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第50話 グラーノフ奪還戦 1日目 市街戦

 場所は変わって、グラーノフ市街。


 ここで、熾烈な殲滅戦が始まろうとしていた。


 グラーノフが帝国軍からの攻撃を受け始めてから、すでに1週間が経過していた。帝国軍は支配したグラーノフの区域ごとに、大将クラスの将校を配備し。これにより、強固な指揮系統を誇る拠点が、都市の要所要所に形成されていた。


 この冷徹な布陣が意味することは明白であった。ゲリラ軍が、たとえ「1つの街区」を取り戻そうとするならば、その度に、大将率いる精鋭部隊を相手に激戦を交えなければならない、ということだ。


 ヤコブは、硬く生えそろった無精ひげをなぞりながら、この絶望的な状況を熟考していた。


 今、帝国軍に抑えられた都市は3都市。


 遊撃隊大将・グリーマン率いる3000が治めているのは、見渡す限り、草原が広がる広大な草原地帯・ガサガサ。ここは、ゲリラ戦を実行するには理想的な地形であるものの、同時に、もともと騎兵部隊を率いていた遊牧民であったグリーマンにとっても、最も戦い慣れた主戦場である。


 彼の頭に被るのは、巨大な馬の骨をかたどった異形の鎧。その異形が、彼の指揮官としての威圧感を増幅させていた。


 グリーマンの戦闘スタイルは、槍と短剣を自由自在に持ち替え、変幻自在に戦場を駆け巡る変則的なものだ。この予測不能な戦い方は、通常の正規軍の戦術を嘲笑うかのように、戦場での奇抜な策謀を可能にしている。


 ガサガサの東部に広がる丘陵地帯・アンテッドを治めるのは、補給部隊大将・コールスロー大将率いる2000。この部隊は、食糧や弾薬などの管理を任される、帝国軍の生命線を担う頭脳派部隊でもあるが、戦闘力も申し分ない部隊である。


 貴族中心の部隊ではあるものの、どの人物も軍事学校を優秀な成績で卒業した、生粋のエリートばかり。なによりも、謀略や奇襲に対する嗅覚が通常の部隊よりも、この部隊は遙かに鋭いのだ。


 そして、コールスローと呼ばれるこの男もまた、カール帝国の公爵・ヴァタンキューの六男であり、王位継承権もを持つ血族の一人であった。幼少の頃から武術の英才教育を受け、その一つ一つに類いまれない才を発揮した傑物であり、その筋骨隆々としたその見た目からは想像できないほど、緻密な戦略を立てる知将である。


 ヤコブが命じた奇襲が成功を収めなくなってきているのも、このコールスローという男の存在があればこそ。このアンテッド丘陵地帯は、帝国軍の物資を守る鋼の頭脳によって、厳重に警備されているのだ。


 そして、ガサガサの北部の河川域・ドグマを統治するのは、工作部隊大将・ダダ率いる5000の集団だった。


 彼らは、残虐な拷問や非人道的な行為を平然と行う、無法者集団。カール帝国の暗部、すなわち汚れ仕事を担ってきたこの部隊は、帝国内で投獄されていた凶悪な犯罪者を集めて構成されており、その規律は、恐怖と暴力によって維持されている。


 その非道な部隊を圧倒的なカリスマ力で統制しているのが、ダダと呼ばれる男であった。


 彼の過去は、闇そのものだ。もともとはカール帝国のマフィアであったが、ボスの娘を強姦した上、その身体をバラして食べたという、正真正銘のサイコパスである。しかし、彼はその凶行を機にマフィアから追放されるも、冷酷な判断力で瞬時に犯罪組織を作り上げ、自身が過去に所属していたマフィアを壊滅させた。その後、革命を企てるガイウスと裏社会で出会い、武器などを裏ルートで供給するなど、現カール帝国の体制を作り上げた影の立役者の一人である。


 ヤコブは、決意を込めて、自らの髪をかきあげた。


「さてと。帝国軍は、リアムとの戦いで、こっちにまで集中できねえはずだ」


 彼の眼光が、暗い塹壕の奥で鋭く光った。


「奴らの指揮系統が混乱し、最も手薄になっている今。俺たちが、都市内部から攻勢を仕掛けるのなら、これしかない。ゴーリキ」


 無言で、ゴーリキはうなずくと、新しい棍棒を握りしめる。


「目指すは、ドグマ、サイコ野郎共が居座る拠点だ! 仲間たちの仇を、俺たちの手で取ってやろうじゃねえか」

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