第13話 覚悟
俺は、王宮に帰ると、一目散に自室へと戻った。ゆっくりとソファーに座り込む。執事であるセルバは、俺にコーヒーを出してくれた。
「坊ちゃん、今日は一段とお疲れの様子で」
「あぁ、色々あってな」
眼鏡の奥からやわらかな目で、セルバは俺を見つめていた。コーヒーは穏やかな味がする。俺のために、ミルクを少し多めに入れてくれたようだ。
「なぁ、セルバ。もしやりたくないことをしなきゃならない時、お前ならどうする?」
「……、そうですね」
少し考えるような仕草をした後、セルバは俺の方を振り返りながら、言った。
「長年王家に仕える中で、私も時たまやりたくない仕事をさせられることもあります。その時、私は決まってこう思うようにしています」
俺はコーヒーをすする。ほんのりと温かいコーヒーを息で冷ましながら、俺はセルバのゆったりとした声を聞く。
「私は、組織の歯車に過ぎないと」
「歯車?」
俺が尋ねると、彼は微笑みながらうなずいた。
「ええ。私がどんな行動をしようと、何も変わることはない。でも私がしなければ、その嫌なことを誰かが必ず代わりしなければならなくなると。そう思うと、嫌なことでも少しばかりやろうと思えるものですよ」
「誰かがやればいい、とは思わないのか?」
俺の質問に対して、朗らかな笑みを浮かべる。
「誰かが嫌な思いをするくらいなら、このじいはその重みを肩代わりしますよ。それに……」
「それに?」
「私は私のせいで、その誰かが嫌な思いをすることを耐えられませんのて」
セルバはそう言うと、俺に優しく笑いかけ、話を切り出す。
「ところで話は変わりますが、坊ちゃんに元気を出していただこうと、リリアーナ殿下もお呼びしております」
「お兄様ー!!」
「リリアーナ!?」
リリアーナが駆け寄ってきた。俺は突然飛びついてきた妹にたじろぎつつも、ぎゅっと抱きしめる。その身体は、思ったよりも小さかった。
まだ幼いこの少女に、俺と同じ重荷を背負わすわけにはいかないな。
腹をくくる。
俺はセルバに頭を下げると、まだ半分ばかり残っているコーヒーを机の上に置いたまま、自室の外へと出た。
◇◆◇◆
交渉の日が来た。
指定された場所は、今は廃墟となってしまった古びた貴族の屋敷だった。ここに【真理の灯台】の幹部たちはいる。エリアスとカインは俺と共に、古びた門をくぐる。
覚悟を決めろ。
月明かりに照らされた俺たちは、その屋敷の中に、一歩足を踏み入れた。




