最強従者は今日も自由 第一章 第一話
「ここの森すげぇな!」
或る森の中で、一人の男が喜々として其処に生える植物を摘んでいく
「モーリュ、ハオマ、養神芝、ウムドレビ、こっちにはシルフィウムもあるぞ!ここの森は凄いな!」
そうして興奮していたからだろう。男は背後から一人の男が近づいている事に氣が附いていなかった。近づいてきていた男は植物を見漁っていた男の側まで近づくと、頭を鷲掴みにし、軽々と身体を持ち上げた。
「お、お前何をするんだ!」
そう言い、掴まれた男は、抵抗しようと相手に向かって虚空から火を放つ。
「ッチ、火を使うな植物が燃えるだろ・・・!」
そう叫んだ後、掴んでいる方の男は、足を払い火種を消す。
「お前こそなんだ。人が丹精こめて育ててる植物を盗ろうとした挙句燃やそうと。此処は私有地だぞ?」
私有地と言うことは、ここは領域だと言うことだ。それに氣附いた男は命乞いを始めた。
「し、知らなかったんだ!もう一生しないと誓うから許してくれ!」
「そういう割には、離さずに持っている奴があるように見えるがな。まぁいい、生き血は栄養になるんだ。自家製法だがな」
そう言って、鷲掴みしている男は容赦なく頭を握り潰す。男が惨死体を放り投げようとすると、一人の少女がやって来た。
「糸垂ー!そっちの植物はどんな感じに育ってる?って何その死体」
「見にきたらこいつに漁られてたからな。ちょっと養分になってもらった」
糸垂とは、男の名前である。花筏糸垂、それが彼の名だ。170cm程の身長をしていて、細型の体型。右目が蒼、左目が紅のオッドアイである。そして、何よりも目をひくのは腰に掛かった二振りの剣と、背中の二本の大剣だろう。
「ていうか、お嬢様。何回言ったら一人で外に出るなと分かってくれるんですか」
諦め混じりに糸垂はそう言った。
「だって糸垂が居ないと退屈なんだもん」
そう言って少女は糸垂に抱きついてきた。この、如何に甘えたがりな言動をとる少女の名前はテクエラ・フィーネという。
「他の人だって居るでしょうが・・・少なくとも外に出る時は誰かといて下さい。」
「ちゃんと日傘持ってるもん。」
「そういう問題じゃなくてですね・・・」
テクエラ家は吸血鬼の家系である。吸血鬼は日光に弱く、もしもの事があるため、位の高い家系の者は年齢に関わらず従者か隷属を、少なくとも一人は絶対連れるのだが、この少女は違った。糸垂以外を連れていくのを頑なに拒むのだ。だが、糸垂も従者という立ち位置に立っているため強くは言えず、結局そのままである。
「そういえば、もうすぐ全人闘技が開かれるのよね?糸垂は出場するの?」
「出るんじゃないですかね。賞金が出ますし」
「そうなんだ」
全人闘技とは、全ての人が己の実力をぶつけ合うイベント的な奴である。出場条件は無く、種族・生い立ち・地位・立場などに関わらず、様々な場所から様々な人が来て、とても賑やかとなる催しである。その実力とは、まぁ、基本的には武術か魔術である。魔族や魔術などの、魔を絶対的悪とみなし排他しようする巨大勢力、聖協会という物が存在するが、この日だけは大っぴらな活動はしていない。
「取り敢えず、屋敷に帰りますよ」
「はーい」
そう言ってフィーネはまた抱きついてきた。
・・・・・
「あっ!帰ってきた!」
屋敷に戻るなり、一人の女性が駆け寄って来た。
「フィーネちゃん心配したんだからね」
「だからお母さんは心配性すぎるって」
その女性の名は、テクエラ・アデサラ。テクエラ家現当主であり、フィーネの母親である。なのだが、堅苦しいのが嫌いらしく、従者には敬語などはあまり使わないように言っている。とくに特に糸垂に対しては強くそれを言っているが、理由はあるのだろうか。
「そういえば、これ糸垂にだって」
と、一つの便箋を差し出してくる。開けてみると、それは、
「招待状か。明日の暮れに・・・エントゥルーム国騎士傭兵場だと?国の傭兵場に呼び出していいのか?」
エントゥルームとは、世界の中心都市である。そんな国の騎士傭兵場に魔族の従者を呼ぶのは反感を買う気がするが。
「なんか、凄腕の剣士が居るって噂になってるらしいよ」
「はぁ、?持ち上げるのも大概にしてほしいものだが」
「行くの?」
「まぁ行くか・・・断って後が面倒になるがそれこそ面倒だ」
「私も行く!」
それまで黙って話を聞いていたフィーネがそう言った。
「久しぶりに糸垂の剣見たい!」
「いや、でも、さすがに」
「連れていってあげたら?」
「・・・分かりましたよ」
当主の発言に押され、フィーネを連れて行く事になった。
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かくして今日に至る。