第40話 第一次バルバロッサ海戦
カール帝国海軍提督・ボロディン。
船艦【白鯨】の艦橋から、眼下で炎上する港湾都市バルバロッサを見下ろしていた。都市の守備隊はすでに撤退し、ほとんどの市民が都市を去ったあとだ。轟々と燃え盛る都市の廃墟を眺めながら、ボロディンはくわえた葉巻に火を灯し、しわだらけの目を細めた。
陸軍・空軍ともに、他の攻略目標にいたっても、目立った抵抗があったという報告は入っていない。あまりに順調すぎる戦況に、なにか不穏な予感が募る。
ふと空を見上げると、灰色の重い雲が海上を覆い始めていた。洋上の波も荒さを増し、艦隊を揺らし始める。嵐の予兆だ。
ボロディンは葉巻を灰皿に押しつけると、全艦隊に命令を告げる。
「各隊、港に船を一時、避難させるぞ」
ボロディンは【白鯨】を港岸に接近させた。巨大な純白の船体が、焼け落ちたバルバロッサの岸壁へと威圧的に迫る。
わずかばかりに都市に残った市民たちは、その巨体を前に恐怖に支配され、悲鳴を上げた。彼らの瞳には、もはや戦う意欲どころか、生きる希望さえも残されておらず、ただただ底なしの絶望が映し出されていた。
ドーーーン
爆音。
ボロディンは後方を振り返る。
自身の艦隊の一翼・重巡洋艦が一隻、その分厚い装甲に風穴を開けて、傾き始めている。艦隊からは黒煙が上がり、急速に沈下している。
「どういうことだ……!?」
ボロディンは、周囲の広大な海を見渡す。敵は見当たらない。
ドーーーン
ドーーーン
彼は事態の深刻さを悟る。補給艦に次々と打ち込まれていく爆撃。その下方。水面下から、不快なソナー音。
「潜水艦だ。それも複数--群れでいる!!」
水線下の船体構造が容赦なく破壊され、轟沈した重巡洋艦に続き、別の駆逐艦も大きく傾き始めた。
「応戦するぞ、対潜ミサイルの準備をしろ!!」
油断していたとはいえ、ボロディンは、カール帝国の海軍大将。
彼は即座に頭を切り替え、応戦体勢に移行し、水面下に向けた爆雷と対潜ミサイルを集中投射する。やがて、遠方で数隻の潜水艦の残骸が、黒い油の帯とともに海面に浮き上がってきた。分厚い船体には無数の穴が開き、黒煙を上げている。群狼を駆逐した。
だが、ボロディンは不穏な気配を感じていた。落ち着かない様子で、葉巻に再度火を灯す。ボロディンは、何もない岸壁を、鋭い眼光で睨みつけていた。
◇◆◇◆
「ナルニア様。奇襲は成功した模様です」
報告を受けたナルニアは、船室の暗がりの中で歯をみせて、歪んだ笑みを浮かべた。リアムは、【黄金の天秤】に潜水艦を無料で支給していた。
(『バルバロッサを治める上で必要になると思うから』、だったっけ……)
ナルニアは立ち上がる。
「さてと、少しずつ削っていこうか。ゲリラ戦は革命の基本戦術だ」




