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フライパンで壊れた、白雪姫の世界

黒岩ユキの目が覚めたとき、そこは見知らぬ城の中だった。


石造りの床。

冷たい空気。

やけに天井が高くて、どう考えても「人が住む場所じゃない」。


「……ここ、どこ?」


現実感がまるでない。

夢にしてはやけに寒いし、頬をつねると普通に痛い。


とりあえず身を守るものが欲しくて、近くに落ちていた鉄製のフライパンを拾った。

理由は特にない。

武器になりそうだったから、それだけだ。


城の中を慎重に歩いていると、重厚な造りの扉が目に入る。


――ユキの大したことない第六感が囁く。

「……絶ぇえ対っ、開けたくないんだが……」


だが次の瞬間、見回り兵らしき二人組の話し声が聞こえてきた。

とっさに、扉の向こうの部屋へ身を滑り込ませるしかなかった。


やたらと雰囲気のある部屋だが、真っ暗で何も見えない。

この時代には電気がないのか。


とにかく灯りを――。

フライパンを強く握り、探索しようと一歩踏み出した、その瞬間。


「……誰だ?」


背後から、低い声がした。


「ぴええええええええええええ!?」


驚いて振り返った拍子に、手に持っていたフライパンが大きく振り抜かれる。


ガンッ!


鈍い音。

次の瞬間、鏡に無数のヒビが走り――


ガシャーン!


「うわぁぁぁぁぁぁぁ‼‼‼‼」


何者かの断末魔とともに、鏡は派手な音を立てて砕け散った。


「……やっばぃぃぃ‼‼」


床に散らばる破片を見つめ、思考が完全に停止する。

今、確実に「やってはいけないこと」をした気がする。


その直後、鏡の破片の影で何かが動いた。

黒い影が、床を走る。


――ネズミ?


だが、その目は不自然なほど知性を宿していた。


「器が……壊れた……」


断末魔に似た声が、確かに聞こえた気がした。


そのとき、廊下の奥から足音が響く。

重く、ゆっくりと近づいてくる気配。


現れたのは、黒いローブに身を包んだ女。

一目で分かる。


――魔女だ。


「鏡を壊したのは、お前か」


殺気が、肌を刺す。

次の瞬間には命がないと、本能が告げていた。


「ま、待って! 私は――!」


とっさに叫ぶ。


「ワタシハ、カガミデス‼」


!?


自分でも意味が分からない。

だが、魔女の動きが止まった。


「お前みたいな阿呆な顔の小娘が、あの魔法の鏡だというのか?

ならば、証拠を見せてみよ」


魔女の瞳は光を反射しない、漆黒の闇のようで――ひどく恐ろしい。


「あ、あー……この世で一番美しい者を探していませんか?

いますよね!? 白雪姫って娘がそうです‼‼

……いや、でも私的には貴方様が一番美しいです!

ほんとに! もうね、推しです‼‼」


魔女は一瞬ポカンとした後、恐ろしい顔で笑い出した。


「あはは! 本当にお前があの鏡なのだな!

そうかそうか……もう少しで消してしまうところだったぞ。

今度からは予告してから変身せよ」


「!? こっわ……よかったぁ……」


ユキは涙目で安堵する。


床のネズミが、ほんの一瞬だけこちらを見た。

――ものすごい怨嗟のこもった目つきで。


「よし、では私はその白雪姫とやらを“消す”とするか。

この世で一番美しいのは私なのだからな?」


魔女は不敵な笑みを浮かべ、毒リンゴの生産に取り掛かり始めた。


――あ‼‼‼

私、白雪姫殺害に加担してるじゃん‼‼

殺人教唆で豚小屋コースじゃん‼‼

最悪、王子の護衛に殺される⁉


めちゃくちゃ慌てた魔法の鏡(偽)は、早口でまくし立てる。


「わわわ私は貴方様に代わり、白雪姫を討伐するために変身したのでありんす‼‼

その任務、ぜひともあっちにお任せくださいませんかでしょうか!!」


めちゃくちゃな言葉遣いである。

ユキのシナプスが必死に結合した結果が、この有様だ。


けれど、鏡が壊れたことで、この世界は確実におかしくなってしまった。

元の世界に戻る方法は分からない。

このまま城にいれば、正体がばれていつ殺されてもおかしくない。


「……ふむ。では鏡よ鏡。

その白雪姫討伐の任務、貴様に命じてやろう。

失敗すれば、貴様が無きものとなると肝に銘じておけ」


白雪姫を探し、物語を正しい流れに戻す。

それしか、生き残る道はなかった。


森の奥にいるはずの、七人の小人たち。

口づけで彼女を救う白馬の王子。


黒岩ユキは、童話の知識だけを頼りに歩き出す。


フライパン片手に――

白雪姫の世界線を救うために‼‼

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