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ニュースタイル辻占い

 十歳の誕生日、私がステータスカードを受け取った翌々日から、私はリストランテ・マイヤースの辻占い士になった。けれどもそれは仮の姿。私の本当の姿は厨房見習いだ。でも対外的には辻占いになる、らしい。そういうことになっていた。だから常連さんは料理を運ぶ私に心配そうに声を掛ける。

「メイちゃん、その、辻占いというのになると聞いたんだけど、そうじゃなかったのか? 女神様のご指示だろ?」

 更に実質的な外形は前と変わらず給仕係。厨房に入ったけれど、本格的な料理はまださせてもらえない。まあそれは仕方がない。次第に魔改造すればいいわけで。

「うん。でも一人前ってすぐになれるわけじゃないでしょう? モレルさんだって一人前の漁師になるには随分かかったって言ってなかった?」

「おう。そうだなあ、普通にやれば一人前まで十年はかかるぞ。俺は八年で一人前になったがな!」

 ガハハと笑うモレルさんは古くからの常連さんだ。私のことも小さい頃からよく知っている。私が『辻占い』という聞いたこともない仕事を女神様から指示されたと聞いて、たくさんの常連さんが代わる代わる心配しに来てくれる。

「辻占いっていうのはとても珍しい仕事なの。だからすぐにはなれないの」

「そうか。やっぱどんな仕事も修行がいるもんな」

「うん。そのうち立派な辻占いになるから応援して!」

 そんなわけのわからない言葉と一緒に笑顔を振り向けば、みんなよくわからないなりに激励してくれる。辻占いという言葉の意味がわからなすぎて、誰も何も突っ込んでは来たりはしない。


 けれども辻占いになるということは私にとっては既定路線で、だからその方法はその方法で探らなければならなかった。いきなり道路に店を構えるのは流石にハードルが高すぎる。だから私に何ができるか、あるいは何ができないのか、リハビリを兼ねていろいろ試してみる必要がある。

 そして私にはリストランテ・マイヤースといういい実験場があった。


「メイちゃん、今日のおすすめは?」

「待ってね、占うから。ナムナム、今日はお魚のクリーム煮がいいよ」

「おっありがたい。メイちゃんの辻占いは当たるからな」

 どう考えても昨日アレだけ飲んで帰ったんだから胃があれているはずで、なんだか見た感じもグロッキー。消化のよいものに限る。常連さん向けだけにお試しで始めたそれは、常連さんだけに普段好みそうなものをお勧めして、たまに風引いてそうな時は滋養の良さそうなものをお勧めすればいい。そんな適当な占いは、思ったより歓迎されていた。

 そんなわけで、推測によって何かを当てるものを勝手に辻占いにした。そして両親も最初はしぶっていたけど今は比較的好意的だ。私の料理当ては店の売上に貢献してるし。

「父さん、母さん。私の中の辻占いというものを他にも色々試してみたいの。だから少し、好きにやらせてもらってもいいかな」

「料理当て以外にか……? その、ここは父さんの店なのだが」

「私は辻占いにならないといけなくて、教えてくれる人は誰もいないでしょう? だから私が自分で研究しないとさ。そのためにはどうしても協力してほしいの。この間も占い、当てたでしょう?」

「あれはまぁ、でもあれは占いなのか?」

「鍵が見つかる未来を予想して、その通りにして当てたんだから、占いで当てたんだよ」


 混乱する父さんは不承不承といった感じで了承してくれた。

 この間、父さんの鍵の在り処を占いで当てた。

 厳密に言えば、困っていることはないかと尋ねれば、最近予備の鍵をなくしたと言われた。

 探偵の基本は聞き取りだ。店の鍵のスペアキー。それがどんなものかを聞き取る。形は当然オリジナルキーと同じ。オリジナルと違って青のタグがついている。従業員が急遽必要になる場合に備えて納屋の特定の場所に置いてある。

 誰か心当たりが無いか、3人ほどの従業員に聞いても持ち出したものはいない。

「いつからないの?」

「いつからかな。最後に使ったのは3ヶ月ほど前だと思う。みんなに随分探してもらったんだけど見つからなくてさ」

「鍵は納屋にかけてあったの?」

「いや、黒いポーチに入れてそれを吊り下げてるんだ。そこから取り出してみんなに渡してる」

「出して? ポーチのままじゃなくて?」

 聞けば、ポーチが二重底になっていて、その奥に鍵が入っているらしい。

 それなら鍵ではなく黒いポーチを探すべきなのだ。思い返せば私も何回か納屋にポーチがかかっているのを見たことがある。あの中には搬入物のチェックのためのマイヤースの頭文字が掘られた印が入っているから、てっきり印鑑入れだと思っていた。

 そうすると従業員はスペアキーは鍵の状態しか見ていない。ポーチの中にまさかあると知りもしないわけで、それなら青のタグの鍵を探してもポーチを探すはずがない。だからそもそも、探すものの認識に齟齬がある。違う形状のものを探しても見つかるわけがない。

「占いで見つけた。ちょっと待って」

「え、おい」

 そういえばここしばらく、あの黒いポーチを納屋で見ていないと気がつく。そしてそのポーチは今、搬入口の入り口にかけられているのを私は知っていた。食材の搬入の際の認印入れとして使われている。搬入口に置いておいた方が便利だから。食材の購入は母さんが管理しているから、父さんはそこに移動されたことに気がついていない。

 探すものを勘違いしている。そういうことは、失せ物探しにおいてよくある基礎的な勘違い。

 だから私はそのポーチを搬出口からもってきた。

「あれ? どこにあったんだ?」

「搬出口にずっとあったよ。鍵は別に管理したほうがいいわ。好きにしてもいいよね」

「ああ……」

 本当に好きにしたいのは料理の方なんだけど、


 探偵助手をしていた前世のテクニックを色々と試す。

 意外と応用できることがあった。占いとして使えそうな失せ物探しはその人間の動線や行動パターンを調べることによってある程度は浮かび上がる。

 一方で未来の傾向というのは大枠のところは統計資料であたりがつく。いつ頃どんなものが輸入されるか、どんなものが売れるかは商業ギルトの商売の履歴を見れば自ずと浮かび上がってくる。ギルドの資料より使徒に聞いたほうが精度は遥かに高かった。恐らく使徒には圧倒的な商才というものがあったのだ。だからきっと、ステータスカードを受け取る前は誰も商人になることを疑いもしなかったのだろう……。同士という言葉の闇が深い。

 商人というのはそういう知識を経験則でそれを知っているけれど、統計データとしてみれば、経験せずとも浮かんでくるものがある。それはあたかも魔法の占いのように受け止められた。

 将来の予測……一番当たる、というのも語弊があるけれど、それは未来の恋人はどこにいるのかというぼんやりとした占い。そんなものは好みの異性をそれとなく聞き取り、出会いを求める男女を勝手にマッチングして、特定地点で出会うように行動を指定して仕組めばいい。グレーの服を着ている人が相性がいいと片方に伝え、もう一方にはグレーの帽子が幸運を導くと告げる。そうすると勝手に程よい異性が見つかる。だんだん詐欺まがいになっている気がしてくるけれど、私が料理を落ち着いて始めるには、まず辻占いにならないといけない。それで自分が料理をすべきという占いが出たことにすれば、料理をしても変な目で見られない、はず。うん、完璧。


 その結果、この占いという名の、前世でいうところのコンサルティングや出会い系の元締めのような活動はそれなりに成功していた。大きな商会や組合を相手にする占い師と対比して安価で小規模な事件を扱う占い師として街で個人や小商店を相手に占いをする『辻占い』という職業が爆誕した瞬間である。

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