第21話 裏取引①
リアムと別れた腹心・カインは、ある場所に向かっていた。
ガルガラン横丁。
裏取引が横行している商街で、様々なものが販売されている。牧畜業が主流産業でもある、のどかなグラーノフの一部とは思えないほどに、活気あふれる街。そんな街に、足を運んだのはある男に会うためだった。
「おや、カイン君かな。ということは、リアム王子の使い?」
気さくに話しかけてきたこの男こそ、【黄金の天秤】会長・ナルニア。どこにでもいそうな顔をした、普通の男。平凡で、これといった特徴はないような顔つきをしている。だが、彼が会長を務める【黄金の天秤】は、ルガラン時計台爆破事件など、無差別テロを行う、人を殺すことも躊躇がない危険組織である。
「ああ、リアム様の命で来た」
「それなら、帰ってもらえないかな?」
にこにことした顔で、冷たく言い放つ。ナルニアは続ける。
「君たちが、このグラーノフの内政権を、【真理の灯台】に与えたことは知っているよ。僕たちは基本的には、どんな相手とでも商売はするよ。でも、ね」
ナルニアは、カインの目をまっすぐに見る。
「僕たちに喧嘩を売ったやつとは、商売はしないんだ」
そう言うと、ドン、と目の前に火花が散る。魔法。火球を腹に打ち込まれ、カインは吹き飛ばされた。
「帰ってくれないかな」
「……、待て」
背を向けたナルニアに、カインは言う。不思議そうな顔で振り返り、ナルニアは言った。
「あれ、弱かったかなぁ。普通の人間だったら、失神する程度の火力はあったはずなんだけど……」
「取引をしてくれ」
「やだ」
無邪気に答えたナルニアは、笑顔で火炎魔法を使う。その火炎は龍のように唸り、カインの身体にまとわりついた。しばらくすると、それは火傷を伴う激しい痛みになる。
……、
だが、元傭兵であったカインにとって、こんな痛みなど、朝飯前であった。敵の捕虜となり、拷問されたこともある傷だらけの肉体は、痛覚など、とうに麻痺していた。
「ナルニア、取引をしろ」
「しつこいなぁ」
「しないなら、ここで本気で暴れるぞ」
火炎を大太刀で断ち切る。
十字傷のある目が光り、大剣がグワッとナルニアの首に迫る。
「まいった」
ナルニアは、ゆっくりと両手をひらひらとさせる。カインは、大剣を仕舞う。
「ついて来て」
ナルニアは、王族などが使うものと変わらない大きさの馬車に、カインを招き入れる。
カインが足を踏み入れる。
瞬間。
スパン
ナルニアは、魔杖をカインの首に突きつけた。鉄の杖。ナルニアが使うその杖は、【鉄の処女】と呼ばれているものだ。拷問家リューランが作った、呪怨シリーズの5号。その杖先が徐々に赤くなり、熱を帯びている。
「じゃあ、殺すね」
ドガン
満面の笑みで、ナルニアは、カインに爆弾魔法を打ち込んだ。




