二話 ライフライン:通信網
読者の皆さま、こんにちは。月の獣でございます。
こちらの作品はpixivで公開していた小説の移植版です。
基本的に違いはございません。更新はpixivが先になります。ご了承ください。
https://www.pixiv.net/novel/series/13595863
旧市街にも朝は来るようだ。霧がかかった旧市街、窓ガラスに水滴が張り付いている。先導は博士、後ろから2号が来るようだ。踏みしめるスニーカー。瓦礫の山を歩いてゆく。
「すまないね、オラクル。君にも私達の旧市街を知ってもらわないとね。」
ふと左の方を見た。窓枠はあるもののガラスはない、そんな建物の中で暮らしている人がいた。小さなガスコンロの上に鍋を乗せてベーコンを焼いている。朝ご飯を食べている日常のシーンの切り抜きだが、よく見れば銃を背負っている。治安が悪い。
「オラクル、君はこの街について詳しく知らないだろう。今から行くのは、この街のライフライン...超快速通信網の原点だ。」
さっき落ちていたあの本に書いてあった「超快速通信網」。確か紫雲という人物がそれを開通させた...だった。考えながらまた一歩と踏み出していく。踏んだコンクリート製の壁が崩れて下の方へごろごろ転がっていった。
一つ瓦礫の山を越えて、細い路地へ入った。薄暗いネオン街。さっきの瓦礫の山とは打って変わって、急に発展しているような見た目になった。治安が悪そうなのは変らない。もう既に2㎞は歩いただろうか...
息が切れる、博士が歩く速さは、私が歩く速さの1.5倍ぐらいあるだろう。朝方のネオン街はどこも暗い。日が入らずジメジメしていて、ネオンはどこもついていない。ただ色のついた管が壁に張り付いているだけのつまらない場所だ。足元を凍てつく風が抜けていく。寒い。ふと空を見上げた。
...何かがこちらを見ている。
というより監視している。ずっとこちらを追っているようだ。空中に漂っているそれは、片手で持てる大きさの小さなボールのような何か。思わずシグマ博士の腕のあたりの裾を握った。少し引っ張られた後、シグマ博士と2号は歩みを止めた。
「...何かあったのかい、オラクル?」
目線だけ上にやった。シグマ博士はそれを視認した瞬間、首元に手をやった。目を細めている...2号は武器を銃から、微かに光る剣に切り替えた。
「おいおい...ここまで政府の通信網が届くものか?大体あれは新市街でも限られてるとこしか繋がらないだろ。」
2号が博士に話しかけた。博士は歯を食いしばり短剣を取り出した。こちらに、近づいている?一歩足を引いたその時後ろから羽音がした。小さなボールのような何かが、後ろにもいる。2つのそれに挟み込まれた。
「くそ、予測が3日ずれたか!」
シグマ博士は短剣の刃を後ろから来たそれに向け、首もとの刺青を服で覆い隠した。二人は既に臨戦態勢、自身も懐に隠していた短刀を持った。まだ鞘から抜いてはいない。ボールのそれと目が合った!羽音が近づく、反射的に目を閉じ身体を少し窄めた。暗闇の中、聞こえたのは服がすれる音とじりじりと配線が切れる音。目を開けたその時、ドスンと落ちる音が2回鳴った。ボールはそこに落ちている...まだ電源は入っているようだが。
「おい博士、あんたも剣技ぐらい習得したらどうだい。」
シグマ博士は白いハンカチで手の甲を押さえている。切れたのかもしれない。2号は剣を2、3回その場で回すアクションをして鞘に納めた。そして銃に持ち替えて、トリガーを引く。地面に落ちているそれを処理した。火花が散り、びりびりと音を立てた。2号はなんとなくガンアクションをしてみせた。武器で遊ぶ癖があるのかもしれない。
「地下通路を使おうか。まさか政府軍の監視がここまで来るとはな...」
2号は近くにあったビルの、金属でできた扉を足で思い切り蹴破り、強引に侵入していった。中には誰もいない。2号とシグマ博士はこの作業にとても慣れているようだ。こうするのが普通なのかもしれない...。シグマ博士に建物の床を重点的に探すよう言われた。この辺の家には大体一家に一つ地下通路への入り口が備わっているらしい。暗くてよく見えない...
シグマ博士が一番乗りで見つけた。指さしたそこには確かに木の板で蓋がされた穴があった。10mほど下へ行けるようになっていて、梯子がつながっている。風が吹き抜ける。それと同時に鼻に抜けるツンとした匂い。それをものともせず、2号が真っ先に降りて行った。博士は後からついていくらしいから、2号についていった。
梯子をつかむたび、ひんやりと手にその無機質さが伝わってくる。最初の方こそ、こんこんと順調に下ったものの最後の15段というところで足を踏み外してしまった!「んがぁ」と2号が踏みつぶされた...2号がいて助かった。2号は不服な顔をしている。ごめんって。
シグマ博士もしばらくして降りてきた。なんとなく状況を察したらしく、2号よりもこちらを心配した。2号は完全に拗ねた。
「ここからあと10分は歩く...流石に政府軍のあれもここまでは来ないさ。」
通路はぎりぎり人二人が横に並ぶことが出来るかくらいの幅、高さは2mともう少しくらいだろうか。とにかく狭い。石れんがで組まれたその空間をひとまず歩いてゆく。地下は意外と外よりも温かい。しかし暗い...ちょくちょくある梯子に続く枝道にランタンがあるが、その道中には一つもない。シグマ博士にもらった眼鏡には暗視機能がついていたみたいだ。そんなに鮮明ではないが、形が分かる程度には見えている。だんだん脇道の数が減っていき、暗くなる。特に会話もなく、ただ息遣いだけが聞こえる。
「着いたぞ、オラクル。今度は踏み外さないで登れるかい?」
自信なさげに2cmだけ顔を縦に振った。今度は5mくらいの梯子。登って登って、今回は落ちずに済んだ。一回だけ危なかったけども...
出た先はカビとコケだらけの中庭。四方が10階建てくらいの巨大な壁に囲まれた、小さな空間。
「ここが、超快速通信網の『核』だよ。オラクル、君はここに来たことがあるかい。」
中庭に窓があって、そこから中に入れという事らしい...中には金属のラックが8つ並んでいた。ファンの稼働音だけが小さく響いている。入って右側、奥の方に書斎があるようだ。この空間には似合わない木製の椅子と机。それと本棚。アナログで保管するのがトレンドなのか?本棚の方へ近づいた。いくつか文献があった。私でも読めそうな本を選んでみた。二冊だけ...日記帳のようなものと、政府関係の文章らしきもの。外国の言語ではなく、ここの言語で書かれている。
2号とシグマ博士はさっきのラックの方を見ている。あちらを見ているうちにすこし読んでしまうか。まずは日記帳のようなものの方から...
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