第18話 妹を撫でる
セルバの死から1週間がたち、新しい執事として、ゴルゴンゾーラという宦官が俺の部屋に派遣された。
さまざまな悲しみや苦悩。
そうしたものを抱えながらも、俺は今、幸せの絶頂にあった。
なぜか?
そんなこと言わなくても分かるはずだ。
妹リリアーナが、今、俺の部屋にいる。
「お兄様、セルバお爺様の件、大丈夫でしたか?」
まだ幼さの残るあどけない表情で、彼女が言う。その上目遣いに、胸がときめく。
「あぁ、悲しかったが、ようやく立ち直ってきたところだ」
「そうですか。お兄様が元気になってくれて、私、嬉しいです!!」
リリアーナは、太陽のような笑みを浮かべていた。可愛い。可憐な花のような美しさだ。ひらひらと舞うスカートが、兄心をくすぐる。
そのいじらしい顔を軽くなぞり、うっとりと眺めて、そして、……。
「そろそろ捕まるぞ、変態王子」
「おい、エリアス。お前は毎回、良いところで邪魔するよな」
俺が腹立たしげに言うと、エリアスはフッと笑う。自室に、エリアスとカインが入ってきた。
「そこまで元気になって良かったよ。セルバさんが死んだ後のお前、見てられなかったもんな」
「うるさい」
俺はセルバが殺された後、珍しく感情的になったようだ。怒りにまかせて泣き暴れたために、どうやら手がつけられなかったらしい。
憲兵隊はセルバに全ての責を押し付けて、宦官派による追及を避けたようだった。そのため、セルバは葬式すら開かれず、死体は憲兵隊によって処理された。いくら憲兵隊が中立組織であるとはいえ、表立って宦官派と対立することはしない。今回の憲兵隊の捜査が杜撰だったのも、宦官の犯行は証拠を残さないことを経験から知っているからだ。
「リリアーナ様、リアム殿下をお借りしてもよろしいですか」
「はい、エリアス様も励ましてあげてくださいね!!」
そう言うと、ふわりとリリアーナは立ち上がった。頭をぺこりと下げると、リリアーナは俺ににこりと笑みを浮かべて、ここから去った。
「で、何のようだ?」
「セルバの死から分かっただろう。大切なものを守りたいのなら、今のままじゃダメだ」
「何が言いたい?」
エリアスが、眼鏡を上げる。その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「宦官を、政治的に殺すぞ!」
「エリアス、あいにくだが、この件に関しては同感だ」
カインも静かにうなずき、そして、この部屋に佇む男に剣を突きつける。
「おい、そこの宦官、これはお前らに対する宣戦布告だ。きっちり、貴様の主君に伝えておけ」
ゴルゴンゾーラは、表情一つ変えず、軽く頭を下げる。俺は話し始める。
「セルバのおかげで、気づけたことがある。宦官は、独自の情報網を持っている」
「ああ、何がなんでも、情報の伝達が速すぎる」
実際、俺たちが【真理の灯台】から、交渉の場所を伝えられたのは、交渉が始まる数時間前である。なのに、セルバは、憲兵隊を派遣するという策謀を実行したのだ。この策謀を実行するかどうかは、ユスタキウスの意向を聞く必要もある。短時間でこれほどのことをたった一人でできるだろうか……
「情報を統括する存在がいると考えるのが、一番自然だな」
「ああ、エリアス、俺もそう思う」
カインは、俺に耳打ちする。
「なるほど。なら、カインにその役目をまかせよう。エリアス、お前に任せたいことがある」
「分かってる。俺も何もしていないわけじゃない」
どうやら、俺が言うまでもなかったようだ。
俺は、にやりとした笑みをうかべながら、つぶやいた。
「反撃開始だ」




