第46話 大戦前夜
「リアム王子、戦線は革命派により、かろうじて維持されています。バルバロッサ海域・グラーノフに配備された帝国軍は、彼らのゲリラ戦によって、苦戦を強いられているようです」
「そうか、報告ありがとう」
兵士の報告を受け取った俺は、深くうなずき、静かに謝意を告げた。
革命派。
王都周辺を荒らし回る彼らは、武力を持つ、最も制御しづらい勢力の1つだった。彼らのエネルギーが国内の王権打倒に費やされれば、王国は内側から崩壊してしまう。だが、もし、その暴発寸前の力を、帝国軍という共通の敵にぶつけることができれば……。
帝国軍は、革命派という予期せぬ狂犬の噛みつきを受けて、疲弊する。そして革命派も、帝国軍の鉄槌によって、その数を激減させるだろう。
王国軍の兵力をできるだけ温存し、なおかつ二つの制御不能な敵を相殺させる。これが末席王子の、自堕落な勝ち方だ。
俺はふっと笑みをこぼした。野営テントのランタンが、ぼんやりと灯りを揺らす。
三万の兵を率いる大将として、俺は最前線へと送り出された。表向きは、失地グラーノフ回復という大義。だが、その実態は、政治的な不満分子であり、王宮の秩序を乱す俺を、前線で消費するための布石だった。
今回の宦官との政争-マムシと呼ばれたユスタキウスが失脚に追い込まれた一見で、他派閥の長たちも、俺の苛烈さと周到な計算にようやく気づいたのだ。
中でも、ユスタキウス投獄後の宦官をまとめ上げた女・ミハエルは、俺への警戒を最大限に強めていた。
(政治的な不満分子は、戦場で栄誉ある戦死を遂げるのが、最も都合が良い)
ミハエルはそう判断し、今回の戦線派遣の大将に、あえて俺を推挙したのだ。総大将である俺に三万の兵という権限を与え、最も危険な戦場へと突き落とす---巧妙かつ冷酷な一手。
だが、その一手により、俺はやっと自由な行動ができるようになった。
「エリアス、周辺国との交渉を任せる。あれを渡してほしい」
「了解だ」
「カイン、この一連の騒動で、カール帝国と内謀する革命勢力が分かった。内部に潜入して、破壊工作を行え」
「了解した」
腹心二人にそれぞれ密命を降すと、俺は卓上に広げた軍用地図を睨み付けた。テント内のランタンの光が、紙面に描かれた地形図と、グラーノフ周辺の赤い標識を照らし出す。これからグラーノフで起こるであろう戦争は、熾烈を極めるであろう。
俺は一人になった暗室で、魔剣を引き抜いた。その刀身に映りこんだ自身の顔は、覚悟を決めた男の顔であった。




