第33話 密書
「失礼します」
「な、な、リアム王子!?」
俺は宦官長・ユスタキウスの言葉を無視して、ゆっくりと国王アルフレッドのもとまで歩を進めた。
「今日の会議、遅れてしまい、申し訳ありません」
「よい、息災だったか?」
あたりのどよめきとは違い、冷静沈着なアルフレッドは、威厳のある声で言った。さすがは、腐っても国王。
俺は、アルフレッドの目をまっすぐ見て、返す。
「はい。任務の途中で襲撃にあいまして、生死のふちをさまよっておりましたが、運良く命は助かることができました」
「そ、そうだったのですね。それはご無事でなによりです」
ユスタキウスはやや冷静を欠いた状態ではあるが、この短時間でもう落ち着きを取り戻しつつある。俺は、ロデリックに目をやった。今のうちに、切れるカードを切っておく、か。俺は、アルフレッドに向けて、【真理の灯台】との交渉の成果報告を始めた。
「【真理の灯台】との交渉は、成功しました。しかし、彼らの勢力の多くは、アルビオン王国の歴史、特に内乱期の歴史を疑問視しています」
「ほう、それはなぜだ?」
俺の嘘を見透かすように、アルフレッドは言葉を発した。【真理の灯台】や他の革命勢力は、方便として、これらの事情を使っているだけ。根本的な問題は、この国の深刻な経済低迷だ。国王アルフレッドは、それが分からない男ではない。
現に【真理の灯台】の中でも、武闘派路線を取るヤコブ・ゴーリキ兄弟は、内乱期の歴史の一部が書かれた密書より、実務的なものを要求してきた。【真理の灯台】のような、貴族主義的な意識の強い革命集団でさえそうなのだから、革命組織を通して、実利的なものを求めている傾向があることは、言うに難くない。
俺はアルフレッドの目をまっすぐ見て、はっきりとした口調で言葉を続ける。
「彼らは、歴史が不透明なまま進んでいる現状を嘆いているのです。だから、このアルビオン王国の内乱期の歴史、特に賄賂が横行し、経済低迷が始まった頃の歴史を、世間に公開しようではありませんか」
「そ、それは!?」
「なるほどな」
ユスタキウスの動揺と、アルフレッドの相槌がかぶる。
俺は、国王アルフレッドに、遠回しにこう告げたのだ。
「内乱期に急速に成長した宦官が、我が国アルビオン王国の経済低迷の一助になっています。この機にユスタキウスを失脚させ、宦官派の力を大幅に削いではいかがですか?」と。
「しかし、そうは言っても、それにはユスタキウス・ロデリック両名の許可がいる。それは取ったのか?」
「あぁ、すでに私とユスタキウスの許可は済んでいる」
ロデリックが落ち着き払った声で、声を発する。彼は息子・ドラコを側に呼び、ロデリック・ユスタキウス両家に保管されていた密書を持ってきた。
「この密書には内乱期の歴史と、その真実が記されている。ここで読み上げようではないか」




