第16話 裏切り②
「裏切り者は、俺の執事セルバだ」
俺の口から出たその言葉が、屋敷一面に響き渡る。エリアスが、声を上ずらせる。
「う、嘘だろ、リアム。あのセルバさんだぜ。お前の育ての親みたいな人で、寡黙だけどいつも優しい、あの」
リアムは静かに首を横に振る。その仕草が全てを物語っていた。ヤコブは気怠げに言う。
「てめえらの事情なんかは心底どうでもいい。が、俺たちと手を組むんなら、そいつをどうにかしてもらわねえと話にならねえ」
「あぁ、もうすでに手は打ってある」
ヤコブが笑いながら、相槌を打つ。
「ほう、それは興味深い。だが、残念ながら、俺は、信用できないうちは交渉しない主義でな」
ヤコブは立ち上がる。それに続いて、ゴーリキ含むヤコブ派の幹部たちが会議の場を後にしていく。その後ろ姿に、俺は呼びかける。
「まぁ、待てよ。今回持ってきた条件だけでも、聞いていかないか」
「さて、聞く価値があるとは思えんが」
「なら、簡単に要件だけまとめて言おう」
俺は、言葉を続ける。
「お前たちに、街を1つやる」
ヤコブたちの足が止まる。
「おい、どういうことだ。詳しく聞かせろ」
「信用できない人間とは、交渉しないんじゃなかったのか?」
俺が意地の悪い笑みを浮かべると、ヤコブは苦虫を噛み潰したような顔をしている。彼らはぞろぞろと、元の席へと着席しだした。そんな彼らを横目に、エレナが言う。
「早く話してくれませんか? 街をやる、と言っても、その土地の所有権をもらえるのか、政治権をもらえるのか、どちらかによっても、話は随分変わってきます」
「俺は王子だ。自分の領土を、いくつか所有している。その中の1つに、バルバロッサという港町があるのを知っているか」
港湾都市バルバロッサ。貿易の中心地として盛えており、その一方で、国内の最重要拠点の1つとして、海軍が守る都市でもあった。
ヤコブがすかさず言う。
「バルバロッサはいらねぇ。そもそも、港湾都市だから、防衛費にかなり費用がかかる。いくら貿易都市で安定した収入があるからって、そこまで手を回せねぇ。あそこは海軍の最重要拠点だ。軍部と折り合いの悪い俺たちじゃ、もはやどうしようもない」
「じゃあ、俺が持っている5つの都市の中なら、どの都市がほしい?」
すると、今まで沈黙していたエレナが口を開く。
「私は、グラーノフがいいと思う」
グラーノフは、畜産が盛んな農業都市であった。近年の重税により、多くの民が王国に不満を抱き、革命勢力に同調する富農が多数いる。ただし、その都市は今現在、【黄金の天秤】という革命組織の勢力基盤となりつつあった。
ヤコブがあっけらかんな態度で、声を上げる。
「珍しく同感だな、エレナ嬢ちゃん。グラーノフを貰おうか」
「なるほど、承諾した。お前たちには、グラーノフの自治権を与えよう。あそこは、腐敗した地方領主が治めていた土地だ。それを理由にそいつをグラーノフから追放するから、自治政府の実行権を選挙で奪い取れ」
「選挙、ねえ」
ヤコブが不満気に言う。彼に対して、俺は嘲るように言う。
「その程度の問題もクリアできないなら、手駒にする価値もないな」
「なるほどねぇ、どんなやり方でもいいんだな?」
ヤコブが俺に訊ねる
「ああ、問題ない。」
「じゃあ、交渉はこれで終わりにしよう。早く帰って、準備がしたいしな」
そう言って、【革命の灯台】のメンバーは立ち上がり、俺たちもその場を後にした。
◇◆◇◆
王宮に戻る。
自室に入ると、いつもと変わらない穏やかな表情で、コーヒーを注ぐセルバがいた。
「おかえりなさいませ、坊ちゃん。もうすぐ帰る頃だと思っていましたよ」
俺は、セルバを見る。
「セルバ、裏切った代償を払ってもらおう」




