御姉様の華麗なる策略
いらっしゃいませ。
本日もご来店真にありがとうございます。
さて、では先日の続きを読ませて……いえ、本当に大丈夫ですから、遠慮なさらず。
これが私の役目でございますから。
さて、それでは、本日もお客様の胸を高鳴らせる物語の幕を開きましょう。
「ずっと、ずっと好きだった」
「え?」
「君を一目見たときから、俺の頭の中は君で埋め尽くされてしまった」
勘違いナルシス野郎のような言葉を吐きながら、きざ……情熱的で、かっこいい台詞を吐くその男は、なかなかの美男子でございました。
「付き合ってくれ」
それは、まるで映画のワンシーンのような情熱的な告白。
そのルックスと言葉で今まで、数々の少女の心を自分勝手に貪って来たであろう事は容易く想像できようございます。
「君が好きなんだ」
更にはこの男。学年的に優女様の先輩のようでございます。断り辛い事このうえないうっと……優女様としても無下に出来ない男でございました。
「ごめんなさい」
ですがそこは優女様でございます。
普通の女ならば尻込みするような状況も、欠伸が出るほど簡単だとばかりに、それはもう美しい笑みを浮かべながらはっきりと断りの返事を男に吐き捨てます。
「本気なんだ!」
「ごめんなさい」
さて、ですが何を勘違いしたのかこの男。
自分の台詞が嘘では無いと、聞いてもいない事を熱く……情熱的につげてこられます。
これには優女様も内心『黙れよ勘違い野郎』と思っていることでしょうが、そんな事は一切表情に出さず、先程の台詞を続けざまに放ちます。
「……俺じゃ駄目なのかい?」
「……本当に、ごめんなさい」
流石は優女様でございます。
顔を少し俯けて、自分も心苦しいんだとばかりに、一切の乱れなく演技をこなします。
モテル女と言う者は、この程度の事は歩くのと同じくらい慣れているのでございます。真におそろ……立派な事でございましょう。
「そうか、でも俺は諦めない。きっと君を振り向かせて見せる!」
勘違いナルシス野郎と思いきや、中々の男気を見せるイケメン男A。
そんなイケメ男Aに、周囲の野次馬のお尻がお軽そうな女達が、恋焦がれるような目を見せております。
「それでも、きっと私の答えは変わりません」
「何故そう言えるんだ!?」
しかし優女様はそこらの女共とは尻の重さが違っておられます。毅然とした態度で、何処か突き放すように言葉を告げます。さすがにございます。
そしてイケ男Aは何処か苛立ったように、しかし見るものが見れば情熱的な態度で、疑問の声をあげます。
「好きな人が居るんです」
「そっか……悔しいが、それなら俺にはどうしようもないな」
しかしそんな情熱的なイ男Aも優女様の定番のモテスキルの一つを食らっては、成すすべもありませんでした。
そして傷つきながらも無理に笑って見せる男A。
「ありがとう。時間、取らせて悪かったな」
「ごめんなさい。では」
男は一言礼を告げると、去っていく優女様の背中をお見送りになられました。
「……振られちまった、な」
そして悲しげに独り言を呟くと、お尻のお軽そうな畜生女共の群れへと歩き出していきました。
この後はきっと傷心を装って、複数の女とキャッキャウフフな事をするに決まっております。なんという事でしょう。
さて本日のお勤めが終わった優女様は、ウブな学生である男共に笑顔を振りまきながら、ご友人と教室へと御向かいになられます。
「さやちゃん。おはよう」
「おはよう秋ちゃん」
そしてそんな優女様を出迎えるかのごとく、笑顔を浮かべて挨拶をする秋様。優女様もそんなご友人へと、笑顔を浮かべて表面的には好意的に、挨拶をお返しになられます。
「今日も良い天気だね」
「うん、気持ちよくなるね」
その笑顔は、もしも優女様が心の中で『疲れてるんだよ。声出させるなよ引き立て役が!』などと思っていたとしても、きっとご友人にはわからない程自然でございました。
「あ、その本また読んでるんだね」
ふと、まるで今気付いたかのように、あざとく声を出して秋様の手の本に気付いた振りをする優女様。
そんな私だからこそ気付けた優女様の演技も、秋様はやはり気付く事は無く、ただただ微笑ましい笑顔を浮かべられます。
「うん、続きの新しいのが出たんだ」
「秋ちゃんって本当にその本好きなんだね」
「うん、主人公のサナと、幼馴染で年上のたっくんが本当に良い関係で、二人の関係がこれからどうなっていくのか気になって仕方ないんだ」
「へえ、なんだか何処かで聞いたような二人だね」
「う~ん。設定だけならよくあるからね。でも主人公のサナが凄く積極的で、何だか見習わなくっちゃって気にもなるんだ」
「そっか、なら私も見習わなきゃ行けないかな?」
「またまた~紗耶ちゃんならどんな男だってイチコロだよ」
大して興味も無いくせに、本の話を興味深そうに尋ねる優女様。
そんな優女様に嫌な顔一つせず答えた上に、笑って優女様を褒め称える秋様。
何処かの誰かとは違って本当に、心の綺麗なお嬢様でございます。そればかりにおいたわしや秋様。
私も涙を隠せません。
「あ、もうすぐ先生来るね」
「うん。また後でね秋ちゃん」
秋様のその言葉にここぞとばかりに、その場を離れて席へと向かう優女様。恐らく機を見ていたのでしょうが、そんな事はおくびにも出さず、秋様へのフォローも忘れません。さすがにございます。
「じゃあまたね紗耶ちゃん」
「ばいばーい」
「また明日」
「うん、皆またね」
授業も終わり、優女様たちの本日の学園生活も終わりを迎える頃、優女様のクラスメイト達は男女問わず優女様へと挨拶をして、帰っていかれました。
「さて私も帰ろうかな」
内心『気安く話しかけて私に労力を使わすなよ。ゴミが』などと思っているのでしょうが、そこは優女様でございます。そんな事は一切表情や仕草に出さず笑って通り過ぎる下僕候補であるクラスメイト達に愛想を振りまきながら学校を後になさいました。
「ただいまー」
「おかえり紗耶ちゃん」
ご帰宅なされた優女様をお迎えになられたのは、御姉様でございました。
「あれ?お姉ちゃんどっか出かけるの?」
「え、どうして?」
「だって、何か凄い気合の入った服装だから」
「そうかな?いつも通りでしょう?」
そう仰られるお姉様ですが、その服装はミニスカートに胸を強調された服。見るものが見れば発情して襲ってしまうような服装でございます。何という事でしょう……しかも似合っております。
「ううん。それは無いかな」
「えへへ。そ、そっかな?」
「うん」
はにかむお姉様のお姿に『かわいこぶってんじゃねえよ。ブラコンが』と内心思われていたか定かではございませんが、何処か冷めた瞳で優女様は頷いてみせました。
「あれ、そういえばお母さんは?」
「……けんくんと一緒に、友達の所に行ってる」
少し不機嫌そうなお顔で御姉様は質問に答えて下さりました。
きっとけんくん様の事がご心配なのでしょう。いくらお母様のお友達とは言え、けんくん様の愛らしさの前にはどんな行動に出るか分かりません。もしかしたらお母様の目を盗んであんなことやこんなことを! ああ何という事でしょう! おいたわしやけんくん様。
「あ~そうなんだ」
「うん」
「夕飯は如何しろって?」
「て、適当かな。紗耶ちゃんは克也君を誘って二人で食べてくるといいと思うよ。お姉ちゃんは適当に食べとくから、何も心配せず朝帰りしてきていいよ」
「……そうだね」
優女様確かにと頷きながら、何処か腑に落ちないような表情をお浮かべになられます。優女様がかっくん様に頭の弱い押しかけ女房のような行為をするのを躊躇うとは、まこと珍しい事にございます。
しかし、それほどなにか気になることがあったのでございましょう。
「……お父さんは?」
「お、遅くなるんじゃないかなー。でも紗耶ちゃんは心配せず克也君とイチャラブしてくればいいよ」
「うん、それは大丈夫。いつもラブラブだし今日も愛し合ってくるけど……でも、そっか今日はお父さん早いんだね」
流石はご姉妹であらせられますお二人。姉妹の間に隠し事など出来ないとばかりに、優女様はお姉様の隠し事をお見抜きになられました。
「そ、そんな事ないんじゃ無いかなー」
「そっか。じゃあお父さんが早かったら二人でご飯食べに行ってきたら? 私はかっくんと食べてくるから」
「紗耶ちゃん! いいの?」
「うん。別にお姉ちゃんの邪魔するつもりも無いし」
「じゃ、邪魔だなんてお姉ちゃんお、思ってないよー」
何処か疲れたような笑みを浮かべる優女様。優女様と言えど御姉様は手強いご様子でございます。
「いいよ。お姉ちゃんお父さんの事大好きだもんね」
「も、もう紗耶ちゃんったら!私は娘としてちょっと甘えたり、いちゃいちゃしたり、デートしたり、一緒に寝たりお風呂に入って洗いっこしたりしたいだけだよ!」
「……お母さんに怒られない程度にしときなよ」
「べ、別にお母さんが居ない間にお父さんを誘惑しようだなんて思ってないもん! もう、紗耶ちゃんの意地悪」
「うん、じゃあかっくんの所行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
どうやら御姉様はお父様に対して、ちょっぴり暴走しがちな愛情を持っておられるご様子でございます。いわゆるファザコンと言う奴でございましょうか……ブラコンの上にファザコンとはなんと言いますか愛が広くございますね。
「かっくーん」
「克也だって言ってんだろ。何度言えば分かるんだよ」
「もうかっくんこそ、素直になりなよ。いつもいつも照れちゃって」
かっくん様は今日もかっこよく輝いておられます。
「て、照れてねえよ」
「もう、かっくんてば素直じゃないんだから。でもそんな所も大好きだよ」
「……知るか」
「またまたかっくんも私の事好きなくせに」
「そんな事ねえよ」
「私の事大好きなくせに」
「言ってろ」
「……」
「な、なんだよ黙って」
どこか拗ねたように返すかっくんさま。そのお姿ときたら尻の軽い女どもで無くとも胸が高鳴りそうな、なんとも言えない気持ちになります。ああ、かっくん様かっこようございます。
「私の事……愛して、無いの?」
視線を下に向けて悲しげに呟く優女様。これには大抵の男はいちころでございましょう。さすがモテル女でございます。
「くっ、毎度毎度その手にゃ乗らねえぞ」
しかしそこはかっくん様。何度も優女様に騙されて来た経験からか、そこらの男共とは一味違うとでも言いましょうか、かっこようございます。
「……そっか、迷惑だったんだね」
「べ、べつに迷惑ってわけじゃねえよ」
「……でも、私の事……あいして、無いんだよね?」
「そ、それは」
「……それは?」
「俺は別にお前の事嫌いじゃねえよ」
「なら、好き?」
「そ、それは……嫌いじゃない」
「か、かかっくん!可愛いよ!かっこいいよ」
「ちょっ、おま、やっぱりだまし」
「か、かっくんほ、ほらちょっと一緒に寝よう。大丈夫怖くないから。ね?ね?」
「や、やめろ、服脱がすな!」
「はあ、はあ、大丈夫。大丈夫、問題ないから」
「大丈夫じゃねえよ!」
「はあ、はあ、お前何しに来たんだよ?」
着崩れた服を直しながら、不機嫌そうに口を開くかっくん様。かっくん様の名誉のために僭越ながら申し上げておきますと、貞操はお守りになられました。
「はっ! そうだった。かっくんが誘惑するから目的忘れてた」
「黙れ、誘惑なんてしてねえよ」
「まあまあ、それでかっくん。一緒に晩御飯食べに行こう? そしていちゃいちゃしよう? それで一緒にお風呂入って、一緒に寝ようね」
「入らねえし、寝ねえよ」
「もう、晩御飯じゃなくて私が食べたいだなんて、そ、その嬉しいけどちょっと恥ずかしいよ」
「言ってねえよ」
流石は優女様でございます。かっくん様を手のひらで動かして笑うそのお姿はあく……可愛らしいお姫様のようでございます。
「で、どうかな?」
「まあ飯くらいならいいけど」
「ありがとうかっくん。大好き」
「……言ってろ」
「じゃあちょっとお母さんに電話するね」
「ああ」
「もしもしお母さん? あのね今日は帰れないから」
「おい、待て」
「うん、かっくんと」
「まてまてまて!」
本日も優女様に振りまわされるかっくん様。おかわいそうにございます。僭越ながら私が慰めてあげとうございます。
さて、名残惜しいですが本日のお話はここまでにございます。
次回のお話も取り寄せて起きますので、是非ご来店ください。
……と、ところでですね。どこか可愛いぬいぐるみの売ってるお店を知りませんか?
い、いえいえ私では無く私の友人の友人がですね。はい。
つづく
凄い遅くなりましたが3話目です。
まだ続く予定です。
あ、あともう一つの方も少しずつ進めています。