがとうございます。とても嬉しいです。
「「「おかえりなさいませ、旦那さま。」」」
あれよあれよと自宅から高梨家へ連れて行かれること早1時間、私はその豪邸へとたどり着いた。今世での初のお宅訪問である。十数人の使用人たちに出迎えられるという相変わらずの金持ちっぷりに感嘆しながら、個室につれられる。個室だけで私の部屋と母の部屋を合わせた位の大きさがあるんじゃないだろうか。そこでで汗をびっしょりかいたパジャマを着替えさせられた。途中、私の身体中の怪我を見て使用人が痛ましそうな顔をした後、もう大丈夫ですからねと頭をなでてくれたのが、なんとなく、じんわりときた。
「お嬢様、旦那さまがお呼びです。」
「はい、わかりました。案内をしてもらっていいですか?」
「もちろんでございます。ついてきてください。」
長い長い廊下を連れられ、そのまま客間に通される。驚いたことに、そこには螢の姿もあった。時間的にもう寝ていると思ったのに、どうしたのだろう。彼のお父さんに促されて席につく。凄くふかふかで、ついうとうとしてしまいそうだ。螢のお父さんにああいったことは日常茶飯事なのかと聞かれた。頷くと、失礼するよと袖がまくられ、痣だらけの腕が露わになる。見ている人たちの顔が険しくなった。螢は泣きそうな顔をして私の服の袖をぎゅ、と掴んだ。
「君のお父さんは止めてくれるのかい?」
「いえ、死なすなとだけ言ってあまり家には帰ってきませんね。まあ、そのおかげで母に殺されるまでは至ってないのですが。」
まあ死にかけたことは一度や二度じゃないですがね。
「使用人は、」
「彼らも我が身が可愛いですからね。」
無視するか、あるいは母に加担するかの二択だ。
「…君は」
誰か助けてくれる人はいなかったのかい。絞り出すような声でそう聞かれて、笑いたくなった。そんな人がいたなら、いてくれたならば私は、
「いたならこんな状態にはなりませんよ。」
自分で思ったよりも皮肉な声がでた。そして気がついた。もしかしたら自分は、人そのものを信用していないのかもしれない。今回の件だってそうだ。結局、私は一時的な保護を受けた後に自宅へ帰されるんだろう。そこで待っているのは悪化する虐待の日々だ。こんな助けなど、大人たちのただの自己満足でしかない。その時だけ保護して、そのあとは面倒なんて見ないのでしょう?
ゲームのファンも、前世の人々も、みんな千沙の性格が悪いと言うけれど、仕方がないじゃないか。こんな状況で助けてくれる人は誰もいなくて、唯一の安らぎであった婚約者までとられて、なお他の人間に優しくあれと言うのか。誰も自分には優しくしてくれないのに。自分には螢しかいないのに。この身体の怪我だって、家庭だって、知らないくせに。
部屋はしぃんと静まり返った。静寂がやけに耳に痛い。そんな時だった。
「ちぃちゃん、もう大丈夫だよ。」
「螢ちゃん…?」
「ちぃちゃんをいじめる人はここにはいないよ!いたとしても、僕がまもってあげる!」
ぽろり、と涙がこぼれた。ああ、私はずっと、その言葉がほしかったのかもしれない。
「いたかったねえ、つらかったねえ、…がんばったねえ。もう大丈夫、大丈夫だから。泣いてもだれもちぃちゃんをおこらないよ。」
この痛みを、辛さを、…寂しさを、分かって欲しかったのかもしれない。
螢のまだ幼い、でも暖かい手が私の頭を優しくなでてくれる。その暖かさに、また涙があふれた。何度生まれ変わっても、螢の手は暖かで優しい。
「ねむいならねてもいいよ。ちぃちゃんがねるまで、ずっと手をつないでいてあげる。」
「ほんとう?寝ても家に帰されない?」
「うん。だから、おやすみしよう?」
「うん、うん…おやすみなさい。」
そうして、私は人生で初めての大号泣の末、心地よい疲労感と眠気に誘われて眠りについた。
その日は珍しく、悪夢を見ることはなかった。
千沙が眠った後、暗い部屋で螢はその隣に寄り添うようにして座っていた。その顔はどこか悲痛だ。
「ちぃちゃん、いままでごめんね…。……今度は、ちゃんと君を守るから…、」
螢はその小さく華奢な手を握り、囁くように呟く。
千沙。大事な大事な、僕の婚約者。それなのに、いままで何度も螢が捨ててしまった女の子。垣間見る痣は、怪我は、いままでの螢自身が見なかった、見ようとすらしなかった彼女の闇。本当は彼女こそ、救われるべきであったのに。自身の罪は、愚かさは理解している。その資格がもうないことも分かっている。それでも、彼は願った。
「ちぃちゃん、ちぃちゃん……お願い、」
今世でも僕を愛して。
小さな懺悔と祈りは、夜の闇に溶けて行った。
課題が終わらなくて投稿のペースがだいぶ遅いです…。気長に待って頂けると嬉しいです。