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Episode 2.5 Side:Vivid=Clown

読者の皆さま、こんにちは。月の獣でございます。

こちらの作品はpixivで公開していた小説の移植版です。

基本的に違いはございません。更新はpixivが先になります。ご了承ください。

https://www.pixiv.net/novel/series/13595863

「おい、紫雲っ、寝るんじゃねえぞー」

 また同僚に起こされた。同僚というより、この無機質なビルの2階で生活を共にする同居人というべきか…

「別にちょっとくらい、別にいいでしょ〜!」

 デバイスで頭を叩かれた。それも結構な勢いで。

「痛いょぉぉ。ねー、女子を叩く男子はモテないよぉ!」

「知らないな、仕事をしたらどうだい。」

 あいつはそのままどっか行ってしまったようだ。今日はいつになく態度が冷たい。目の前の机を見る。仕事が山積みだ...今日やる事は、通信網用のサーバープログラムと、排熱をどう処理するか、あと、今日はパン屋さんが空いている日だから行かなくちゃ…

「まぁ、ひとまずコーヒー淹れるかぁ」

 この街は、朝に霧がかかる。新市街ではそんなことなかった。窓ガラスの近くにある机にはガスとポットとフライパン、パンと卵とチーズ、ミネラルウォーターと包丁とまな板、最後に紅茶と…あれ、コーヒーがない……個人的に今は、紅茶の気分じゃない!!朝はコーヒーって決まってるのに。


 午前中に排熱処理に関する提案をスケッチブックにまとめた。A3のスケッチブックを13枚も使ってしまったが我ながら良い考えだ!薄い紙に鉛筆で描かれたその設計図は、何度も消したり線を引いた跡がある。

「よっしゃ、あとはあいつに全部回してしまおうー!手先が器用なのはあいつのほうだし〜」

 私は天才プログラマーであり、天才料理家でもある紫雲だ。今日こそおいしいご飯を作るのだ!!鉛筆をスケッチブックの上に叩きつけるように置いた。この部屋の反対側の壁のほうにキッチン(仮)がある。適当にパンを取り、ベーコンと卵をフライパンに落とし込む。なんて贅沢なんだ!…卵の黄身は割れてしまった。じょわじょわと鉄のフライパンから音がする。そろそろいい頃合いだ!パンにそれを挟み、一気にかぶりつく!!


「す、少し焦げて、、これは少しなのか…?…まだ研究の余地が存分にあるわね、伸びしろしかないわ。」

 

 午後、まずはパン屋さんに行く。旧市街で食べ物の確保は新市街に比べると難しい。まず毎日やっているスーパーなんてものはないし、コンビニもない。こうやって売られている野菜や雑穀を買い生きる。

「いつもの、おねがいしてもいい?」

 ベーカリーのおばさんはフランスパン3本、もう1本はナッツ入りで準備してくれた。紙幣を手渡してパンを受け取る。本当にいい香り〜!

「毎週お世話になっているね…はいお釣り。来週は水曜日に開くからね、再来週は土曜日だよ〜」

 私たちのビルから歩いて2分のベーカリー。どうか潰れないで欲しいところだ。


 事務所に戻った。部屋にコーヒーの香りが充満している。

「あんた、先に帰ってたんだね。」

「紫雲遅かったな。これが設計図か?」

 同居人はコーヒーを啜りながらスケッチブックをペラペラとめくっている。キッチン(仮)には熱々のコーヒーが入ったカップが置いてあった。カップを持ってそっちの方へ向かった。

「紫雲、ここ、もう2mmずらしたらいいんじゃないか。」

「そのミソは?」

 ふーっと息を吐いてからコーヒーを啜った。多分舌を火傷した…猫舌なのは昔から変わらないなぁ。

「このラックとちょうどいい感じの互換性を持つと思うんだ、この2mmがね。できそう?」

「2mmぐらいは誤差だよ、じゃ、それでよろしく。」

 コーヒを机において、すっかり短くなった青鉛筆で修正点をぱっぱと書いてあとはやつに丸投げだ。この天才紫雲ちゃんはやらなきゃいけないことがもう一つあるのだ。


「いいいいい終わらないよぉぉぉ」

 無数のプログラムコードがデバイスに表示されている。机においてある3つのデバイスの画面をしゅばばばと操作して、その応答を待っている。手元においてある計算用のスケッチブック。これはA4サイズ。もう真っ黒になったページだらけで、ちぎれたページが床に乱雑に落ちている。

「なんで計算が合わないんだ?ねえぇぇっ。」

 天才紫雲ちゃんは机に広がった紙に顔を埋めて悶絶している。机の上にある3杯のコップ。全部紫雲のものだ。

「おいおい紫雲、宮市本班の出身だろ…新市街の通信網張れたからこっちも楽勝だといったのはそっちのほうだろ?」

 同居人よ、今はほっとけ…この天才紫雲ちゃんは感情の起伏が激しいのだ。紫雲の後ろのラックには続々と風冷装置が取り付けられていた。




「風邪引くぞ。」

 夜も更け、既に26時。机に突っ伏したまま寝てしまっていたのか…な…。身体にはヤツのコートがかかっている。ヤツは既にソファに寝っ転がって寝る準備をしているらしいと、目をこすりながら見た。

「ねぇ、あんたはさあ、この旧市街でさあ、なにがしたいのぉ?」

「…新市街では不幸な人形ばかり作ってきたから…このプロジェクトが成功したらひとまず機械人形を作ってみるさ。戦闘はできないやつをね。」

「あんたのそんなさ、じゅんすいな顔なんて久しぶりだなぁ。いいかおだねぇ。」

 机からソファーの横に座る。ふわふわで座り心地がいい…暖かさが横から伝わる。

「紫雲、酔ってるのか…?変なもの食べたのかい?」

「あたしったら常に正気だよぉ。じょうちょふあんてーなのはいつものことだろー。」


「にしてもさー、あたらしいお人形さんかぁ。まさかスキャッターがそんな事するなんてなぁー…」

「今はその名前で呼ばないでと何度言えば…クラウン?」

「はいはいわかりましたよDr,Sigma。」

「よくできましたね、紫雲。」

 紫雲はそのまま寝落ちした。シグマは全く動けなくなった…



ーーーーー



「あんたとこのプロジェクトができて良かったよー」

「そうですか、紫雲。私はあなたに振り回されてばかりでしたが。」

 エンターキーを押したら、この旧市街に新しい通信網が完成する。2年と3ヶ月という長い期間を費やし、ようやく…

「『超快速通信網プロジェクト』はもうすぐ一つの幕引きだね!」

 あいつの手を引いて一緒にエンターキーに指をかけた。あいつはびっくりした顔をしている。私たちは、新都市に普及している国家安全通信線よりも、政府の実験やらで使う政府通信網よりも性能がいいものを開発してしまったのだ。

「これからの計画が本番でもある...よろしくね、シグマ?」


ー[loading...]


ー操作は正式に受理されました。


=============


 


「紫雲、すこしいいかい。」

 あいつは珍しく息が切れた様子で、私よりも頭一つ分小さい、女の子をお姫様抱っこしている。

「あー、ね、私のこともお姫様抱っこしてよ!ねーいいでしょ、しーちゃん?」

「なんだいその呼び方は...じゃなくて、何かタオルかなんかはないかい?あと何か温められるものを...」

 楽しいコーヒータイムが奴に邪魔されてしまった。誠に不愉快極まりないが...奴が私を頼るのも珍しい。とりあえず飲みかけのコーヒーを置いてソファーを離れた。ああ、私の愛おしきふかふかのソファー...


「ほれ、布団とほかほかのタオルだよー。あとは?」

「いや、これがあれば十分かな。ありがとう、紫雲。」

 さっきまで私がいたふかふかのソファーはその少女に取られてしまった。私は仕方なく固い木の椅子に座った。

「なんなのその子?旧市街に捨てられた人?」

「おおよそそうだろうけども、どこかで見たことがある気もする。新市街で...思い出せないけど。」

 キズが付いているその顔にタオルを当てて、拭いている。ああ、なんと奴は優しいのだ!常日頃思う事であるが、シグマというやつは本当に優しすぎる。

「あんたはあっちの時からお節介焼きなタイプだよね。」

「そうか?自覚したことはないが...」

 あいつは最近机とにらめっこでずいぶん苦労しているみたいだが、私には知ったこっちゃない。ただ、当番の仕事をこなしてくれればそれだけで十分だ。私はというと、通信網を張ってからはずいぶんと暇になった。しばらくはやる事が何もない...


========================


 やつが拾ってきたあの子は0号と名付けられた。人間のまま生きれば死んでしまうような、そんな子だった。人形と化したのは少し残念な結末?やつは魔造2課だからそれくらいは簡単なことだろうけど...。

「ねえ、コーヒー飲む...って寝てるのかい、風邪ひくよん?」

 机に突っ伏して寝ていた。せっかく私が珍しく優しい一面を見せてあげようとしたのに...そういえば0号の服、一か所だけ膨らんでいるようだ。そっと手を忍ばせてみると...ポケットに何か入ってる。小さなメモ。これは?

 リング式のメモは大半のページが落書きだ。誰かの横顔やら指のデッサンのようだ。最後の方のページにだけ文字が書いてある。


「花簪 純情な恋は実らない

 待雪草 死を望むつもりはない

 凶はいずれ巡り私たちの元に来る」


ーああ、彼女はあの人なのか。

お読みいただきありがとうございました。

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