終焉を待つ・・・
今回の短編はみや様、木下秋様、憂木冷様の企画に乗らせていただき作成しました。
御三方、参加させて頂きありがとうございました。
「本気でお考えなのですか?わが神よ。」
目の前で眷属たる天使が叫ぶ。
それ程大きくない執務室なので、叫ぶ必要もないのだが、叫ばずにはいられなかったのだろう。
座した私を見下ろす形で、彼は私の計画を聞かされた。
漆黒の髪にオニキスを思わせる双眸、純白の翼とのコンストラストがいつ見ても素晴らしい。
この世界の守護神たる私の唯一の眷属にして理解者。
そんな彼の目には大粒の涙が浮かんでいる。
「ああ・・・本気だ。」
私の答えに彼は項垂れる。
彼は私の計画を聞き、悲しみに打ちひしがれているのであろう。
ぼつ・・・ぽつ、と床に黒い染みができる。
どれだけの時間が経っただろうか・・・
彼は決意の眼差しで顔を上げた。
「ならば、お供させてください。」
静かだが、有無を言わせぬ迫力。
「・・・破滅しかないのだぞ?」
ならば、その意を汲むのが、私に出来る唯一の答えだ。
「それでも我が神と共に在れるのであらば・・・」
彼の意思が変わることがないことを私は知っている。
この世界が出来てからの付き合いだ・・・
「・・・分かった。ついて来い。」
「ありがたき幸せ。」
彼は深々と頭を下げる。
それ以上語ることはもう無い。
私は立ち上がり、部屋から出ようとすれば彼も付いてくる。
私はこの、厚い忠義を嬉しくもあり、悲しくもあった。
―――――――――――
「最近、文明が停滞してんなぁ。
いっそ人種間戦争でも起こして一気に文明を動かすか?」
目の前で下界を見下ろしながら言っているのは、火の守護神たる4つの神の1神だ。
火のような真っ赤な髪に、ルビーを思わせる双眸。
巨漢ではあるが、暑苦しくはならない程度の逞しさ。
今、私は4神会議でこの世界の在りように対し、議論を交わしている。
「そのような事を簡単に言わないでください。
全ての命は創造神様の祝福を受けています。
どのような理由があろうと、命が軽んじられる発言は慎むべきです。」
火の守護神へ反論するのは水の守護神。
水色で腰まで届くつややかな髪を持ち、サファイアを思わせる双眸。
しなやかで幼さを残す少女のように見えるが、その意志の強さは残る3神をも凌ぐ。
「地の守護神もそう思いませんか?」
彼女はその力強き瞳で私を見る。
「水の守護神、彼にその問いは適しませんわ。
彼は全てに絶望している・・・
メロディーが、風に乗って流れていますの。
彼はその目に何も映さない。
彼の耳に届くのは哀しみの声。
彼には貴女の言葉でさえ、そよ風のよう・・・」
私の代わりに答えたのは、風の守護神だ。
地へ届くほど長い緑の髪、エメラルドのような双眸。
妙齢の女性のようにも、幼い少女のようにも見える外観、風のようにうつろう女性。
彼等も私と同じく、世界創成より共に在る存在。
・・・私は今、彼等を裏切る。
「風の守護神よ、そこまで言うのは酷いのではないか?」
自嘲気味に笑みを浮かべ、風の守護神へと返す。
「風は嘘をつきませんわ。
悩みがあるのなら相談に乗りますわよ?」
風の守護神は穏やかな笑みを浮かべる。
「おう?
地の守護神、悩んでいるなら言ってくれ。
世界創成からのよしみだ、何でも相談にのるぜ?」
火の守護神も私を心配するように近づいてくる。
「私も力になりますよ?」
水の守護神も慈愛に満ちた笑顔を浮かべ、近づいてくる。
「・・・そうだな。
ならば、少しだけ聞いてくれるか?」
私は俯いてそれだけを言う。
「おう、言ってみろ。
聞いて貰うだけで楽になることもあるからな。」
「何でしょうか?
お聞きしますよ。」
「地の守護神、貴方のメロディーはとても複雑・・・
何が・・・あったの?」
風の守護神は戸惑っているようだが、火と水の守護神は私のすぐ前まで寄って来た。
・・・2人か、ちょうどいい。
「ほら、早くいってみ・・・がふっ・・・」
「さぁ、どうぞお話・・・え?・・・」
2人の腹部に腕が突き刺さる。
もちろん、私の腕が・・・だ。
「な・・・にを・・・?」
「なぜ・・・?」
「すまないな・・・」
2人が私を驚きの表情で見つめる。
無理もないことだろう・・・
このような事をしても滅ぶ訳が無い。
ただ、傷が修復するまで眠りに着くだけ。
その間、世界に混乱と騒乱が起こり、創造神の怒りに触れるだけだ・・・
だが・・・私の目的は違う・・・
2人の腹部の中で手を開き、用意していた呪を起動させる。
「ぐっ!?・・・がっ!?・・・」
「きゃっ・・・あっ!?・・・」
2人の体は私の手のひらに吸い込まれるように消えて行った。
「・・・なにを・・・したんですの?」
1人残された風の守護神が顔を蒼白にし、私に問いかける。
「何って、見た通りだが?」
私は風の守護神に笑いかける。
「私達を滅ぼすなど創造神様にしか・・・いえ、創造神様ですら簡単には行えないはずですわ・・・
地の守護神、一体何をしたんですの・・・?
そして、何故笑いながら泣いているんですの!?」
風の守護神は後ずさりながら、怯えた表情を私に向ける。
「そうか、滅ぼしたように見えたか・・・
本当に滅ぼす事が出来れば・・・どれだけ救われたか・・・
安心すると良い。
地上の生物 へ封じ込めただけだ。」
私の答えに風の守護神は悲鳴のように声を荒げる。
「神を生物に封じる・・・?
何を考えて居るんですの?
そのような所業、因果律の崩壊に繋がりますわっ!!
直ぐに封印を解かないといけませんっ、このままでは創造神様に罰せられます。」
罰する・・・か
「そう・・・罰するだけだ。
それでは何も変わらぬのだよ・・・」
私はゆっくりと風の守護神へ近づいてゆく。
「ひっ・・・
地の守護神・・・何を考えているんですのっ・・・
何故、貴方からのメロディーはそんなに濁っているのですかっ?
何故っ!!・・・かはっ・・・」
それでもなお、気丈に諭そうとする風の守護神の腹部を貫き、先ほどと同じ呪を起動させる。
「直に触れて・・・分かりました・・・地の守護神よ・・・
涙を・・・拭いて・・・下さい・・・」
風の守護神も、手のひらに吸い込まれるように消えて行った。
風の守護神は最後まで私の事を気にかけて行ったか・・・
じっと手のひらを見る。
「皆・・・本当に・・・すまない。」
手のひらに雫が落ちる・・・
私はいつの間に泣いていたのだろう・・・
罪深い事だ・・・私には涙する権利などないのに・・・
「地の守護神様、準備は全て整いました。」
いつの間にいたのか、眷属の天使が私の横に立ち、全ての準備が整ったことを告げる。
「そうか、私の準備も整った・・・
・・・行こうか。」
「 はっ。」
もう一度だけ、3人が居た場所を眺め、天使とともに地上へと旅立つ。
因果を捻じ曲げ、世界の守護を担う神を力のない人間に封じ込めた。
これで良い・・・
これならば、創造神はけして我を許しはしないだろう。
―――――――――――――
「邪神様、申し訳ございません・・・
此度の自称勇者は本物でした・・・
じき、そちらへと向かうと思われます。
・・・先に滅ぶ無礼をお許し下さい・・・」
元天使、今では魔王と呼ばれる眷属から最期の連絡が入る。
あれから十数年経っただろうか・・・
これまで存った数億年よりも長かった・・・
だが、やっと来たのだ。
眷属の最期の力で我の目の前に飛ばされてきたのは、滅神の力を携えし勇者・・・
あれは?そうか・・・火の守護神を封じ込めた人間か・・・
それにこの力・・・あれなら我を滅ぼす事が出来るだろう。
創造神もなかなかオツな事をしてくれる。
とうとう・・・我を滅ぼす覚悟が出来たのだろう。
「ふはははははは、良くぞ来た勇者よ。
我こそ、この世界全ての神を消したモノ。
お前達の言う邪神だ。
この世界全てを守りたくばかかってこい。
虫ケラのように踏み潰してくれる!!」
世界の均衡のため、けして滅ぶ事の許されない私に、唯一の安らぎを与える力・・・
ふふふ、もうすぐ・・・もうすぐ・・・滅ぶ事が出来る・・・
テーマ『死ねない者の自殺(ファンタジー編)』