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待ちに待ったゲームが発売されるってよ

 おおおおお、きたきたきたきたきたー!


 ついに待っていたゲームが発売になるった!

 

 で、どんなゲームかって、大好物なVRMMORPGだよ!没入感が別次元って話しなんだよ。


 冷静にコントローラーで動かすんだからと突っ込む奴等も居るけど、画面越しの2Dとは違うのだよ。

 VR系ゲームが数多く出ているが余り流行っていないのは分かるよ。なんせ、置き型本体、VR装置を買えば軽く6桁に到達してしまうから簡単に手が出る物でも無いし。

 

 小中学生が気楽に遊べる物でも無かったのが流行らなかった要因だとも思うし、ソシャゲの台頭もあって置き型本体も苦戦していたようだし。

 

 まぁそんなことはどうでも良いよな。新しい境地を開拓しているんだから仕方ないさ。


 ゲームのタイトルは「ドラゴン・ファイナル・ファンタシー」

 いや、ツッコミ所満載なタイトルなんだけどね、これ。

 

 ただ、個人的には期待値が爆上がりでね。タイトル通りなら王道RPGなんだろうと勝手に想像してる。

 

 と、いうのも、α、βテストの情報は全く出てないのもそうだが、CMは風景描写とボスキャラと思われるものが知恵と勇気を振り絞りかかってこい!って言うだけ。ボスキャラのポージング、背景が変わって何パターンかのCMが流れているだけ。


 これでどんなゲームでどういったプレイが出来るかなんて分からない。予想をしているものの、それが違ったら期待値が下がりかねないのでなるべく想像しないようにしている。嘘です。想像しまくってます。


 そして今まさに初回ロッドを幸運にも手に入れる瞬間なのだ。昔のニュースでは店頭に何時間も並んで買っただのと聞くが、今は予約をメーカーが直で行い、1人に限りワンロッド。

 予約時にはマイナンバーの記入まで行う徹底ぶり。


 昔々に転売ヤーと呼ばれる害悪が居て本当に欲しい人から暴利を貪るやからが居たせいでこういう風になったんだとか。(外国人はパスポートの番号やら良く分からないが個人を特定が出来る物を提示する必要があったそう)


 時間指定で届くのをじっと待つ事数時間後、家の中をウロウロしていると兄弟から鬱陶しいからじっとしてろと怒られる。


「お前達は良く落ち着いて居られるな!楽しみじゃ無いのかよ!」


「楽しみだけど、お兄ちゃんみたいに期待しまくってる訳じゃ無いし。初回ロッドも殆ど行き渡ってる程度のものじゃ無い。」


 この妹は・・・分かってないな


「あんなCMで爆売れすると思ってるのはお前だけだって。やってみて凹むのが目に浮かぶわ。」


 この兄貴は・・・


「いやいやいや、絶対に神ゲーだって!タイトルみてみなよ!ドラゴンにファイナルでファンタシーなんだぜ!

 これで面白くないわけ無いじゃないか!」


「「はいはい、黙って座って(ろ)よ。」」


 何故期待しもしてないのにこの2人はこのゲームを買ってるんだよ、てか、妹よ、お前筐体+VR機器はどこから調達したんだよ!高校生のクセに


 ピンポーン!玄関の呼び鈴がなる。俺は玄関へダッシュ!配達員さんから4つの小包?を受け取ってリビングへ戻る。


「なんで小包?ソフトの大きさなんてレターボックスで十分だろうに。」


 兄貴は半ば呆れたように呟く


「初回特典なんか有るって書いてなかったよね?まさかのトリセツが辞書並みの厚さだったりして。」

 

 妹はケラケラ笑っている。


「トリセツって普通にチュートリアルとコマンドにはいってるから違うと思うぞ。もしかしたら、魔王フィギュアなんかが入ってるのかもな。」


 兄貴と妹が話しをしている横で俺は小包を開けていた。

 開けるとそこにはまた箱なんていう古典的な嫌がらせかと思うような事は無く、ヘンテコな機器が1つ入っていた。


 なんぞ、これ?


「お兄ちゃん、それ何?モデムみたいに見えるけど・・・」


「モデムって昔の拡張機器か?それ程データ量がこっちサイドでも使うって事か?」


 冷静にトリセツを取り出し目を通す。本当に何なんだこれは。正解はこれがソフトの本体でした。なにこれ?


「ソフトってよりもアーケードゲームの筐体内の基盤に近いよな。」


「アーケードゲームってゲーセンにあるあれ?」


「これは俺達が思ってるよりも凄まじいゲームかもしれんぞ。お前が言ったように神ゲーかもしれんな。」


 我が家の決まりでゲームはリビングですべし!って事で3人でソフトをゲーム機に繋げる。ソフトじゃない時点で期待値は爆上がりです。


 3人同時にスタートさせる事になるとは思わなかったけど、まぁいいか。


 目の前に広がるのはキャラメイク画面だ。自分の体を元に何てことは無い。決められたアバターを弄ってキャラを作っていく。


「おにいちゃん、イケメンにするの?それともいつもの通りでブサメンにするの?

 私はまたなぁんにも弄らないで行くけど。」


 そう、妹はキャラメイクをしないのだ。ノーマル状態でスタートする。不思議なことにキャラメイクをしないために似ているキャラが殆ど居ないという奇跡を起こしていた。


「俺はイケメン俳優に似せて造り込むから時間をくれ。折角だからこった物にすっから。」


「期待してなかったんじゃ無いのかよ。キャラの作り込みなんかしねぇと思ってたよ。

 ついでに俺はフツメンよりの厳つい感じにしようかなって。」


「おにいちゃん、それはやめよう。おにいちゃんのキャラじゃ無いよ。厳ついから1番遠くに居る人じゃない。」


 ぐっ・・・だから厳ついかブサメンにしてんじゃないか。


「そうだぞ、お前が厳つい顔なんてしてたり、ブサメンにしていると違和感だらけでおちつかねぇんだよ。今までのゲームでもそうだったろ?今回は自分の顔に寄せて作ってみろよ。

 もし、似てなかったら今回は本気で楽しめなくしてやるぞ?」


「な、なんで自分に寄せるんだよ!兄貴はイケメン俳優よりイケメンだから良いけど、俺はイケメンでも無いだろ!」


「うん、うん、イケメンでは無いけど、キレイだよね。おにいちゃんの顔は癒やしだよ。って事でお兄ちゃんの意見に同意だよ。寄せてなかったら分かってるよね?お家で落ち着く場所無くなっちゃうからね?」


 ただの脅迫じゃないか!このゲームを1番楽しみにしていたのに・・・2人の圧に負け自分の顔に近づけるべく、写真から作成を選択・・・


 なんだ?それは?って、有るんだよ、そういう機能が!自分の顔写真を本体に登録しておけば色々なゲームキャラメイク時に使えるってのが。


「顔写真から作ります・・・」


「「それでよろしい。」」


「兄貴も写真からでいいじゃないか!作り込む時間の無駄だって!」


「おにいちゃんの言うとおりだね。髪型と色変えるくらいで良いんじゃ無い?」


「じゃ、全員顔写真からキャラメイクな!それなら公平でいいよな!」


 半ばやけくそで言うと、仕方ないって2人とも髪型と色を変えるだけでキャラメイクを終わらせた。

 俺?俺も髪型と色だけを変えたよ!


 結果としてキャラメイクの時間が短く済んだのは良かったのかもしれない。


「いざ!チュートリアル!」


 気合いを入れる俺。隣は静にポチポチとボタンを押す音だけが聞こえてくる。これもVRの弱点というか何というか。音が途切れた瞬間に外の音が聞こえてしまうんだよな。


 なんてどうでもいいんだよ。チュートリアルだ!


 うん、良くある敵と戦うチュートリアルと道具の使い方、移動の仕方、目線の変え方等々を粛々と終わらせていく。


 初期の武器は剣、棒、斧、杖、弓、魔導書。武器を装備しない無手

 防具は、革の鎧から始まり袋まで多岐に渡っている。

 道具は傷薬、毒消しの2つだけ。この先増えていくのだろう。


「チュートリアル終わったから初期地点で待ってるぞぉ。早く終わらせろよ。」


「はぁい。私ももう終わるから待っててね。おにいちゃんは隅から隅までやってそうだけど早く終わらせてね。」


 ひどい言われようだな。チュートリアルをちゃんとしていないと困るのは自分なんだぞ。って事で2人を待たせても良いからチュートリアルを続ける。


 うん、なんだ、これって魔法についての説明が別にあるな。

 はぁ?なんだこれ。自分でも魔法を開発出来るの。凄いな。ん、ちょっまてよ、もしかして・・・


 やっぱりだ。剣技とかもだ。独自の技を作ることが可能なのか。


 独自に開発した技を武技と呼ぶのか。これってチュートリアルをすっ飛ばした奴等分からないんじゃないか?ま、先々情報で出てくると思うけどな。


 よし、飛ばさずに全部チュートリアルを終えたぞ。


 いざ!出陣!


 待っていたのは見覚えのある2人。


「あ、おにいちゃんやっと来たね。隅っずみまで見たんだね。」


「お前は本当に面倒な事をするよな。」


「そうは言うけどさ、識っていることが少ないと困るのは自分だしさ。」


 普通着の3人以外にもあちこちに同じような人が居る。次はどうしたらとか言っているのが・・・


 チュートリアルをちゃんとしてないからそういうことになるんだと思いながら、


「2人は職業はどうするんだ?あと、ジョブ。」


「「は?」」


 2人は鳩が豆鉄砲を喰らった顔をしている


「おいおいおい。チュートリアルちゃんとしてねぇのかよ!」


「だって、おにいちゃん聞いた方が早いし。」


「お前の情報が無いと詰む自信がある!」


 お前等・・・とは言えパブリックスペースで話しをするのもなんだな。もしかすると識らない奴等に教えるのも業腹だしな。


「しょうが無いな。宿屋に行こう。ここじゃ誰が聞いてるか分かった物じゃ無いし、聞き間違えで炎上とかしても目覚め悪いしさ。」


 そして俺はプレーヤーじゃない人に宿屋の場所を聞きだす。そして3人で宿屋屋に向かう。何故って?隣に居るのに話をすればって?うん。兄弟もそう思っただろうけど俺が言ってるって事を理解してくれてんだと思う。そう思いたい。


「3人部屋で10日間でお願いします。」


「30ゴールドになります。」


 初期所持金は1人百ゴールド。1人10ゴールドづつ出し合い支払いをする。


「確かに。こちらが部屋の鍵になります。部屋は201号になります。」


 部屋へ入り鍵をかける。


「じゃ、説明するな。まず情報の共有はゲーム内でのチャット機能でしか行えない。話をしてもダメって事。つまり、掲示板とかで見た情報は情報としては知っているが利用が出来ないって事。」


「情報共有だけでもそんな事になってんのか。これは舐めてた。チュートリアル飛ばしたのは不味かったな。お前がいて助かったわ。」


「おにいちゃんが居てくれて本当に助かったね、お兄ちゃん。」


「あとな、キャラネームで呼び合わないと不味いと思うぞ。なんでかって?兄弟なんて分かったら何があるか分かった物じゃ無いからな。」


「おにいちゃん、それ本気で言ってる?」


「お前ってぬけてるところはトコトン抜けてるな。俺達を見て他人と信じてくれる奴がどれだけ居ると思ってんだ?」


 あ、写真・・・


「あ~、だったわ。ならもう呼び方気にしなくても良いか。逆に兄弟だと言った方がいいか。」


「それはそうしないと不味いと思う何かがあるのか?」


「PKだよ。情報欲しさに人質取られてとかってなったときに困るかなと思ってさ。」


「げ、このゲームってPKがあるんだ。1人でプレイするの控えようっと。」


「そうしろ。で、チュートリアルで重要と思うことを教えていくから。」


「はい、先生お願いします!」


 妹よ・・・


「さっきも言ったけど、職業とジョブな。どっちも同じ意味なんだけど、ここで突っ込んでも仕方ないからな。

 で、職業ってのは戦士、魔法士の2職種しかないんだよ。そしてジョブは剣士や弓士、魔法士の中から選ぶ事になるんだよ。

 俺は職業戦士、ジョブは拳士になるかな。職業とジョブはそれぞれにレベルがあって転職が出来るようになるんだよ。」


「それって、基本職の中に色々な戦闘の仕方があるって認識でいいのか?」


「多分ね。それで合ってると思う。」


「おにいちゃんは無手なんだ。決めちゃってるんだね。私は魔法士を選んでジョブは見てから決めようかな。」


「それと、このゲーム回復手段が寝る、傷薬、回復魔法ってなってるから継戦能力を求めると誰かが回復役しないと厳しいぞ。」


「え?おにいちゃんがモンクになるんじゃ無いの?」


「なれるかもしれんが今現在で回復手段が傷薬しか無い。傷薬が幾らするか分からないから回復手段はあった方が良い。

 だから、魔法士で回復系のジョブがあったら迷わずにそれにして欲しい。

 初期から回復系だとソロだと厳しいが俺達と一緒なら大丈夫だと思うんだ。」


「だとすると俺は遠距離攻撃のジョブがいいのか?」


「バランスを考えたらそうして貰えたら良いと思う。」


「でも無手で大丈夫なのか?」


「やってみて無理そうならジョブチェンジすれば良いかなと思ってるよ。」


「「我が家のルール!初志貫徹!ジョブチェンジは負け犬のやること!」」


「拳士はカンストするまでやるさ。ジョブチェンジしないと新しい職業が出現しないんだよ。」


「「ならば良し!」」


 この我が家のルールってなんなんだよって思うわ。


「続けるぞ?スキルと武技について説明するな。

 スキルはそのジョブにつけば覚えていく物。武技は自分で編み出すもの。」


「「は?」」


 うん、わかる。その気持は良く分かる。


「この情報を一番最初から識っていると知らないとでは凄い違いが出ると思うんだよな。」


「「チュートリアルで説明することでは無いと思う!」」


「多分、武技についてはゲームを進めても情報は転がっていないと思う。チュートリアルを最後までした者へのご褒美だと思う。

 俺達は兄弟だから教えているけど、他人に教えると思うか?

 俺なら親友でも教えねぇよ。」


「「兄弟で良かった!」」


「その条件ってのが武技習得するためにイメージが大切になるみたいなんだよ。」


「いや、イメージって、これ脳波とかそんなの測定できないじゃん。」


「それがな、あのソフトがな脳波では無いんだけど、コントローラーの動かし方なんかを感知して武技を出せるようにするみたいなんだよ。」


「「まさかの格ゲー要素追加!」」


「そう、コマンド入力にするためには格ゲー顔負けの入力を繰り返して武技に昇華するのを待つしか無いってわけ。」


「修羅の道しか見えないんだが・・・」


「別に普通のスキルだけでも良いと思うんだけどね。下手すると派手な武技で威力は初期スキル並みなんて事もあるかもしれないし。

 序盤だとロマンってだけのような気もするよ。」


「先々になると分からないけど、メド○ーア打てれば英雄じゃん!」


 あぁ、妹よ、何故にそんな大昔の技を知っているんだよ。


「しかし、このチャットは面倒だな。音声チャットにしてくれれば楽なのにな。」


「面倒くさいからこそなんじゃ無い?チャット入力しても伝えたいって事なんだと思うよ。それにボイチャは残らないけどチャットなら読み返しも出来るから。」


 妹よいつの間にボイチャが記録に残らないと分かったんだよ。あ、さっきの会話か。


「俺もそう思うよ。で、1番の情報は情報屋の利用の仕方だと思うんだわ。」


「「情報屋?」」


「クエストをこなして行くことになるけど、2人とも、初めて行く町に何があるとか土地勘ってあるか?」


「あるわけ無いじゃん。」


「なる程、そういう事か。ちょっとリアルに近い感じでやる必要があるって事だな。」


 流石は兄貴。分かったみたいだ。


「この情報を持ってないと何をしていいか以前の問題だぞ?」


「これは掲示板で情報が出ても情報屋を見つけることが出来ないっていう事態が発生して大荒れになるだろうなと。」


「抑えるべき情報は抑えたが、1番大切な事だが・・・」


「職業につくにはとジョブの選択についてだよね。」


「それなんだけど、職業って戦闘系職業が2種類ってだけで他にも職業は有るんだよ。建築系、商売系だったり、それでハロワがあるんだって。」


「「ハロワ!」」


「うん、そうなるよね。わかるよ。で、ハロワで職業の選択が出来るんだ。ついでに転職も可能。

 で、職業についたら、待ちの中にそれぞれに道場があるからその道場に入門したらジョブが解放されるって事。

 だから、まずはハロワに行こう。

 あ、このゲームの怖いところは職業、ジョブは無くても戦えるってところ。魔法はどうしようも無いけど肉弾戦は出来ちゃうってこと。」


「「チュートリアルを舐めてた!」」


「普通はチュートリアルを終わらせてもトリセツがあるハズなんだけど、トリセツないか漁ったけど、なぁんも無かった。」


 と話ながらハロワに到着した。いや、ハロワだわ。人が職を探しに来ているし、窓口で相談している人も居る。なぜリアルにする?ゲームのイメージってあるじゃないか・・・


「おにいちゃん、もしかして、もしかしてだけど、冒険者ギルドなんて存在しないとか無いよね?」


「妹よ、冒険者ギルドは無い!仕事の斡旋は全てハロワで行われる!」


「なんで、こんな所を現実に寄せるのよ!」


「この光景で冒険者ギルドとは言えないよな。でも仕事の斡旋となるとハロワなのか???」


 ツッコミたいのは分かる!俺だってそう思った!なんでハロワなんだよって!良く考えると冒険者ギルドってハロワと変わらないと言われてしまうと、そうですね。としか言えないのも事実なんだよな・・・


「とりあえず職業に就けるところを聞いてみよう。」


 数分後彼らはorzになっていた。なぜか職に就けないのだった。


「何で職業につけないんだよ!おかしいだろ!」


 ハロワの職員にくってかかる。


「申し訳ありませんが、職業訓練を受けていただかないことには・・・適性もございますし・・・」


「適性って、自分の好きな職業に就くことが出来ないのかよ!おかしいだろう、それ!」


「魔法適性が高い方が殴り合いをしたいと言われてもですね、適職ってあるので仕事現場で使い物にならないなどあってはいけませんので・・・」


 はい、正論です。正論過ぎてぐうの音も出ないです。


「おにいちゃん、職業訓練受けるしかないよ。郷に入り手は郷に従えって言うし。」


「そうだな。ここで押し問答をしていても埒があかないぞ。職業訓練を受けるしかないぞ。」


 2人に言われて職業訓練をどうやって受けられるのか聞くと、地下に行くと職業訓練が受けられると教えて貰えたので、地下へ行く事に。


 何だか思ってたゲームと違う・・・ハラハラドキドキの冒険が・・・


 職業訓練場。看板がデカデカと出ている。扉を開いて中に入ると鎧を着た案山子が並んでいる。


「職業訓練場にようこそ。皆さんは適職を知りたくてこられたんですか?」


「え?職業に就くためには職業訓練を受けろと言われまして・・・」


「あいつ、またやりやがったな・・・。本来は希望する職業に就けるのですが適性が有る無しじゃこの先の人生に大きく関わってくるもんですから・・・

 あなた方は当たりの受付に中ったんですよ。」

 

「それでここで何をしたらいいんです?あの案山子に何かをすればいいんですか?」


「そうですね。自分がなりたい職業。まぁ、ここでは戦士と魔法士の適正しか見られませんが。」


「やっぱり生産系の職業に適性がある人も居るんですね。」


「そりゃそうですよ!物を作り出す者が居なけりゃ私達は生きていけませんよ!」


 これ、AIだよな?なんで人よりも人らしいんだよ・・・


「じゃ、俺と兄は戦士。妹は魔術士で適性を調べて欲しい。」


 で、結果発表


「お兄さまとあなたは戦士としての適性がありました。妹さんはギリギリと言ったところでしょうか。おそらくですが、物作りの方に適性があるようです。」


「え?私ってもしかして錬金術師になれるかもなの?」


 妹よ錬金術師は普通に魔術士適性だと思うぞ。


「それじゃ、上に行って職業について問題ないようだな。早速職業に就こう。」


 上で問題なく職業に就くことが出来た。担当してくれた人からジョブの希望を聞かれ、俺が無手の前衛職、兄が物理遠距離職、妹が回復職と伝えると、それぞれの書類を出してくれる。

 ここからは3人にそれぞれの担当がついてアドバイスをしてくれる事になった。


「こんにちは、私がアドバイザーになります。希望は無手前衛職と言うことですね。では、こちらにそれぞれの道場が有りますので説明して行きますね。

 まずは拳闘志です。その名の通り拳で闘う前衛職です。メリットは拳にナックルガード等を装備出来る事で防御もそつなくこなせる職業です。拳に装備が出来る事で攻撃力も期待できます。デメリットは蹴り技を一切覚えない事で攻撃の間合いが極端に近くなることです。あ、このデメリットは無手前衛全般に言えることですね。

 次に空手家です。己の拳と足で闘う前衛職です。メリットは両手両足で闘うことが出来ます。デメリットは防御する際に防具が使えないことで攻撃を受け止めることでダメージを貰ってしまう点です。あと、空手家と同じようなジョブとして、テコンドー、ジークンドー、ムエタイ等のジョブがございます。

 次は組技を得意とする前衛職です。ただ、このジョブはおすすめ致しません。デメリットだらけでして。まず、相手と接していないと技が出せません。相手を掴む事が前提になりますので・・・柔術家等になればまた変わるのですが、そこまでに行き着ける方は殆どいらっしゃいません。途中でジョブチェンジされる事が多いジョブになります。柔道、レスリング、合気道等のジョブがございます。」


「えっと、合気道なんかは自分で掴みに行くわけじゃ無くて相手のアクションに合わせて技を繰り出すと思うのですが。」


「さようです。ですが、相手の動きに合わせる事が中々困難らしく、組技のジョブは無手を極めてから就くことがお薦めとなります。

 先程出しました柔術家等はまさにそういったジョブになります。」


「ジョブチェンジしたときに前のジョブも使えるのですか?」


「条件によりますね。例えば遠距離ジョブを持っていて無手のジョブについても遠距離ジョブのスキルは使用しようとしても発動出来ません。近すぎるので。これは聞かれたのでお答えしましたがジョブの組合せはご自身で考え、新たなジョブの開拓をしていただきたいですね。

 道場を開設できるかもしれませんよ。」


 にっこりと笑う担当の彼女がやたらと可愛いんですが・・・


「しかし、無手前衛ジョブで良いんですか?こう言っては何ですが魔獣系や骸骨、ゾンビ系のモンスターには普通に攻撃が通りますが、ヒト型のモンスターには殆ど攻撃が通らないのですが・・・拳闘志ですらナックルガードで叩くしか出来ませんので・・・」


「え?もしかしてですけど選ぶ人が少ないんでしょうか?」


「そうですね、初期ジョブとして選ばれる方は少ないですね。最初は剣や槍などのジョブを取って無手のジョブを取られる方のほうが多いですね。」


 始まったばかりのゲームなのに・・・NPCの事なんだろうが・・・


「ただしですね、私達も伝え聞いた事なのですが、無手の最高位ジョブは武器職ジョブにもひけを取らないらしいのです。

 それこそ茨の道なのでしょうが見返りは大きいと言うことなんだと私達は話してます。」


 無手も使えるんだよねって伝えることで無手ジョブを増やそうとしてんのかな?しかし、鎧相手に攻撃が入らないっていうのは問題だな。魔獣系のモンスターをメインに相手するしか無いか。


「ロマンが有りますね。苦難の先にある報酬っていうのも気に入りました。

 お薦めの無手ジョブって何でしょうか?拳闘志以外でお願いします。なんだか、武器を装備出来るジョブを選ぶと最高位ジョブに辿り着けないような気がしましたので。」


「!!  そ、そのような事は無いと思いますが・・・」


 あや、明らかに動揺してるじゃ無いか!冷や汗までって!どんだけ優秀なんだよAI!


「しいてお薦めするのは基本的な事が多く学べる空手家でしょうか。」


 やっぱり空手家かぁ。何となくそんな気はしてたんだよな。


「では、最初のジョブは空手家にします。」


 ニコニコしながら、ではこちらに言って下さいと道場までの地図とパンフレットが渡された。


 兄と妹はどうなったかな?お、妹帰ってきたな。


「おにいちゃん、私、回復職舐めてたよ。本当に攻撃手段が全くないんだよ。1人じゃ無理ゲーだよ、これ。なんてゲームよ!

 だいたい、回復って1つの魔法で全部回復するんじゃ無いの!なんで、切り傷、打ち身、捻挫、骨折それぞれに回復魔法が違うのよ!

 蘇生魔法なんてありませんなんて言われるし、毒や麻痺の解除魔法はそうとうレベルが上がらないと修得できないみたいだし・・・

 道場でとりあえず切り傷と骨折の回復魔法は覚えられるらしいから・・・」


「おい、蘇生魔法は武技なんじゃないか?」


 妹はハッとした顔をして


「そういうことか!回復魔法も武技で1つの魔法で全ての症状に効く物を作れば良いんだ!」


 どこで誰がきいているか判らないので


「デカい声でも言うなよ。先に道場に行くのか?後で兄貴には伝えとくぞ?」


「おねがい~」と声を残して妹は消えていった・・・


 あの身体能力は回復系にしたのは勿体なかったか?いや、適性で攻撃職では無かったようだしな。スカウト系の適性はありそうだが・・・回復盗賊ってどうなんだろうな。馬鹿なことを考えていると兄貴が出て来た。


「兄貴どうだった?」


「これはちょっと大変かもな。攻撃を当てる事が出来るか分からんぞ。誤射してフレンドリーファイヤーもあり得る。

 特にお前は前衛ジョブだろ?後から弓矢か銃弾が飛んできてよけられるか?」


「いや、無理だろ。それ。」


「だよな。遠距離ジョブよりと中間距離のジョブにすべきだと判断して戻ってきた。」


「その割には時間かかってたみたいだけど?」


「色々聞いてたんだ。マスケット銃があったからな。弾だったり火薬だったりはどうなるのかと思ったら、全部必要なんだと。金がいくらあっても足りねぇよ。

 で、次に目についたのがショットボウだったんだが、矢が使い捨てだって言うんだよ。クロスボウもあったが取り回しが悪そうでな。どれもこれも本体以外は使い捨て。

 自作で矢を生産できるか聞いたらよ、出来るけど作成に時間がかかるってよ!そりゃそうだわ、鏃を作り、矢尻も作り、矢に整形。1本作るのにもかなりの時間がかかる!

 金が無けりゃ時間を使うしか無いが、時間を使えばレベルが上がらねぇ、金に物を言わせても良いが採算ベースで考えれば赤字にしかならん!」


「こっちも中々厳しいみたいなんだよ。妹も回復は地雷だと言っていたけど、これって普通のゲームと違って全ジョブ地雷なんじゃ無いか?って思ったよ。」


「なんか、とんでもねぇゲームみたいだな。だけどよ、ヌルいゲームじゃ無いだけやりがいあるって思うぞ。」


「そこは本気で同意。CMで言ってた事が本当って事なんだろうな。知恵を使ってって謎解きだと思ったら、頭使って考えろって事だったわ。」


「そうだろうな。で、だ。俺は中距離ジョブとして槍、棒術、鞭があるって聞いたんだが、お前なら何を選ぶ?」


「因みに薙刀はどれに入るんだろう?俺なら薙刀にするけどな。中距離短距離行けるから。」


「わかった。薙刀な。それにするわ。無手と相性が良いかは分からないけどな。」


 笑いながら来た道を戻っていった。それじゃ、俺も道場へ行くとするか。


 で、道場に着いたわけなんだが・・・混乱してきたぞ。


「我が道場に良く来た!入門か、それともスクール会員かどちらだ!」


 え?なにそれ?


「申し訳ありません、入門とスクール会員の違いが分からないのですが・・・」


「ふむ、説明をうけなんだか。では説明してしんぜよう!入門はその名の通り我が流派に入門し生涯を通じて空手道に邁進して貰う!スクール会員とは空手道を通じて心身を鍛えるものである!」


「あの、どちらも変わらないように思うのですが・・・」


「お主は魔獣を狩る者となりたいのか?」


「そうです。」


「で、あるならばスクール会員の方が良いだろう。

 秘伝は教えることが出来ぬがそなたらはジョブを幾つも塗り重ねていくのであろう?」


「はい。そうなります。秘伝があるのですね。それは教えて貰うことは出来ないんですね。見せて貰うことも出来ませんか?」


「秘伝であるからな。入門した者意外には見せることは出来かねる!

 スクール会員となるための手続きをしてやろう。

 これを読んで名前を記入してくれ。」


 お、やっと名前が決まるのか。いままで名無しの権兵衛だったからなぁ。あり得ないだろう!

 

 ん、姓名か。名字に名前を決めるのか。名前だけならいつも使っているのでいいとして、名字かぁ。あれかな名前の重複で使えないなんて事が起こらないようにって事かな。

 ちょっと悩んでから名字を決める。多分あの2人も同じ名字になると思う。

 クロス=ジュウヤ

 黒須 充哉。前にやっていたゲームで違う名前にしていたが何でか名前を呼ばれてもしっくりこないというか、違和感が半端なくて名前は本名をそのまま使ってたのだ。


「お、クロス=ジュウヤだな。よし、それじゃあ道着に着替えてから早速稽古を始めるか?それとも今回は入会のみか?」


「あ、稽古を始めたいんですが道着がありません。」


「なんだ道場に来るのに道着を用意してねぇってのは頂けないな。

 道着代は新品で50ゴールドだ。他で買っても同じ金額だと思うが、お古だったら30ゴールドだ。どっちにする?」


「新品でお願いします。」


 新品の道着を受け取り、着替えを行える場所を聴いてから着替えて道場に向かう。


「よし!来たな。では始めるとしよう。基本の突きと蹴り、受けを教える。

 正拳突き、上段突き、下段突き、前蹴り、回し蹴り、後ろ蹴り、側頭蹴り、上段受け、中段受け、中段外受け、下段受けだ。」


 師範は1回見せてくれてやってみろと言う。これでも他のゲームでも無手を選んでやっていたんだ。余裕だろう。


 ・・・余裕じゃなかった・・・


「その突きはなんだ!腰が入っていない!突くたびに違う場所を突いているぞ!頭の高さもバラバラだ!

 まさかこんなに酷いとは思ってなかったぞ!」


 俺は何がどうなっているのか分からない。ボタンを押すだけじゃないか。何故こんなに難しいんだ!

 何度となくボタンを押す。タイミングなのか?と思い一定のリズムでボタンを押す。だが、いつも違う場所にしか拳がいかない。


 くっそ、何でだよ!沸々と理不尽な事に対して怒りがこみ上げてくる。

 

 それでも何度も何度も師範から気合いを入れられボタンを淡々と押し続ける。この辺になると既に作業となってしまっている。きっと俺の目は死んでいただろう。

 

 ん?何だか拳が徐々に集まりはじめている事に気付く。


「かなり良くなってきたぞ!まだまだ突きを出せ!無心に拳を振るうのだ!」

 師範の声が変わってきている。


 俺は淡々とボタンを押し続ける。段々と握力が無くなっていくのを感じながら・・・

 

 ボッ!ボッ!ボッ!


 突きの音が変わる。そしてズレていた目線が一定になる。はっきり言おう酔いそうだったよ!ずっと揺れ続けているんだよ、そりゃ気分も悪くなるって。

 そしてその時はやってきた。


 正拳突きを修得しました。


 どこらから声が聞こえてきた。


「よし!それが正拳突きだ!基本中の基本だ!上段突き、下段突きはもう出来るようになっているはずだ!試してみろ!」


 え?それってどうやって出すんだ?ボタンを押す以外で・・・まさか十字キーか?そう思いジョグスティックから指を十字キーへ変えて上を押してボタンを押す。


 ボッ!


 出た。


 下段突きも出た。


 えっと、苦行?まさかの苦行?俺のアバターは汗ひとつかかずにその場に立っている。


「で、突きはマスターできたな。しかしまさか1日で修得してしまうとは思わなかったぞ!

 筋がいい証拠だな!」


「えっと、普通は修得に時間がかかるものなんですか?」


 師範がなんだこいつって顔をして


「お前な、普通正拳突きを完全にマスターしようと思ったら何日かかるか・・・

 それを1日でやったんだ。」


 ・・・なんだって?数日かかる?は?どういう事だ?リアルにはほど遠いが修得するって事って凄く時間がかかるわけなのか


「それにしてもまさか修得するまでやるとはな。普通は正拳突きの出し方を覚えれば修得する前に魔獣を狩りにいってしまうもんなんだが・・・」


 なんかボソッと不穏なもんが聞こえたぞ?何となく途中でそうじゃないかとは思ってたんだよ!思ってたけどさ、師範が声かけてくるからさ


「声かけた時は正拳突きが良くなって行ってた時に言うようにしているだけだが?」


 え?あれってダメだから声がかかってたんじゃなかったのか?


「ダメなときに声をかけてどうするんだ?良くなっていっているから言うに決まっているだろ。」


 もしかして、俺って無駄な事をしてたんじゃ・・・


「ばっかもーん!無駄では無いわ!正拳突きを修得したということは、狙った場所に確実に拳を当てられるって事だ!魔獣の弱点を確実に突けるんだぞ!

 拳聖も言っておる。自在に突きを繰り出すことが出来て空手家の一歩目だとな!」


「あれ?声が出てましたか?」


「自覚しておらなんだか。修得するまで無心に拳を突き出しておった時から声を出しておったぞ?」


 うわぁぁぁぁ恥ずかしすぎるぞ!ん?今凄いことを言わなかったか?好きな場所に寸分違わずに拳を突く事が出来るようになった?


「師範!もしかして蹴りや手刀も同じように修得する事が出来るのでしょうか?」


「それは出来るだろうさ。だが、今日はもう仕舞いじゃ!時間もかなり遅くなっておるしな。

 また明日から修行するといい。」ここまでする奴は・・・入門させるに限る。ちょいちょいっと。良し入門と。


 ん?何か不吉な言葉が聞こえたような・・・


「では明日も待っておるぞ!」


 俺は道場を追いだされた。疲れた。本当に疲れた。一体どれだけボタンを押し続けただろうか・・・


「あ、おにいちゃん!授業はどうだった!私はヒールを教えてもらったよ!ただ、回復量がそんなに無いのがねぇ。レベルが上がれば回復量が上がるみたいだけど。一時は案山子かなぁ」


「おい、名前はどうした?」


「あ、名前ね!あのタイミングで名前を決めるとは思わなかったよ。設定時に名前をつけなかったから変だなぁとは思ってたんだ~。

 もち、クロノ=レンゲにしたよ!」


「やっぱりお前も本名か・・・」


「だって、違う名前だとスルーしちゃって何回か怒られたことあるから・・・」


 あ~、俺の妹だよお前は。


「兄貴もだろうな。」


「お兄ちゃんはひねってくると思ってる!」


「ないな。ひねろうとして諦めて本名。間違いない!」


「おい、勝手に人の名前が本名かどうか大声で話すんな!

 本名だけどよ!」


「ほらな。」


「で、お兄ちゃんは武器何にしたの?」


「薙刀にしたいと言ったら、棒術の派生だと言われてな、棒術になったぞ。」


「あれ?遠距離物理じゃなかったの?」


「まぁ、色々とあったんだよ。で、ジュウヤお前はどうだったんだ?」


「宿屋で話すよ。確認したいこともあるし。パブリックスペースじゃさ。」


 そう言い宿屋へ移動する。プレーヤーらしき集団が門から帰ってくるのが目に入る。

・攻撃が中んねぇ。何なんだよクソゲーかよ!

・でも勝ててるから良いじゃん。

・攻撃が全部中る方がおかしいんだよ!シューティングと同じじゃん。

・回復ねぇと辛いわ・・・

・盾職欲しいな。

 などワイワイ言いながら笑顔である。あれだな、笑顔で愚痴。沼へ1直線ってやつだな。


「お帰りなさい!ご飯はどうします?今から出せますよ?」


「ん~、じゃあお願いします。」


 宿屋の一階は扉を開くと食堂というか飲み屋みたいになっていた。空いているテーブルに3人座り食事がくるのを待つ。食事はパンとメイン料理とスープと果物がついていた。味覚が無いのが残念だが、アバターが旨そうに食べているのは不思議な気分になったな。空腹パラメーターなんかは無いようだけど、これはこれで良いな。

 食事を終わらせて部屋へ


「じゃあ、報告会と行きますか。まずは俺から・・・」


 道場であったことを話す。兄貴と妹が、は?って顔をしていた。


「じゃ、おにいちゃんは正拳突きしか習ってないの?」


「おまえ、何してんの?」


 なんか呆れられた。いやいやいや、ちがう、そこじゃ無いからな?


「で、兄貴とお前はどうなんだよ?」


 妹と兄貴の話を聞くと、だいたい同じでこんな感じだった。


 妹は傷に効くヒール、打撲に効くヒール、捻挫に効くヒールを教えて貰った。

 兄貴は突き、払い等の基本の技を全て教えて貰ったとか。


「聞くけどよ、狙った所にスキルを使えたか?」


「は?狙ったところにって、おにいちゃんヒール系は部署に手を当ててじゃないと出来ないんだよ?離れた所からヒールが使えるとか無いからね。」


「あのな、狙ったところに中てるなんて事は上段者がやることだぞ?」


「あぁ、そういう事か。俺は正拳突きを修得したって言ったんだ。」


 2人は分からないって顔をしている


「だから正拳突きを狙った場所に確実に中てることが出来るんだ!」


 2人は何の事って顔をしている


「修得するまでは拳が狙った場所でなく、かなり場所がブレて中るんだろうが狙った場所に中てることは困難だったんだよ。それが修得した事で狙った場所に攻撃をする事が出来るようになったんだよ!」


 もちろんチャットも併用して伝えていく。


 やっと事の大きさが分かったのか2人とも口をパクパクさせている


「俺は全てのスキルを修得するまで道場に通おうと思ってる。

 ただ、金が足りなくなるのも問題だから、前蹴りを修得したら魔獣を倒して金を稼ぎながら基本のスキルを修得しようと考えてる。

 2人はどうする?俺に付き合わなくてもいいと思うが」


「お前な、それを聞いて基本スキルを修得せずに外に出る選択肢無いだろ・・・

 レンゲはどうする?お前は一通りのヒールは教わったのなら・・・」


「何言ってるのかな?お兄ちゃん。私も修得するまで道場に通うに決まってるでしょ!

 地道な修行をして力をつけてから冒険開始!」


 うん。同意を得られておにいちゃんは嬉しいよ。兄貴もな。


 そして俺達3人は基本技の修得を目標に道場に通い詰めることなった。そして基本技のスキルを全て修得する頃には始まりの地にプレーヤーらしき影は殆ど居なくなっていた。


「なんだから淋しくなったね。人が殆ど居なくなっちゃった。」


「掲示板を見たがかなり先まで進んでいるようだな。だが、基本技のスキルの修得なんてものは出てなかったな。」


「道場でないと修得出来ないのかもしれないな。ジュウヤ、お前はどう思う?」


「兄貴の言うとおりだと思う。知っているプレーヤーも居るかもしれないが秘匿1択だろ。こんなもん。」


「だよねぇ。って事は今この町に居る人って知ってるって思って良いかもね。」


「パーティー組む条件に基本技1つはおさめているとかにしたら良いかも知れんな。」


「でも、おにいちゃん、やっぱり無手って厳しすぎない?」


「それな。全っ然倒れねぇのな。」


「素手で熊に勝てるかって話になるとは思わなかったよ・・・」


「それを言えば棒でライオンに勝てるかって話でもあるんだがな・・・」


「擦り傷レベルしかヒール出来ないって無理ゲーだよね・・・」


 3人とも深く溜息をつく。しかし彼等は知ることになる。自分達がどれだけ強くなっているのか。


「まぁ、仕方ないさ。このゲームやたらとリアルに寄せてるみたいだし。」


「ドラゴン・ファイナル・ファンタシーって王道ロープレって思ってたのにねぇ。ドラゴンなんて倒せる気がしないし、変な召喚獣にも勝てる気がしないし、他の惑星に行ける気もしないよ!」


「きっと倒せるように頑張れって事なんだろうよ。俺としては町作りなんかあると嬉しいんだけどな。」


「あるかよ!んなもん(笑)」


 ワイワイ言いながらハロワへ行く。


「こんにちは~!いい仕事無いですか?」


「シュウマさん、ジュウヤさん、レンゲさん、こんにちは。あなた達にお願いがあるのです。

 実はこの町の北に魔獣の巣が出来ているようなんです。そこの偵察をお願いしたいのです。」


「偵察ですか?それって危険度はどの位なんすか?」


「危険度はそれほど高くありません。偵察ですので。

 巣があるって発見だけでも良いですが、どんな魔獣で数はとかまで調べてきていただくとなると危険度は跳ね上がりますが、今回は巣の存在の有無だけです。

 その結果で再度偵察の仕事が発生しますので。

 あ!無理は駄目ですよ!巣の有無だけですからね!」


 これはネタなのか?押すなよのやつ?


「分かった。偵察して来るよ。場所まで分かれば良いんだな?」


「あ、そうです!場所大事でした~」


 大丈夫か?この受け付け。レンゲの担当だけはあるな・・・


「ジュウヤ様、先程の仕事をお受けするのですか?

 もし受けられるのなら道中の魔獣の生息も調べてきて頂けると助かります。

 魔獣の数が多いようでしたら教えて頂きたいのです。」


「分かりました。」


 何となくキナ臭いな


 町から出て北を目指す。途中何度か魔獣を倒しながら進む。全ての基本技のを修得したからなのか、ちょっと前まで苦戦していた魔獣が雑魚になっていた。

 蹴りを出して体を起こす。兄貴の棒が弱点を突く。俺が踏み込み突きで弱点を打つ。兄貴が魔獣の攻撃を打ち払う。打ち払い後に俺の蹴りが弱点に吸い込まれて魔獣は動かなくなる。

 このパターンで殆どの魔獣を倒していく。動物タイプ、犬、猫、ネズミ、リス、狼、猪、熊は敵じゃ無くなっていた。

 

 かなり進んだ所で森のような場所が出てくる。この中に巣があるのか?

 結果、ありました。


「なんで、猪と熊と狼が一緒に居るのよ!おかしいでしょ!」


「スライムとかゴブリンとかファンタジィーなもんは出ねぇのかよ!」


「ちょ!2人とも声が大きいって!」


「ジュウヤが1番五月蝿い!」


 すいませんでした。


「じゃ、帰ろうか。」


 町に何事も無く帰ってきてハロワで報告。途中の魔獣も報告。

 結構な金額を貰えました。金貨30枚。ひとりでだぞ。

 初期金額の3倍だ。これで宿屋を追い払われなくて済むな。


「で、おにいちゃんはこの町でまだ何かするの?」


「う~ん、ハロワの仕事をもう少しこなしてから次の町に行こうかと思ってる。どうした?」


「ううん、ただ私達ってかなり遅れてるからフロントランナー追いかけるのかなって思ってたんだ。」


「最初はそんな風にも思ってたんだけど、今は別にいいかなぁと。

 変な話俺達3人ってフロントランナーと言えなくも無い状態だしな。」


「だなぁ。掲示板を見てると死に戻りありきの攻略になってるからなぁ。デスペナは所持金の半分が消失。所持品がたまに無くなる。

 これじゃ、まずは挑んで死ぬまでやって情報を集めるって事になるよな。ある意味古き良きロープレだな。」


 兄貴は面白味が無くなってきて飽きて辞める一歩前って感じになってしまってるな。


「お兄ちゃん。辞めちゃ駄目だからね!私達の冒険はまだ始まっても無いんだから!」


 兄貴はバツが悪そうな顔をして


「ドラゴンと戦うまでは辞めねぇよ!」


 あ、いつ辞めるか伺ってやがったなこれは。ナイスだ妹よ!別にソロでやっても良いんだがここまで一緒にやったんなら中間クリアまでは一緒にやりたいよな。


 ハロワで仕事を何件かやっていく。本当に空手家は魔獣を単独で倒すのに時間がかかってしまう。

 兄貴のフォローがあって何とか成りたっているような物だ。これは何とかしたい。他のジョブにつくべきなのか?


「すいません、他のジョブの道場を紹介して貰いたいのですが。」


「他のジョブでございますか?少々お待ちください。

 ん?ジュウヤ様は既に空手家の道場に入門されてますのでジョブの変更は出来ませんね。

 職業を変える事は出来ますが空手家のジョブて身につけたスキルの威力が下がってしまいますが如何なさいますか?」


「え?入門?俺は会員になっただけなんですが!」


「とは言われましても入門されておられますので・・・」


 混乱でしかない。兄貴達も入門になっていた。基本技の修得をするとこんな落とし穴が有ったのか!なんてゲームだよ!


「破門されたらどうなりますか?」


「破門になるとその道場から追っ手がかかります。」


 終わった・・・


「兄貴、1度プレイデータのリセット・・・」


「「我が家のルール!」」


「でした・・・」


 なんてルールだ!くそ!


 空手家で一生懸命に打つ蹴りやって居るが中々強くなれない。


「なぁ、俺達ってレベルアップしてなくないか?」


「「あぁぁぁぁ!レベル上がってないぃぃぃぃ!」」


 3人結構な数の魔獣を倒している。それはもうかなりの数だ。


「「「運営!!!」」」


 早速運営へ問い合わせ。3人一緒にする。


 お問い合わせのレベルアップしない件につきまして。


 調査の結果、レベルアップするための条件の引き上げが行われております。

 必要経験値のご確認をお願い致します。

 当社の想定よりも早くにスキルシステムの上限に達してしまった為の措置を執らせて頂いております。

 隠しステータスの設定上で能力値がレベルアップを行いますとレベルキャップ時のステータスを大幅にオーバーしてしまいます。

 また、入会が入門へ変わっていることにつきましてもスキル修得を行った結果、他ジョブでスキルの修得を行うとステータスバランスが取れない事からこの様な措置を執らせて頂きました。

 補填の検討を行っている所でございますが、現状補填が決定致しましても次回のアップデート迄は補填の受け渡しが困難となりますことを重ねてお詫び致します。

 



「同じ返事が来たな。」


「で、どうするんだ?これ?」


「武技!武技!武技!」


「いや、武技までやっちまうとバランス崩れるから出ないと思うぞ?既にパッチが宛てられたとみた。」


「問い合わせの前にやっておけば良かったよ~!」


「で、どうする?ステータスは上限に近いみたいだし、フロントランナーの奴等もレベルキャップに到達した奴もチラホラ出て来ているようだし。

 この町でハロワの仕事をこなしていくか?」


「兄貴、この町のハロワで俺達が出来るかどうかの仕事が振られてる事を考えると・・・」


「うん。私はこの町の隅々まで探索する事を提案します!」


「レンゲの言うようにレベルアップ出来ないんじゃな。」


「必要経験値赤字になってやがる。町の探索してハロワで仕事して、他に楽しみを探すとするか!」


 それから2週間程たったころに運営から第1回イベントのお知らせが届いた。

 魔獣がおかしな動きをしています。

 捜査の結果魔獣の巣が出来たようです。

 協力して巣の魔獣を退治して下さい。



 ・・・あれか?そう言えば調査だけして後は何も発生してなかったな。


「おにいちゃん、あのイベントって私達が見つけたのよね?」


「あれ1つとは限らないけどな。」


「お兄ちゃんは他にも有ると思ってるの?」


「あぁ、そういう。先行しているプレイヤーの居る町でも巣が出来ているって事か。

 だとすると、俺達って不味くないか?この町に居るプレーヤーなんて両手で足りるくらいしか居ないだろ?」


「でもでもでも、スキルの修得者だよね!低レベルでもステータスは高いハズだよね!」


 確かにそうなんだが、そいつらきっとソロだと思うんだよな。つまり自分のやりたいようにやる!が信条だと思う。

 協力して?おいしいの?それ?の人種だろう


「レンゲ、他のプレーヤーに期待はしない方がいい。」


「お兄ちゃんなんで?」


「これだけ町に居るのに声かけられた事あるか?レンゲが1人の時もあったはずだが?」


「そう言えば・・・つまりソロって事?」


「中には違う奴も居るだろうが、ほぼ間違いないだろうな。」


 そしてイベントへ突入していく・・・


 俺達は以前クエストで見つけていた巣に向かって行くことにした。


「流石に場所が変わっているって事は無いと思うけど、規模がどう変わっただな。

 大きくなりすぎていたら潔くイベントは諦める。」


「え?お兄ちゃん、本気なの?別にデスペナ軽い物だしチャレンジしても良いって思うんだけど?」


「レンゲ、後から何人かついて来る。情報を与えるよりハロワに仕事の依頼を出して、一緒に来てくれる人達に期待しよう。特に師匠とか師匠とか師匠に。」


「あ~、プレーヤーはあてにしないんだ。おにいちゃん、それで人が集まらなかったら?」


「だからな、お前等イベント諦めるって言ってるだろ?

 ここは無理するところでも無いし、俺達のステはMAXにはなっていないんだ。アプデ迄は無理する事は無い。」


「兄貴、日和ったな(笑)」


「大人になっただけだ。(笑)」


「お兄ちゃん達格好つけてるつもりかも知れないけど、全っ然格好良く無いからね!」


「「お子ちゃまには分からんか(笑)」」


 ぶすくれる妹の機嫌を取りながら、たまに湧いて来る魔獣を倒しつつ進む。


「なぁ、前に来た時に比べて魔獣が弱くなってね?」


「おにいちゃんもそう思った?私後から見てるだけだけど、明らかに動きに繊細さと言うかキレが無いかも。」


「もしかしたら弱体化してるのかもしれん。だとすればワンチャン行くのも有りか?どう思う?ジュウヤ?」


「俺は元々1度は挑戦するつもりだったからな。相手が弱体化してるなら願ったりだ。」


「行ってみますかね。」


「行きますか」(ジ)


「行かれますか」(シ)


「そうしますか」(ジ)


「そうされますか」(シ)


「なにそれ?」


「「あ~、気にすんな。様式美って奴だ」」


 良く分からないといった様子の妹を余所に魔獣を蹴り倒しながら進んでいく。


「着いたな。」


「なにあれ?規模が倍近くになってるじゃない!」


「種族の差なんて、数なんて、カンケーないね」


 兄貴、そんなネタしっている人は居ないって。うちに有った古い古いVHSのビデオテープなんて余所の家には勿論どこにも無いだろう。


 妹は憶えてないだろうがビデオテープ一本を駄目にしてから近寄らせて貰えなくなったから分からないんだろうけど。いやぁ、黒いテープを引っ張りだして遊んでいる姿を見た親の顔は今でも忘れられない。きっと死ぬまで覚えてると思う。


 目の前には斜面に穴を掘り大きく成長させた巣の姿が有った。

 

 そして穴の前には犬型の魔獣と猿の魔獣がたむろしている。


 犬と猿って犬猿の仲じゃ無いのかよ・・・


 馬鹿正直に正面から行くしか無いように穴の回りは開けた広場のようになっている。


 レイドならこの位の広さが要るんだろうが、3人だと囲まれて蛸殴りの未来しか見えねぇな。


 妹は回復要因で戦闘は一切出来ないとなると、かなり厳しい戦いになるだろう。

 いや、俺が無手じゃなければ楽だったのかも知れない。


 「突撃するしか選択肢は無い訳ね。いいじゃない。お兄ちゃん達行くよ!」


「「って、お前が言うな!!」」


 いいながら突撃を敢行する。


 広場に入った途端に犬型の魔獣が群がってくる。俺と兄貴は併走し、妹は後から追いかけてくる。


 会敵そうそう兄貴は棒で犬を突き飛ばし、はじきとばし、地面に叩きつける。

 

 俺は前蹴り、突きで吹っ飛ばしながら進んでいく。本当ならその場で殲滅するのが正解だとは分かっているが囲まれる前に巣穴に突入して囲まれるリスクを大から中くらいに落としたかった。


 兄貴と俺で後に回り込まれないように走りながらドンドン敵を跳ね飛ばして行く。さながら列車に弾き飛ばされる魔獣達。

 だが、進軍も突然終わりを告げる。猿が出て来てから中々進めなくなる。

 犬っころは突っ込んで来るしかなかったが猿はその場で待ち構えてこちらの動きに対応してくる。

 兄貴の棒で攻撃する分には良いが、問題は俺。懐に入るか蹴りの間合いまで近づかないといけないが、猿共は上手く避けやがり、進もうとすると立ちはだかってくる。兄貴がフォローしてくれるか、その間に兄貴の前から消えていた猿がまた現れる。


「後から犬が来るよ!早く中に入らないと!」


 妹の悲鳴に近い叫びがとどろく。


「くそ!やりにくいったりゃありゃしない!こいつら前に突っ込んで来るしか能が無いと思ってたらどうしてどうして。」


「本当に厄介この上ねぇよ。少々のダメージは覚悟で強行突破するしかないか!」


 3人横並びになって攻撃を無視して前進を始める。妹へ攻撃してくるのを兄貴の棒で防ぎ、俺は拳を振り回しながら進んでいく。


 が、とうとう犬に追いつかれてその場で犬と猿の相手をせざるをえなくなった。


「やっぱ3人じゃ無理ゲーだったか。」


「ヒール!ヒール!ヒール!」


 傷が少し塞がるり、打ち身が少し癒されるが焼け石に水状態。妹は必死に俺と兄貴にヒールを掛ける事をやめない。


 徐々にだが犬と猿が減ってきているのか攻撃の頻度が下がってきている。基本的にカウンター戦法で戦っているのが良かったのだろう。終わりの見えなかった戦闘に光明が差して来る。


「お、何だか行けそうな感じになってきたか?」


「1時はどうなるかと思ったけど、何とかなりそうだね。ヒール!」


「気を緩めないようにな。少し前に出て犬猿の出方を見るか?」


「そうだな、よっと!こいつらの手が止まったら出てみるか。」


 どの位の時間がたったか穴の入口に辿り着く頃には俺達以外に動くものは無くなっていた。


「何とかなるもんだな。これなら突撃せずに犬を殲滅、猿を殲滅とやっていけば良かったな。」


「それ、結果論っていうんだよ?おにいちゃん。」


 一言多いよ。


「結核オーライだ。穴の中に入る前に体力と傷の治療はするべきだけどな。」


「今更ながらに気が付いたんたが、俺達って打撃系の攻撃手段しかないんだよな。斬撃系の攻撃が出来てれば楽だったんじゃないか?これ。

 俺が棒じゃ無くて槍とかにしとけば良かったな。」


 穴の前で暢気にする話でもないが、


「上位職に薙刀が出るから仕方ないって。先を考えたら正解だよ?」


「無手のお前が言うなよ・・・本気で最後まで無手を貫くのか?」


「お兄ちゃん、我が家のルール!」


「分かってんだけどよ、流石に辛すぎるだろ。」


 そこはスマンとしか・・・


「ここまで厳しいとは思ってなかったんだよ。化けることに期待するしか無いね。」


「ヒール!」


「で、ヒールしか唱えないに傷、打ち身を使い分けてるんだ?不思議でしかないぞ?」


「ん~、それは自分が癒したい状態を決定したら出来るんだよね。だから、どうやってって言われても、出来るの。としか言えないんだよ~。ヒール!」


「しかし、何回ヒールをかけられるんだ?相当掛けてるよな?」


「わかんなぁい。出来なくなるまでじゃない?」


 この妹は・・・


 傷も大分良くなり、打ち身もかなり楽になってきた。ヒール凄いな。重複効果が有るようだし。


「よし、中に入ってボス戦といこうか!」


「お兄ちゃん、穴の中に雑魚敵が居ないって無いと思うよ?」


「だけどなぁ、あの数の犬と猿が居たんだぞ?中にはもう何も居ないって思いたいじゃないか。」


「切実なる希望的観測ってやつだな。きっと熊とか熊とか熊が出て来ると思っている。」


「おにいちゃんはおにいちゃんで重いよ・・・」


「まぁ、入れば分かることだしな。行くか。」


 兄貴の号令で穴の中へ突入する。


 穴はただの穴で、中には子犬や子猿やらが居り、母犬、母猿が牙を剥いてこちらを威嚇してくる。


「こんなオチって予想できる?悪意しか感じないんだゲド?」


 妹の怒りが分かるだけに激しく同意する。


「くっそ、そうは言っても成体はやる気だぞ?逃げられるとは思えんぞ?」


「だからこそなんだって。これ、親を殺った後に子供達の状態によるが、全殺しとか夢見が悪いぞ。」


「しかたないだろ?害獣は増えないように駆除する事が必要だからな?」


「私、軽くトラウマになるって思うよ。このイベやって引退する娘多いと思うな。ユーザー減らすような事して楽しいのかな?

 本当に悪意しか感じないよ!」


「あぁ、そうだな。こんな所まで現実に寄せる事ないのにな。」


 最後の戦いは成体を全て叩き殺して終わった。子供を産んだ後で体力も回復して無かったんだろう。

 このまま放置すれば子供達はそのまま死んで行くだろう。


 ピコン!


 電子音が鳴り、巣の討伐成功の文字が空中に浮かぶ。

 そして目の前にチャット画面が立ち上がる。


【イベント:魔獣の巣の殲滅】

 犬と猿の魔獣の巣を討伐しました。他の魔獣の巣を発見し、巣の討伐を続けましょう。

 討伐報酬:犬の犬歯、猿の犬歯、犬の毛皮、猿の毛皮、犬魔獣の幼体、猿魔獣の幼体


 目の前の子犬や子猿が消える


「ふぁっ!え?あの子達は何処に行ったのよ?」


「あ~、こういう流れかよ。」


「ん?兄貴?」


「昔なこういうイベントが流行ったことが有るらしいんだ。

 巣を潰滅させて、その巣に要る敵の幼体を手に入れろって感じのな。」


「なにそれ、悪趣味極まりないじゃない!自分達が親を殺しておいて・・・」


「使役獣っていうのを手に入れる事が難しい職のプレーヤーに見つければ確実に手に入れられるってイベントだな。」


「ゲームだから・・・現実に寄せておきながら、こんな所だけゲームだからってなってもな・・・」


「聞くけど、お前等使役したい魔獣が居るか?」


「ペットみたいにって事なら、私は兎のやつかなぁ。可愛いし。」


「なるほど、ジュウヤは?どうだ?」


「格ゲーでは狼か鷹!後は虎が定番だ!」


「お前はいつの時代に生きてたんだ・・・で、お前等はそういった魔獣を使役出来ない。

 横には魔獣を連れて楽しそうなプレイヤーが居るわけだ。

 その時にこのイベントが来たときにどう思う?」


「え?それは酷いよ!」


「悩むな・・・」


「当時はリアルでもなかったからな。だからいういうイベントは歓迎されたらしい。」


「「これはゲーム!これはゲーム!これはゲーム!」」


「そうだ!これはゲームだ!現実じゃない!混同してはいけない!が、酷いと思う気持ちは忘れるな!」


 兄貴が真面なことを言うとは。うん、ゲームだ。間違いなくゲームだ。


「それは良いとして、どうする?イベントを続けるか?欲しい魔獣は巣を叩けば手に入るようだが。」


「う~ん?兎は欲しいけどなぁ~。親の目の前ではなぁ~。」


「あ、それ手に入る魔獣は別個体だと思うぞ?じゃないと使役などできんだろ?」


「そうかも知れないけど・・・」


「お前は割り切れないよな。ただ、お前は熊や肉食獣を使役したほうが良いとは思うぞ。」


「あ~、攻撃か。」


「犬と猿でも良いと思うが、1度に連れて行けるのは1体だけだろうからな。」


「ゴブリンとかコボルトとか居ると良いんだけどなぁ。」


「罪悪感が和らぐか?」


「う~ん。それはそうなってみないと分かんないかなぁ。」


「とりあえず一旦街に戻るか。ハロワに終了報告だ。後、使役魔獣の事も聞かないとな。」


 と、言うことで街に戻ってきた。ハロワに移動すると数名のプレーヤーらしき者が受け付けで仕事を受けていた。

 イベント参加者だろうな。ま、頑張ってくれ。


「仕事の報告に来ました。巣を潰滅させてきました。

 これで照会お願いします。」


 3人それぞれの担当の窓口に報告する。


「確かに。巣の潰滅を確認致しますので、また明日おいで下さい。」


「分かりました。あ、それと報酬で犬の犬歯、猿の犬歯、犬の毛皮、猿の毛皮、犬魔獣の幼体、猿魔獣の幼体って有ったんですが、ハロワの報酬とは別ですか?」


「そちらは巣の潰滅が確認されれば報酬としてお渡しする事になっております。」


「そうなんですね。ありがとうございます。疑問なんてすが、幼体が報酬として渡されますが、どうしたら良いのか分からないのですが・・・」


「それにつきましては幼体をお渡しする時にご説明致します。」


「そうなのですね。ありがとうございます。ではまた明日来ます。」


 宿屋へ戻りログアウトする。



 リビングにて3人はお互いに何から話すか悩んでいる。


「飯、食うか。」


 兄貴の一言でそれぞれ好きな物を食べる。うちは自分で食べたい物を作って食べるのが常道化しているためいつもこんな感じ。


 飯を食べ終わり、リビングに再集合。兄貴と妹は外食をしてきたようだ。俺?俺は自炊派だ。ん?どうでもいい?ソウデスネ


 3人でイベントの反省会。後で見ていた妹に俺達2人の立ち回りの事を聞いていく。やはり無手の厳しさが浮き彫りに。後はヒールを掛けるときに相手に触れていないと発動しないことが問題だったとか。

 俺はリーチが無い無手だから相手に対してかなり近い距離に身を置いているため中々近づけなかったと言っていた。

 

 兄貴も棒で相手にとどめを刺せたか割と本気で分からなかったらしく、倒れている相手にも注意を払っていないと行けない事をしきりに言っていた。

 

 俺は狙った場所に攻撃をしているが相手も案山子では無いことを実感した。


 今までは少数の魔獣と戦っていたから粗が見えなかっただけで、攻撃にしろ防御にしろ上のレベルを目指さないと厳しいと結論がでた。


 道場で攻撃は修得したが、防御を習っていないという本気でおかしい事に気付くという。


「明日ハロワで報酬を貰うと、その後に何をするか?

 防御技を一通り習ってから次の仕事を受けるへぎだと思うんだが。」


「そだねぇ、私、防御技覚えれば少しは戦闘に貢献が出来る様になれるかな?」


「それは自分の身を守る為に覚えておけ。ヒールだけでも助かっているんだからな。」


「うん。分かったぁ~」


 そしてまたDFFにログインする。


「どうも、仕事の終了確認出来ましたか?」


 ハロワで担当受付に話し掛ける。

 仕事の終了と報酬の受け渡しが終わる。そして次の仕事の依頼を打診された。例によって巣の探索だった。今回は巣をみつけてそのまま潰滅させても良いという事だった。


「次の仕事に行く前に確認なんですが、こいつらどうしたら良いんですか?」


 受付は、プッと吹き出し、体が小刻みに震わせる。


 何故か?うん。分かってる。俺の頭の上には白い猿が、顎の下に頭を擦り付けてくる黒い犬が居る訳で・・・


「失礼しました。初めからこんなに懐かれるのも珍しいもので・・・」


「そうなんですね。てっきり普通かと。うちの兄弟も似たような感じになってますし。」


 そう兄貴の両腕に必死にぶら下がる二匹の幼体。妹の頭にはなせが犬、胸にしがみつく猿が・・・


 今度はブッと噴き出す受付さん。そして大声で笑っている。

 

「いや、本当にすみません。こんなに懐かれるのとは思っても居らず。

 しかし、困りましたな。」


「え?何が困るんですか?」


「魔獣の幼体はハロワでお預かりする事になっておりまして・・・」


「それは仕事をしに行くときもでょうか?」


「いえ、仕事をするときは・・・あぁ、1体だけ連れて行く訳なんで・・・」


「どうされました?」


「こんなに懐かれていると、別れる時にどうなってしまうのかと考えておりました。」


「それは、残された方が帰ってきた時にどうなってしまうのかと考えると恐ろしいですね。

 そして、預ける時も・・・」


「少々お待ち下さい。」


 そう言うと兄貴と妹の担当受付を呼び3人で何やら話を始める。

 いや、ですが。とは言え・・・この様なケースは

 等聞こえてくる。


「すみませんがもう少々お時間を頂きます。」


 そう言うと3人が奥に消えていく。3人は魔獣の幼体になすがままにされる時間を過ごすことになった。なぜ?動こうとしたが、幼体によって動けなくされたからだよ。


「これはこれは。ふむ、初めての事だな。初めからこんなに魔獣に懐かれるとは。

 まさか異世界人は皆こうなのか?いや、おそらくはこのお三方が・・・」


 値踏みして心の声がダダ漏れの厳ついおっさんが現れた。

「こちらは当ハロワの責任者です。現状の確認とこれからの対応を話し合いで決めさせてい頂ければと。」


「それは構いませんが・・・」


「本来魔獣の幼体と言えども人には懐かない個体も多く時間をかけてゆっくりと懐いていくもんなんだよ。

 使役する者も最初のうちは魔獣から攻撃される恐れも有るために口輪をつけたり、爪で攻撃が出来ないよう手袋、靴を装着せる等するもんなんだ。」

「仕事を一緒にすることで絆を強くしていく事が普通なんです。」

 受付担当さんがフォローしている。


「ん?その言い方だと絆が結べた魔獣は違った扱いになるように聞こえますが?」


「これは識っている者は識っている事で秘密でもなんでも無い事なんだが、魔獣を連れている奴も少なくは無いんだ。この町では珍しいがな。」

「初めから連れて歩く事が無いっていうだけで、町の方もそれは知っているのですが・・・」


「1体だけっていうルールですか?問題は。」


「そうなんです。なぜ1体だけかと言いますと、2体居ると魔獣同士で戦ってしまったり、魔獣の本性が目覚めると言いますか、簡単に言ってしまうと片方が嫉妬からおかしくなってしまう。ということが分かっているんです。

 ですが、この幼体達からはそんなそぶりも無く・・・」


「え、今結構恐いこといいませんでしたか?2体になると暴れるとか。」


「ええ。言いましたが、こちらもハロワですので魔獣の1体や2体は問題なく抑えられますので。

 そして直ぐに調教を行っていくという流れが有りますので。」


「だとすると笑うよりも驚く所だと思うんですが?」


「いやぁ、この状態を見て、驚くよりも笑いの方しか出ませんでしたよ。」


「まぁ、要らねぇ話は置いといてだ。様子見しかないだろうな。引き離したらどうなるか分かったもんじゃねぇ。」

「では?」

「ああ、許可だ。」

「では、こちらの用紙に名前と魔獣の種族、性別を記入して頂いて・・・・・・・」


 良く分からないまま言われるがままに進んでいき、魔獣の幼体に首輪を装着し、仕事を受けさせられてハロワを追いだされた。

 また、幼体の報酬が出たときにはまた考えますと言われ、最後に巣になぜ2種類の魔獣が住んでいたのか不思議だと言われた。


 しかし、こいつらえらく可愛いんだよな。子犬と子猿、可愛くない訳がない。戦力にはならないだろうが・・・


 妹は既に次の可愛い魔獣の幼体に会いに行く!とあの巫山戯た場面を忘れている様だった。正しくゲームにハマった人間だよ!まったく・・・


 色々と思うところは有るが、楽しみますかね!

 俺はこれからの無手地獄をまだ知らない。

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