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序章


「ガアアアアアアアアアアアアア!!!?」


 咆哮と共に、舞い上がるは粉塵、轟音。


 蕾膨らむ桜の木が、さわさわ不穏に揺れました。


 ここは京都のとある山。


 月明かりのみが支配する、人の気などない山奥です。


 そこで叫び吠えるのは、怪しい色の刀を握る、異形の者でございました。


 体長は、普通の人となんら変わりはありません。


 ですが、ボロボロになった衣服から覗く皮膚は黒く染まり、おでこからは二本の禍々しい角が生えております。


 それは紛れもない、鬼、でございました。


 鬼は叫び声を上げ終えると、唸りながらゆっくりと、視線を前に向けました。


 視線の先には一人の少女と、一匹の狐が居りました。


 少女は不思議な恰好をしておりました。 


 白い小袖に緋色の袴。いわゆる巫女装束と呼ばれるものです。


 一方、狐も存外変わった姿形をしております。体長三十センチほど。狐というには幾分丸くて小さいです。


 色合いは、夕暮れに見かける夕日と空が混ざった時のような深い紫色。額には五芒星が、巫女の履く袴と同じ、緋色で描かれておりました。


「やったこん! ようやく動きを封じたこん!!」


 狐が嬉しそうに叫びました。


 対して、巫女はまだ油断ならないといった表情をしておりました。


「こん、喜ぶのはまだ早いじゃろ。わしが言霊を唱える間、主は結界を壊されないよう鬼の動きを止めてくれ」


「了解だこん!!」


 巫女の言葉に答えた狐。その周りにうっすらと、紫色に輝く幾何学模様の陣が三個、浮かび上がってきました。


「喰らえこん!!」


 狐が吠えると、陣からバチバチバチという放電音と共に小さい稲妻が溢れ出てきました。


「アアアアアアアアアアアアア!!!!」


 稲妻を喰らった鬼は、堪らないとばかりに叫び出しました。


 その様子を冷たい目のまま見ている巫女は、小袖の垂袖をごそごそと漁り、一枚の紙を取り出しました。


 五芒星と、ミミズがのたうち回ったような字が描かれております、その紙の名は呪符。


 彼女は中指と人差し指で呪符を挟み掴みますと、額の前に持っていき、目を閉じました。


 そのままぶつぶつと、何やら呪文のようなものを呟いております。


 彼女が呟くのは、言霊。言葉に命を宿し、それを吹き込んでいるのです。


 吹き込まれたものは形を成し、意味を成し、生を宿す。


 彼女はそんな不思議な術を使役する、言霊師と呼ばれる術師の一族の一人、名は紀長麗奈。


 紀長家の、現在当主代理でございます。


「こんよ、よくやった! これで最期じゃ!」


 詠唱が終わりまして、麗奈がカッと目を見開くと、札は淡い光を放ちました。


 それは徐々に強くなり、彼女が札を空に飛ばしますと、太陽のように輝き、辺り一面を照らし出しました。


「我が“天災”の名を思い知れ……天照ッ!!」


 少女が勝ち誇ったように言ったと同時、鬼の頭上に光の輪が出来ました。


 その中心に光が集まったと思った瞬間。


 鬼と天の二方向に向かって、光が勢いよく放出されました。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!?」


 空に向かって一直線に伸びる光の柱の中、鬼が今までにない雄叫びを上げて、苦しみもがきます。


 その皮膚が一枚、また一枚と捲れ上がり、やがてすべてヒビ割れ砕け散りますと、光の下に浄化されていきました。


 光線は一分ほど続きました。


 やがて止んだ天照。


 光注いで窪んだ地面、そこを覗き込んだ狐は、ある者を見つけました。


「へ? 麗奈、あれ見てだこん」


「どうしたのじゃ? ……ん?」


 こんに言われて見てみれば、本来炭しか残らぬ場所に、横たわった青年の姿が。


 青年は傷一つ付いていないどころか、小さく寝息を立てておりました。



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