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第12話 交渉③

「ヤコブ先生、ゴーリキ先生。お久しぶりです」


 銃を頭に突きつけられた状態で、俺は飄々《ひょうひょう》と言う。


「目立ちたがりじゃねぇお前が、わざわざ顔(さら)して演説とはきな臭いじゃねえか。何が目的だ?」

「いやいや、人の性格は案外変わるものです。俺も王子としての責任感がようや……」


 瞬間、ヤコブは引き金を引く。弾丸は出ない。

 

 エレナが叫ぶ。


「ちょっと、何を」


 巨体のゴーリキはエレナを弾き飛ばすと、兄ヤコブを守るよう立つ。


「運が良いなあ、お前」


 ニヤニヤしながら、ヤコブは続けた。


「この銃は6連発式で、実弾は1弾しか入っちゃいない。が、ちゃんと質問に答えないなら、エレナ嬢ちゃんが言ってるように、そのこめかみに風穴が開くぞ」

 

 しょうがない、ここは素直に話すとしよう。


「俺が【真理の灯台】と接触したのは、国王アルフレッドの命令だ。だが、宦官ユスタキウスはこの機に乗じて、俺の失脚を画策している。だからこそ、一番宦官がやりそうな手は、」

「交渉したのに、交渉してないことにされること、か」

「その通りだ」


 少し納得した表情を浮かべたヤコブは、俺に問う。


「なるほど。だからアホ貴族共を証人にしたわけね。あいつらなら、街中でもその噂を広めてくれるだろうからなぁ。だが目立ちたくないなら、交渉の間に王立図書館を介せば良い、それだけの話じゃねえのか」

「それは条約締結書が偽造されたり紛失したりしない前提だろ」


 たしかに、王立図書館の文書は、信頼性の高い文書だ。しかし、言い換えるならば、その公式文書がひとたび相手の手に渡ってしまえば、詰んでしまう書類でもある。


 宦官の長であるユスタキウスは、数々の政争に勝ち抜いてきた人物だ。彼は、相手が安心した隙をつき、盤面をひっくり返す。


 だから、俺はその隙を少しでも多く潰さなくてはならない。


「おいおい、そこまで用心深いくせして、なんでこんな書類を俺らに渡したんだ? もし流出でもしたら、てめえの命だってねえんだぞ」


 薄ら笑いを浮かべたヤコブは、俺をからかうように言う。俺は顔色一つ変えず、答える。


「逆だろ。この書類は、お前らみたいな革命組織に渡しておく方が安全だ?」

「安全? 俺らを舐めてんのか?」


 ヤコブはそう言うと、引き金に手をかける。次の返答次第では、俺は死ぬな。


 だが、ここは強気でいく……。俺は一歩前に出て、銃口に頭をめり込ませる。


「そもそも、お前らはその書類をどこに渡すつもりだ。憲兵、それとも宦官か?」

「あぁん!?」


 ヤコブは威圧する。


「憲兵であっても、宦官であっても、この書類が渡った時点で、お前ら革命組織を潰す大義名分をあいつらは得る。国民感情的にも「王族反対派が王族と陰謀を巡らしていた」なんて分かったら、軍部に同情的になるんじゃないか。この機に軍隊が派兵され、【真理の灯台】という組織は壊滅させられるさ」

「たしかに、並の人間ならそうなるが……。だが、俺らを誰だか忘れたのか?」


 ヤコブとゴーリキ。


 アルビオン王国の戦闘民族ガラ族の頭領で、奇抜な戦術で敵国を幾度となく打ち破ったゲリラ戦の天才。


 その功が評され、宰相ロデリックにより、王立学院戦争学教授のポストを与えられた。しかし彼らは赴任してすぐに、学生たちと共に革命派閥を築き上げたのだ。彼らが提唱した新規ドクトリンとは軍部の方針と対立したものであり、軍部から強い圧力をかけられていた。


 結果的に、彼らは軍部からの圧力により職を追われ、【真理の灯台】に合流する。エレナは彼ら2人に傭兵隊長という地位を与え、この組織の軍事力を担わせていた。


「軍に勝って、何の意味がある? その戦争は意味がない戦争だ。それに宦官は弱体化するどころか、軍部の失脚によってますます力を増すぞ」

「……、チッ、よく見えてんじゃねえか」


 ヤコブは銃を下ろす。俺らの目をまっすぐ見て、ふっと笑う。


「いいぜ、交渉に乗ってやろう。次の交渉は3日後の夜、場所は追って連絡する」

「どうやって?」


 エリアスが言うと、ヤコブは声を荒げて笑う。


「おいおい、そこの兄ちゃんに俺の部下、付けさせてただろ。あいつらは気づいてなかったが、元軍人の目はそう易々と誤魔化せやしねぇよ」


 カインは目に驚きを浮かべる。そして、自身の行動が俺の命を危険にさらしかねなかったことを察して、苦悶くもんの表情を浮かべた。


「すまない」

「いや、あの尾行は素晴らしかった。ぜひ、俺の部下にしたいくらいだ」


 ヤコブは舌なめずりをして、カインを眺める。そして、俺の方に向き直ると、今度は突然、軍人のような面持ちになった。


「リアム、お前に元教え子として、1つ大事なことを教えよう。人間というのは、時として論理的には動かないものだ」


 パン


 短銃を発砲する。装填されていた銃弾が古いシャンデリアを貫き、ガラスが雪のように舞い落ちる。


「人を煽るのもいいが、それは自分が命の危機にない時にしろ」


 ヤコブは俺の肩に手をおくと、ゴーリキと共にこの邸宅の扉を開け、去っていった。エレナも軽く俺たちに頭を下げ、彼らの後を追う。


「命を大切にしろ、ね」

 

 潜入操作は終わり、俺は王宮へと戻った。

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