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第15話 裏切り①

「俺を逮捕する?」


 俺はコルソン警視正に問いかける。彼は俺にもの怖じすることなく、懐から手錠を取り出した。


「国家転覆罪だ。現国王を廃位に追い込もうと画策しているとの通報があった」

「そんなことをした覚えはない。言いがかりはよせ」


 俺はとぼけた口調で言う。そんな俺の様子に怒りを覚えたのか、コルソンは俺の手を無理やり掴み、手錠をかけた。


「聡明なあなただ。言うことを聞かないなら、どうなるか分かっているだろう」


 腰にぶら下げてある拳銃が光る。


 俺はここ数日、何度銃で脅されるのだろう。あんまり、そう頻繁に突きつけられるものじゃないと思うんだけどなぁ。


 銃って、人を殺すための道具って、みんな、分かってる? そんなに、俺を殺したいの?


 俺がそんなことを心の中でぼやいていると、あくびをしながらヤコブが言う。


「なぁ、こいつらやってもいいか?」


 そう言うと、彼は、異様に長いその魔剣を引き抜いた。蛇のように唸るその剣に、彼らの目は奪われる。瞬間、揺蕩たゆたうように揺らめく剣先が、コルソンの首筋に迫る。


「待て」


 俺が制止する。眉間に深い皺を浮かべたヤコブが、俺を見た。コルソンの首筋から、たらりと赤い血が流れている。ヤコブが冷淡に言う。


「これは、もうお前の1人の問題じゃない。止めるのなら、どういうつもりか教えろ」

「なに、これは俺からのサプライズだ」


 俺がそう言うと、憲兵隊も【真理の灯台】の幹部たちも、顔を見合わせる。どうやら、頭がおかしくなったと思ったみたいだ。


 百聞は一見に如かず、か。


「出てきていいぞ」

「なっ!?」


 コルソンが驚き、のけぞる。


 隣の廃墟から出てきたのは、王国陸軍の精鋭部隊50人。長銃を持ち、厳然げんぜんとした姿勢で整列している。 


「フィリップ兄さんに頼んでおいた。俺の護衛だ」



 3日前。


 剣技の間での決闘に勝った俺は、兄にあるお願いをしていた。


 「1日の間、俺の護衛として、陸軍の軍人数名を貸してもらう」こと。


 宦官派は、その政治力の高さから、盤外戦術を好む傾向にある。そして、ユスタキウスは、相手が油断したところに罠を張る、そういった戦術で、これまで多くの政敵を排除してきた。このことから、最後の交渉の場、ここでなにかを仕掛けることは容易に想像できた。


 そして、自分たちの手を極力汚さない彼らが、中立勢力である憲兵隊と接近することも。


 俺はコルソンの目を見て、問いかける。


「コルソン、これはきっと誰かの誤った通報だ。俺も軍の面々がいる。あまり過激なことなど、できはしないさ」

「だが……」


 コルソンは、俺に対する疑念を払いきれていない。革命勢力と王族の接近。事情を知らなければ、なにか裏があると思われても仕方ない。


 実際に、俺は、密書などのさまざまな秘密文書を、この交渉の場に持ち込んでいる。もしこれが憲兵にバレれば、俺は逮捕され、処刑されてしまうだろう。


「コルソン、お前が懸念しているのは、王族である俺が反体制派の彼らと、こうして密会していることだろ、違うか?」

「その通りだ。今この状況に、私は疑念を持っている」


 真面目な憲兵らしい答えが返ってくる。だが、俺は知っている。真面目な人間は、自分より権威のあるものに対して、非常に弱いということを。


「なら、安心しろ。これは、国王陛下の密命を受けた交渉だ。陛下は、国民同士が争っているこの現状に対して、嘆いておられる。もしまだ疑念があるならば、明日、御前会議の議事録を憲兵隊の本部に持っていくが、どうする?」

「まさか国王陛下の命令とは露知らず、誠に申し訳ない。でしたら、私共は帰らせていただこう」


 コルソンはそう言うと、俺の手錠を外して、帰っていった。



◇◆◇◆

 屋敷の中に戻ると、もう一度、椅子に着席する。長年使われていなかった屋敷だからか、少しかび臭いな。俺が顔をしかめていると、エレナは俺に質問する。


「あなたは、ここに憲兵隊が来ることを分かっていたのですか?」

「あぁ、知っていた」

「なら、なぜなにもしなかったのですか? 私たちに、少しでも情報を」


 エレナの発言を、ヤコブが遮る。


「そこは対して重要な問題じゃねえ。もし俺たちが少しでも察した動きを見せたら、敵は新しい罠を張るだけだ。分かっている罠にわざとはまった振りをする、これはある種、戦争でも定石の手法だ」


 エレナは押し黙る。ヤコブが続ける。


「問題は、なぜ敵が、この場所この時間の情報を正確に掴んでいたのかってことだ。お前、裏切り者が身内にいることを知ってたんじゃないだろうな」


 俺は、下を見る。


「あぁ、裏切り者は」

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