第51話 グラーノフ奪還戦 1日目 抜け穴
ヤコブは塹壕から密かに抜け出す。朝日の光が、都市を包むぼんやりとした闇を徐々に溶かし始めている。その光が届かぬ都市の地下深く、ヤコブは、グラーノフの民兵1000を引き連れ、網の目のように張り巡らされた下水道の中を進軍していた。
(モルグ平野での大戦が、今日の明朝の開始される……。だからこそ、マルクスやガイウスは、今、その戦場に気を取られているはずだ。この都市内部の警備も、必ず従来より手薄になっている)
ヤコブは、先頭に立つグラーノフの民に先導させながら、慎重に、されど、迅速に歩を進める。
「ヤコブ様、ここからは、道が二又に分かれます」
先導していた民兵が、低い声で告げる。
「右側の通路は、最短ではあるものの、主要な排水路へと繋がっていることから、帝国軍がすでに把握している可能性が高いです。しかし、左側の通路は、我々、グラーノフの民しか知らない秘密通路です」
そう言うと、民兵は左側の通路に繋がる、古く閉ざされた鉄の扉を押し開けた。
ギギー
錆びた低い音が、静かな地下道に響き渡る。ヤコブの護衛に付くゴーリキは、その軋む音に眉をひそめたが、幸いにも、地上を警戒する帝国軍の警備兵が、この地下深くの音に気づくことはなかった。
「こちらでございます。この通路は、グラーノフの民が、家畜を移動させる際に使用する地下通路でございます。この中には、飼料や牧草の貯蔵庫も保管されております」
地下道とは思えないほど、綺麗に整備された通路に、ヤコブたち、革命兵は驚く。そこは、先ほどまでのぬかるんだ泥道とは、あまりにも違う道であった。
「この道をまっすぐ行けば、ダダがいるドグマの河川域に出ます。この通路を経由して、我々は、牛馬などの家畜をアルビオン王国や他国の商船に、輸出しているのです」
「そうか」
ヤコブはそれだけ言葉をこぼすと、駆け足で民兵たちを率い、通路を進んだ。
(この通路を抜けて、無事、塹壕まで帰還できるグラーノフの民は何人いるだろうか)
ヤコブは、自分たちの理想のために、戦争の渦に巻き込んでしまった無辜≪むこ≫の民を思った。
扉の前に行き着く。
この扉を開ければ、東側の河川港に面した寂れた裏通りにたどり着くらしい。穏やかな波のせせらぎが、かすかに聞こえる。ヤコブは低い声でうなった。
「全軍、扉を開けろ。部隊は3つに展開する。俺率いる中央舞台、弟ゴーリキ率いる右翼隊、そして、現地部隊の指揮官・リキュール率いる左翼隊、にだ。無事、切り抜けて、今晩は、ドグマで豪勢な酒宴と行こうぜ」
ヤコブら、【真理の灯台】は、大きく扉を開けた。




