異変
その後は、順調に魔の森を進んでいく。
俺はオークや、上位種のボブゴブリンなどを倒す。
ちなみに、ホブゴブリンは一回り大きくなったゴブリンのことだ。
カグヤは薬草や果実を採取し、ハクが周りを警戒しつつカグヤを護衛している。
何より……ハクがいることにより、安全に休息を取れるのが一番助かる。
「クロウ!これ食べてみて!」
「ん? おっ、サンドウィッチか」
お昼休憩なのでカグヤは魔法袋から、サンドウィッチを差し出してくる。
俺はそれに口を近づけ、そのままかぶり付く。
「うん、相変わらず美味い」
「ふぇ!? て、手で取ってよ!」
「す、すまん」
「べ、別にいいけど……あーん」
「お、おう……あーん」
先程は無意識だったが、意識すると恥ずかしい。
カグヤも、耳まで真っ赤になっているし。
「やはり美味いが……なんの肉だ?」
「オークよ。醤油とニンニクで、隠し味にりんごを絞って入れてみたの」
「それか、この甘みと酸味の正体は。なるほど、カグヤは料理上手になったんだな」
「えへへー、そうでしょ? い、いつでもこれでいけるわ!」
「はい? どこか行くのか?」
「そういう意味じゃないわよ!クロウのバカ!」
すると何故が、肩を叩かれた。
相変わらず、この辺はわからん。
すると、ハクが首だけ動かしてくる。
「グルルー」
「おっ、悪い悪い。ほら、食べな」
「グルッ!」
俺達の今の状態は、ハクが木を背にしてうつ伏せの状態で寝転がる。
その長いフカフカの胴体に、俺とカグヤが寄りかかっている形だ。
このおかけで、こうしてのんびりと食べていられるってわけだ。
「これなら安心して食べれるわね!」
「ハクは気配に敏感だから、敵が来てもすぐに気づくだろう。さらに、パスによって気づいたことがすぐに俺に伝わる」
「グルルー」
ハクから『もっと褒めてとか、任せろ』という気持ちが伝わる。
「おう、ありがとな」
「なんて言ったの?」
「褒めてとか、俺に任せろってさ」
「ハク! 良い子! 頼りになるわ!」
「グルルー……」
カグヤが顎の下を撫でると、ハクがうっとりした表情になる。
こうしていると、ただの大きな猫って感じにしか見えん。
英気を養った俺たちは、再び探索を続ける。
「この辺から気を引き締めていこう。おそらく、以前ドラゴンがいた場所に近い」
「わ、わかったわ……」
「グルルー」
するとハクが、ガクヤの顔をペロッとする。
「わぁ!? 顔を舐めないでー!」
「なるほど、俺がついているか。先に言われてしまったな。ガクヤ、俺とハクがいるから安心しろ」
「グル!」
「う、うん!」
意識を高めて、魔の森の奥にいく。
こっから先は、銀等級以上の魔物しか出てこない。
油断すれば、やられるのはこちらの方だ。
「グル……!」
「ほう? 俺より早く気づいたか。やはり、森の王者には敵わんか」
ハクに少し遅れて、俺も気配に気づく。
そして、森の奥から魔物が現れた。
それは人型に近い姿をしているが、似ているのはそれだけだ。
身長二メートル以上に逞しい身体、そして額から一本の角を生やしている。
鬼のような顔を持ち、お伽話に出てくるような魔物だ。
「あ、あれって……オーガ? 悪いことすると、オーガがやってくるってやつ……」
「ああ、その話の元になった魔物だ。二足歩行の魔物としては、最強種と言われている」
ただ、あれは普通のオーガだから銀等級だ。
噂では、ジェネラルやキングは桁が違うらしい。
「ガァァァァァァ!」
「ひゃん!?」
オーガの咆哮に、カグヤが尻餅をつく。
同時に、俺やハクにもビリビリと圧が伝わってくる。
「中々の気迫に咆哮だ。だが、その行動は万死に値する……ハク! カグヤを頼むぞ!」
「グルッ!」
よし、これでカグヤは安全だ。
俺も、久々に何も気にせずに戦える。
「ふむ……良い機会か」
強くなるために、もう一段上にいかなくては。
俺は剣を地面に置き、オーガに近づいていく。
「ク、クロウ!?」
「大丈夫だ、そこで安心して見ててくれ」
魔力を、身体中にくまなく通す。
全身を強化し、剣すら通さないイメージをしろ。
「ガァァ?」
「よう、強い肉体が持ち味なんだろう? 殴り合いといこうか!」
「ガァァ!」
「ハァァ!」
俺とオーガの拳と拳が激突する。
すると、押し返されたオーガが驚きの表情を浮かべた。
「カァ!?」
「人間と殴りあうのは初めてか!?」
俺の右の拳が、オーガの腹にめり込む。
相手は腹を手で押さえて、苦しそうにしている。
「ガァァァァ……!」
「そんなものか?」
「グ、グガァァァ!」
怒りに任せて、オーガが拳の連打をしてくる。
常人が喰らえば、木っ端微塵になりそうな拳をあえて受ける!
「ガァァァァァ! ……ガ?」
「……なるほど、通常種オーガならこの程度か」
ダメージを負っていない俺の様子に怯えたのか、オーガが一歩下がる。
これ以上の戦いは無意味だな。
「グガガ………」
「もう終いか——魔拳突き!」
「ゲハッ!?」
俺の魔力の込めた正拳突きが、オーガの腹を貫通した。
そして、オーガが仰向けに倒れこむ。
「よし、素手でも肉体強化すれば倒せるようだ」
「クロウ! 凄いわ! まるでエリゼみたい!」
「グルルー!」
「二人とも、ありがとな」
よし、これは大きな収穫だ。
今までは戦争や集団戦ばかりで、実戦さながらの稽古どころではなかった。
だが、これなら鍛えつつも稼ぐこともできる。
オーガなら、冒険者ランクも上がりやすくなるだろうし。
「さて……カグヤ、ハク、体力はどうだ?」
「まだ平気よ!」
「グルルー!」
「二人とも平気か。まあ、カグヤはいざとなればハクに乗ればいい」
そのまま、奥に進んでいくが……少し経って異変に気付く。
「……おかしい」
「え? どういうこと?」
「静かすぎる……こんな奥なのに魔物もいない」
「グルル……!」
ハクが『何か大きな気配がする』と伝えてくる。
「ハク?……どこからかわからないが、強い気配を感じるんだな?」
「グルッ!」
「ハ、ハクって、この森の王者なんでしょ? そのハクが強い気配を感じるって……」
「引き返した方がいいか? いや……遅かったか」
なるほど、気づかないわけだ。
俺とハクは、ほぼ同時に空を見上げる。
「ク、クロウ?」
「ハク! わかってるな!?」
「グルッ!」
ハクが、すぐにカグヤの側に寄り添う。
次の瞬間、空から何かが降ってきた。
そいつは木々を倒しながら地面に倒れこむ。
「こいつは……ワイバーンか!」
銀等級の魔物で、ドラゴンに似ているが似て非なる魔物だ。
胴体は細いし、身体のほとんどを翼が占め、毒のある長い尻尾が特徴的な魔物である。
ただ、数少ない空を飛ぶ魔物ということで、冒険者達から恐れられている。
「《《そのワイバーンを倒す存在ということは》》……来たか」
「グルル……!」
そして……空から赤い皮膚の大きな生き物が、ゆっくりと降下してくる。
大きな翼、鋭い爪、ギョロッとした眼、俺さえも一飲みできそうな大きな口。
体長五メートル超えで、見るものに畏怖を与えるその姿。
「ゴギャァァァァァ——!!」
そう、完全なるドラゴンである。




