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英雄戦隊ブレイブレンジャー 握手会は時給1200円

「ぐはは、英雄戦隊ブレイブレンジャーよ! お前たちのそんな力で悪魔結社バラゴスタが倒せるか!!」


「負けるか! 行くぞ!5人の力を合わせるんだ! レインボーストラーイク!!」

 テンプレ的な展開で、ブレイブレッドの掛け声とともに会場から効果音がドカーンと鳴り響いた。


「ぐわぁぁぁぁ!! 馬鹿なぁぁぁぁ!!」

煙が立ち込め悪魔結社バラゴスタはその煙に紛れ、ステージ裏にはけていった。


 アイランド遊園地のイベント広場で毎週土曜日曜に開催されるこのヒーローショーは毎回盛況である。ブレイブレッド、ブルー、グリーン、イエロー、ピンクの中の人はそのヒーローショーが終わると仕事は終わり、イベント後の握手会はまた5人とも違う人間が中に入り、子どもたちと握手をする。


 なんでも人ヒーローショーにでる役者を使ったら人件費がかかるそうで、握手会はただのアルバイトが中に入っているだけである。


 俺こと黄田駿平こうだしゅんぺいもそのアルバイトの一人でブレイブイエローの中に入っていた。臭いし、蒸れるし、着心地なんて決していいものじゃなかったが、列に並ぶ子供たちは笑顔で、こっちも下手な仕事はできないなとは思う。


 その1回目の握手会が終わり、俺たち5人は次の握手会まで休憩室で休んでいた。


「はー、この衣装くせぇんだよ。」隣にいたブルー・青木凌介あおきりょうすけが愚痴をいいながらジャスティスブルーのマスクを外した。


「たしかに。このコスチューム洗ってるんですかね?」グリーン・緑川護みどりかわまもるも同調した。


「まぁ、そういうなよ。少なくとも子供たちは俺たちが本物のブレイブレンジャーだと思って、チケットを買って来てくれているんだ。俺たちはたとえ偽物であっても、らしく振舞おうじゃないか」レッドでこのアルバイト5人のリーダー的存在でもある赤城英治あかぎえいじが言う。


「そうっすね!」青木も緑川も赤城さんによく慕っていた。実際赤城さんはいい兄貴分だと俺も思う。


「みんな飲み物買ってきたよ!」

 休憩室に5人のアルバイトの中で紅一点である桃香瑞季ももかみずきがジュースを持って入ってきた。


「ありがとう、別に良かったのに。」赤城さんは瑞季を気遣うように言った。


「ううん、気にしないでください」


 ここのアルバイトを初めて2ヶ月程だが、ある程度他の4人とも仲良くなり皆の素性もわかってきた。

 桃香と緑川は同じ大学に通う大学生でどちらも20歳、青木は21歳の役者志望で役者の勉強をしながらアルバイトで生計を立てていると言っていた。赤城さんはなんでこのアルバイトなんかをしているのかと思うほど俺から見れば優秀で、行動力もある人だった。ただあまり自分のことは話さないので、実際のところ素性はまだ分からなかった。


 俺はと言えば正直、夢も何にもない彼女いない歴23年のただのフリーターだった。

 大学は去年卒業したがどこにも就職できず、今日までバイトをつないで生活している状況だった。


「あの、そういえばこの休憩室の扉、先週くらいから変じゃないですか?」桃香が言った。


「どゆこと?」笑いながら緑川が言う。


「いや、なんかすごい重く感じるというか、何というか……。」


「ああ、それなんとなく俺も感じる。」桃香の言ったその言葉に俺も同調した。俺だけじゃなかったのかと驚いた。先週かそれより少し前から扉というより部屋全体がドンヨリと重たい感じがした。


「黄田、お前もかよ。何この部屋、幽霊でもいんの?」青木が小馬鹿にしたように言う。


「そうなのかな、本当に理由はよく分からないんだけど。」俺は言った。


そうこう話している内に2回目のヒーローショーが終わり、係員が俺たちを呼びに来た。


 2回目の握手会も粛々と進み、今日のアルバイトは終了した。休憩室に戻ったがやはり部屋の中に違和感がおぼえた。一緒に戻ってきた桃香の顔色をみてもやはり同じようなことを感じているように見えた。

 

 休憩室に置いていた荷物を持ち、更衣室に向かおうとしたときだった。


「なんだこれ? 扉が開かないんだけど?」一番最初に部屋から出ようとした緑川が言った。


「何お前まで馬鹿なこと言ってんだよ。ほら行くぞ!」青木が怒鳴るように扉に向かった。


「え?」青木が扉のドアノブを回しても扉はビクともしなかった。


「どうなってる?」赤城さんも2人がふざけていないということが分かったらしく、扉の方に向かった。


「きゃあーー!! 何よこれ!」叫んだ桃香の方に目をやると彼女の足元には光った円形状のアーチのようなものが浮かび上がっていた。こういった類のものは見たことがある。ただしゲームとかアニメの中限定だが。


 これはあれだ、魔法陣とかいうものだと思う。彼女の足元に浮かぶ魔法陣はどんどん広がっていき、3秒も経たないうちに部屋の床すべてを埋め尽くした。


 瞬間、目の前が光に包まれた。眩しすぎて目を開けることすら適わなかった。



―――――――――――

 一体どれくらいの時間が経ったかも分からなかった。ただ目を開けたとき広がっていた光景はおよそ自分たちがいる日本だとは思えなかった。


 そこは……

「おお! 黄色の戦士様が目覚めた!! 召喚は成功したのだ!!」

「これでこの国は、いえこの世界グローリー・アースは救われるのですね!!」


「黄色の戦士? グローリーアース……?」


 周りにはまるで中世ヨーロッパを思わせる石畳の地面、木組みの街々、そしてそれに溶け込むような服装の人間たち。しかし空を見上げれば景観をぶち壊すようなSFにでてくる戦艦が飛んでいた。


 そして俺の周りにはついさっきまで同じ部屋にいた赤城さん、青木、緑川、桃香がいた。ブレイブレンジャーのマスクはしていないが首から下はレンジャーの衣装のままだった。


 周りの4人は何がなんだか分からないという様子だったが、ゲーマーでオンラインゲームやアニメ視聴に明け暮れていた俺に死角はなかった。目覚めて3分くらいで状況が把握できてきた。



 これはあれだ、異世界というやつだ。


 そこに俺は召喚されたということか。しかしこのブレイブイエローの衣装で召喚されるのは恥ずかしすぎる。



最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

第2部からハチャメチャな展開になっていきます。

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