ありえない裏切り
「申し遅れました。この街アルトマーレの領主であるアルゼン・ゲイルマンと申します。皆さん、多分混乱していることでしょうが、落ち着いて話を聞いていただきたい。まずは私の家に来ていただけないでしょうか」
俺たちは最初に召喚された広場のような場所から、そのゲイルマンと名乗る初老の男性の邸宅に案内されていた。他の木組みの家とは違い、領主の家ということで荘厳な造りになっているように見えた。
「皆さんは古の秘術を使い、この世界グローリーアースに勇者のクラスとして召喚されたのです。その理由はこの世界を今、支配している魔王ランゴルモアを倒してもらう為です。」
「おいおいオッサン、待てよ、何いってんの?なに召喚って?魔王?」青木が笑って言う。
ふむふむ、なんとなく分かるぞ。この世界は魔王が今支配しているのか。
「笑うのも致し方ありませんね。しかし、ここにいるということ事態がその証明になると思います。」ゲイルマンはそう言った。
「なるほど、つまりここは俺たちが住んでいた日本ではなく、グローリーアースという別世界であるということですか?」赤城さんは冷静にそう聞き返した。
「その通りです。」アルゼンは頷く。
「赤城さん、本気で信じるんですか!?この人がいうことを。」緑川が驚いたように聞く。
「ああ、彼が言っていることは事実だと思うよ。外を見ただろう、木組みの家なら確かに今でもヨーロッパの田舎街に行けば見れる光景かもしれないが、空を飛んでいた飛空艇はどうだ?あんなもの俺たちのいた地球に存在したか?」
「そ…それは。」緑川は言葉を詰まらせた。
やはり赤城さんは状況の把握も早かった。
「異世界から召喚された皆さん5人はそれぞれ強大な力を持ってこの世界に送られてきました。その力、私たちは“スキル”と読んでいますが、その力が今皆さんには備わっています。目を瞑り頭の中を真っ白にしてみてください。自分の力が分かると思います。」
なるほど、ここもゲームと一緒だった。プレイヤーごとにスキルというものがあり、それを使うことができるということか。
「なんだこれ?“神の盾”って浮かんできたぞ!?」青木が驚いたように言う。
「おお!!青の勇者様はこの世界最強の防御の力を授けられたようですね!神の盾はどんな攻撃も無効化する神の如き力と言われているほどです!」
「俺は“無限の魔導”と出たんですが?」緑川が続いて言う。
「5人の勇者はこの世界にきた瞬間からグローリーアースに溢れている元素を使い、魔法を使うことができます。魔力を使うときには普通の人間は精神力を消耗していきますが、緑の勇者様はその干渉を全く受けない最強の魔法蓄積力を持っているようです。大魔道士になる素質がありますぞ!」
「わ…私は大天使の治癒と出ました。」桃香まで。
「なんと!桃色の勇者様はどんな傷も癒す大回復の力ですぞ!回復の魔法の中でも世界最高の治癒の力です!」
俺も目を瞑って見た。そうすると何やらゲームのステータス画面のようなものが脳裏に浮かび上がってきた。
ステータス・黄田駿平
LV・1 HP・720 MP・300 攻撃力53 防御力40 素早さ60 運10
魔法力40
強いのか、弱いのかよく分からない。ただその下にアビリティという言葉が浮かび上がっていた。
なになに“万能の調合”。
「なにこれ。」俺は思わず口に出して言った。
「おお、黄色の勇者様は一体どんなアビリティを発現されたのですかな?」ゲイルマンが興味深そうに聞いてきた。
「あの……万能の調合だそうです」
「はは、万能の調合……ですか……。ほほ、調合……」ゲイルマンのテンションがみるみる内に下がっているような気がするんだが。
「えっーー! なんでそんな残念そうな顔になってるんすか! あれか、俺のはクソスキルなのか!?」
「だはははは!黄田お前には一番合ってるよ!」
「笑うなよぉ……青木」肩を落としながら俺は返答する。もう少しかっこいいスキルでもいいんじゃないだろうか。何よ、調合って、あれでしょ、よくある緑の液体と赤の液体を混ぜたら、より効力のある青の液体がつくれます的なやつでしょ?
「ねぇ赤城さんはどんなスキルだったんですか!」意気揚々と青木が聞いた。
「すまない。目を瞑っても皆のようにスキルが見えないんだ。少し疲れているのかもな。」
赤城さんはそう言った。
「そうでしたか、では今日はひとまず休んで下さい。多分皆さん整理がついていないと思いますので。詳しくは明日改めてお話しましょう。」ゲイルマンが席を立ち、話は一旦終わった。
俺たち5人は領主の邸宅の隣にある別館で泊まらせて貰うことになった。時間の感覚は日本とほぼ同じようで、俺たちは夜19時ごろ豪華な夕食を摂り、21時には各々案内された個室ですでに床についていた。
「本当に夢とかじゃないんだな。」それは5人一緒に召喚されたときから分かっていたが、まさか異世界とかいうものが本当に存在していたのが驚きだった。
この世界には剣や魔法を使える、そして魔王を倒す為に俺たちを呼んだってことはあれだな……。俺たちは魔王って訳のわからん奴と戦うってことなんだろう。
「どうせ異世界にきたんならもっとノウノウと過ごしたかったんだけど…」
面倒くさいなぁと思いながら俺は瞼を閉じた。
――――――――――――
早朝、領主の邸宅の洋室に集められた俺たちは衝撃の事実を聞かされた。
「えっ!どういうことだよオッサン!」青木が俺のとなりでゲイルマンに怒鳴っている。
「私にも分かりません。赤の勇者様は今朝使用人が起こしに行った時にはすでに消えていました。」ゲイルマンが言う。
「赤城さん、どうしたんだ。まさか逃げたのか…?」そう言った緑川に青木が掴みかかった。
「ふざけんな!赤城さんがそんな真似するか!!」
「じゃあどうして俺たちの前から姿を消したんだ!怖気づいたとしか…」
「んだと!!」
「朝から喧嘩するなって。」と2人を止める俺。まったく青木は短気すぎる。
「仕方ありません。旅には4人で行っていただくことになりそうです。」バツの悪そうにゲイルマンが言う。
「魔王を倒す旅ということですか…?」緑川が言う。
ゲイルマンは頷いた。
「魔王の軍はすでにグローリーアースの6割の世界を侵略しています。この空に浮かぶ飛空艦も魔王軍のものです。私たち人間が反旗を翻そうとテロを起こしたところであの飛空艦から砲撃を受けて終わりでしょう。」
あの飛んでいる軍艦は魔王側のものだったのかと今理解した。
「故に勇者様ご一行には少数精鋭で魔王のいる螺旋都市・パレスガレオンに進んでいただくことになります。」
「私だけでそんな魔王の本拠地みたいなところ行けるわけないですよ…」桃香が不安そうに言った。
「勿論、皆さんの従者としてこの世界の精鋭たちを同行させます。そして皆さんの持つスキルで魔王を倒して頂きたい!!どうか我々に力を貸してくれませんか!!」
「虫のいい話だな、おい!勝手に呼び出して魔王を倒せとはよぉ!」青木が皮肉そうにいう。
「異世界からの勇者にしか私たちにはもう頼る希望がなかったのです!どうか…どうか!!」
――――――――――
「くそっ!!」領主の邸宅をでた青木が叫んだ。
「出発は3日後の朝らしいな、それまでにこの世界の仕組みをもっと知らなけれれば…」
緑川が言う。
「うん、ほっとけないよね、この世界の人たちのこと。」そういう桃香に青木は言った。
「はっ偽善女め!」
「言えた立場かよ。最初に了承したのはお前だろ青木。」俺はそう言った。
「うっ。知るか馬鹿!流れだよ流れ!!」
「なんだよ、それ。」
4人から笑いが起きた。俺たちは久しぶりに笑ったような気がした。
―――――――――――
3日が経ち、出発の朝――――
俺たちはこの世界に見合うような服装に着替えていた。
七分丈のカーキ色のコートに中には茶色のセーター、ズボンは日本で言うジーンズのようなものを履いて、首には黒のマフラーをしている。どうやらこの国には四季というものがあり、今は真冬いうことで防寒をしてもしすぎることはないと思ったのでこの服装になった。
「4人の勇者の皆様にどうか神のご加護がありますように。」アルトマーレの協会の神父からそんな言葉をもらい、街の皆が集まる広場で送り出されようとした時だった。
広場の人ごみをかき分けて甲冑をきた兵士が息をあげて走ってきた。
「領主様にご報告!!!!」
「なにごとだ!勇者様の旅立ちの時であるぞ!!」ゲイルマンが言った。
「赤の勇者様が、魔王ランゴルモアを討伐しました!!!」
「そ…それは真か?」半信半疑でゲイルマンが兵士に聞いた。
「はい!確かです!」
一瞬、何百と集まっていた街の人々が静まり返り、そして…
「ワァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
地響きが起こったと思うほどの声が轟いた。
「すげぇ!!やっぱり赤城さんは逃げてなんかいなかったんだよ!!」青木が言う。
「ああ、疑った僕らが悪かった。本当に凄い。たった3日で、しかも一人で」緑川も続く。
「赤城さんは私たちを危険に晒さないように黙って出て行ったんだね……」桃香に至っては瞳をウルウルとさせながら感激している始末だった。
でも実際すごかった、一体どんな手をつかって魔王を倒したんだろうか。しかも赤城さんのおかげで俺たちはもう魔王を倒す必要がなくなった訳である。
赤城さん万歳と心の中で思った。
しかし街が、いや世界が歓喜に湧いていたであろう時、上空にある飛空艦に搭載されたモニターから映像と音声が流れてきた。どうやらこの世界の技術力はかなり進んでいるらしい。
「俺は赤城英治、魔王を倒した赤の勇者である」モニターに映っていたのは赤城英治だった。
「勇者様だ!勇者様の声が飛空艦に映ってるぞ!」街がざわめく。
「魔王軍は俺にひれ伏し、そして軍が支配していたこのグローリーアースの6割の領土は俺が取り戻した。」
「さすがだぜ、赤城さん!」青木が言う。
「そして…これからはこの俺、赤城英治がこの世界を支配する」
街から声が消えた。
俺たちのリーダー的存在だった赤城英治はいつもと変わらぬ表情で、そう宣言した。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
次から冒険が始まります、あと美女がでます。