第10話 交渉①
「お前らと交渉しに来た、第四王子リアムだ!!」
王族。
それは、彼らからして見れば忌まわしい血族だった。ここに集まった多くの者は、王家に不満があるものだ。王家の謀略により没落した貴族や、身分制度のせいで高等教育を受けることのできなかった農奴や商人の子息たち。彼らにとって王族は、宦官と共に貧しい民から搾取を続けてきた悪なのだ。彼らの銃口が鋭く睨む。それは、俺への殺意を明確に孕んでいる。
「銃を下ろしなさい!!!!」
エレナが一喝する。
ばらばらと銃を下ろすも、一部の貴族たちは警戒を解かずに、銃を構え続けていた。
「残念ですが、あなた方の交渉には乗りません。お帰りください」
王家の人間は、彼らにとっては悪役。ならばお望み通り。俺はヒールに徹する。
「帰る?バカなことを言うなよ、エレナ先生」
俺は、怪しく微笑む。俺を囲む貴族たちは怒りを目に浮かべ、今にも発砲しそうになっている。
「それに、お前はこの交渉を受ける、そうだろ?」
キッとこちらを睨む彼女に対して、俺は涼しげな表情で返す。俺と彼女の目が合う。
「分かりました、あなたにもそれ相応の覚悟があることをお見受けしました。話を聞きましょう」
ザワザワザワザワ
ここに集まった貴族たちがどよめき出す。その音は次第に増していく。
パーン
銃声
エレナは自身の懐に入れていた小型拳銃で天井を撃ち抜いた。
「今から私はリアム殿下と交渉をする。しかし、彼が提示した条件次第では、私は彼のこめかみにこの銃弾をぶち込もうと思っている。あなた方の思う通り、彼を今ここで殺せば、【真理の灯台】は王族を討滅した唯一の革命集団となり、歴史に名を刻むであろう。しかし、彼はそれを分かった上でここまで来たのだ。命をかけてここに来たのだ!!」
彼女はさらに熱く語りかける。
「敵だからといって、何も聞かず殺す!?そんな恥知らずになってもよいのか!!」
みなが彼女の言葉に心を掴まれる。空気が変わる。
ウ、ウォォォォォォォーーーーーー
歓声は今日一のものとなり、この古びた邸宅が壊れてしまうほどの熱気を持っていた。
「本日のサロンは閉会といたします。来月のサロンで、皆様にこの交渉の結果を報告したいと思います。各自、革命活動に勤しみ、国家をより良いものに変革していきましょう」
◇◆◇◆
「良かったのか、帰らせて」
俺はエレナに話しかけた。
【真理の灯台】の幹部と俺たちしかいなくなった邸宅。エレナは穏やかに微笑みながら、俺に言う。
「あなたたちは仮面を付けて潜入していた。ということは人知れず、私たちと交渉しようとしていた、違う?」
「その通りです、本当に、……、ありがとうございます。エレナ教授」
エリアスは安堵したように、頭を下げた。エレナはその様子を見て、クスクスとおかしそうに笑う。
「あら、エリアス君。頭を上げて。あなたたちがどんな立場であろうと、私たちの教え子であることに変わりないのですから」
「それで、今回は何を持ってきたのかね、リアム君。まさか、手ぶらというわけじゃなかろう」
カエル面をしたゲコエルは、俺に問う。彼の法学の授業は面白く、俺はよく彼と語り合っていた。「時効制度」や「死刑」など、様々な法律制度と諸問題に関する深い洞察は、俺を楽しませてくれた。
「ああ、俺が用意したのはこれだ」
俺は、茶封筒を手渡す。
「【真理の灯台】を正式な集団と公認する書類だ。これで、街中を堂々と闊歩できるようになる」
沈黙
長い沈黙のすえ、エレナが口を開いた。
「ねえ、この案はこの中の誰が発案したの?」
「なぜそんなことを?」
俺はとぼける。
「今回は、その人だけ殺す、それだけですませてあげようと思って、……ね」
エレナは小型拳銃を取り出した。
俺は素早く両手を挙げ、降伏の姿勢を取る。
「まさか、あなたたちがここまでバカになっているとは……。残念です。私たちがなぜ自分たちの命を賭けてまで、この酔狂な革命に身を投じているのかを理解していない!!」
「おいおい、残念だって?まだ、交渉の途中なのにか」
俺はとぼける。もっとだ、もっと煽らなくてはならない。
「へらず口はいいわ、早く誰か答えなさい。でなければ、全員撃ち殺してしまうわよ」
その言葉を待っていた。戯れはここまでにしよう。
「その紙の裏面を見てみろ」
エレナの声が興奮で裏返る。
「こ、これは……!?」




