ハスカールの超越者、マセナ・リィ
超進化宝珠を宿した俺たちは、自分のことを『超能力者』と呼んでいた。
だけど俺たちは、実際のところ念動力以外に、超能力者っぽいことができなかった。
瞬間移動とか未来予知はおろか、テレパシーだってできなかった。
だから俺が感じた殺気も、ただの経験であり勘でしかない。
それでも俺の勘は外れなかった、俺の感じた方向、遥か彼方から『攻撃』が飛んでくる。
「嫌な予感が……するなあ!」
小鳥程度の大きさのものが、高速で接近してきている。
ただ一発の、小さな弾丸。しかしそれは、俺の背筋に冷や汗を流させた。
俺は巨大な黒い念動弾を発射して、それを撃ち落とそうとする。
「なに?!」
だが俺の放った特大の念動弾を避けて、その弾丸は俺に向かってくる。
俺はとっさに横へ飛びのくが、それでも追尾してくる。
「迎撃を回避し、おまけに敵に追尾する……紫タイプか!」
紫タイプなら、見えないほど遠くからでも狙撃できる。
腑に落ちた俺は、黒い煙で全身を守った。
全方位を隙間なく守れば、どんな軌道をしても当たらない。
そう思っていたのだが……。
「弾丸が……俺の煙の中を進んでいる?!」
俺の作った煙にぶつかった弾丸は、はじけ飛ぶことなく食い込んでいた。まるでドリルが木の板に穴を開けるように、きゅるきゅると回転しながら進んでいた。
もちろん途中で止まったのだが、明らかに威力がおかしい。
紫タイプの能力は、誘導やらなんやらの融通が利くが、攻撃力はさほどでもないはずだった。
「……なんだ、この弾」
そう思った俺は、その弾丸を凝視する。
するとその弾の異質さが分かった。
その弾丸は、単色ではなく赤と紫の縞模様だった。
つまり、赤の破壊力と紫の利便性を併せ持つということだが……。
「赤と紫の混合技?! そんなこと、できるのか?! 能力は一人に付き一種類だし、違う色では協力技とか合体技なんてないはずだ!」
さっきの装甲車両も、一つの武器で二色を併せ持っていた。
だがあれは、銃を赤、車を黄色という具合に分けていた。それに、乗っている人間も二人だった。
アレは実質、二人の人間が一つずつの武器を使っているようなものだけだった。
だがこの弾丸は、明らかに違う。
「これが、制限異能宝珠と異能技術兵器の強みよ。才能のある人限定だけど……複数の色を混合した技が使えるわ」
「うわあ……昔俺たちが考えた格好いい必殺技が使えそうだな……っていうか、全色使えるのとか出そう」
「さすがにそれはいないわよ、二色でも珍しいのに、全色なんてありえないわ。最大でも四色よ」
「十分多いっての……で、こっちに攻撃してきているのは誰だ?」
赤タイプは破壊力が高いが、火炎放射器みたいなもんなんで、射程距離が短い。
これに紫タイプが合わさることで、威力を維持したままの長射程、しかも命中率百パーなんてバカみたいな攻撃になっている。
もちろん俺の黒タイプも、遠くの相手を見つけるとかそんなことはできないわけで……。
「ハスカールの超越者、マセナ・リィよ。他は教えないわ」
「なんでだよ! 意地悪するなよ!」
「私にも立場ってもんがあるのよ。アンタばっかり贔屓したらマセナに悪いわ」
「このままだと、お前も死ぬぞ?!」
「別に……アンタと一緒に死ぬなら、それでいいわ」
捨て鉢な言葉だが、俺もわかる。
色気がどうとかじゃなくて、最後の仲間と一緒なら死ぬのも怖くない。
そういう気持ちは、わかっちまう。
わかるが、俺はまだ死ねない。
アキラにも、死んでほしくなかった。
「まあいいさ、言いたくないなら黙ってろ!」
もう十分情報はもらった、マセナって奴は全色はもってなくて、赤と紫ぐらいだろう。持っていても、あと一色ぐらいのはずだ。
それぐらいなら、なんとかなるはず。
俺は念動力で自分の体を浮かすと、そのまま弾丸が飛んできた方向に向かって飛んでいく。
黒い煙が飛行機雲のように軌跡を残して、俺は高速で突き進んでいた。
次はいつ狙撃が来るのか、そう思って進んでいたら、迎えてきたのは連射だった。
さっきの装甲車も赤タイプのマシンガンをぶっ放してきたが、それとは違う紫と赤の混合弾。
俺の防御壁の中に食い込んでくるその弾にはびっくりするが、俺の分厚い壁を突破するようには見えない。
大体俺の防御壁は青タイプと違って、壁を作っているわけじゃない。
全身から念力を押し出し続けているようなもんだから、消費も多いし強度も大したことないが、穴だらけになってぶっ壊れるってこともない。
少なくとも、ぶっ放してきている奴に近づくには十分だった。
「なんだ、荒野に穴?」
荒野にぽっかりと、大きめの穴が開いていた。
大昔にあった地下駐車場、その入り口がこうなったって感じだろうか。
とにかく今も、そこから弾丸が発射され続けている。
俺はそこに突っ込むと、弾丸をぶっ放していた『物』をぶん殴った。
「……なんだ、これ」
穴の中から弾を連射していたのは、雑に言って固定砲台だった。
自動運転なのか遠隔操作なのか、とにかく人がいない。
穴の中に置かれていた固定砲台が、俺に向かって射撃をしていたってことだ。
「無人の異能技術兵器……これも、紫タイプだからか?」
囮だった、と思った俺は、周囲を見る。
マセナって奴が近くにいるかも、と思ったからなのだが……。
朽ちた地下駐車場の中には、ぎっしりと、どっかで見たような物が仕掛けられていた。
「ぷ、プラスチック爆弾……型の異能技術兵器?!」
赤と紫の、縞模様。
それで彩られた、四角い爆弾。
それがもう、わんさかと、爆弾の倉庫かってぐらいみっしり置かれていた。
「な~~~!!」
俺がそれに気づくと同時に、それは全部、景気よく爆発していた。
赤と紫の爆風に、俺は吹き飛ばされていた。
※
「アキラ、生きてるか?」
「ええ……アンタのおかげでね」
俺とアキラは、まとめて吹き飛んで、地面に転がっていた。
防御が間に合ったんで死にはしなかったが、とんでもなく無様に転がっていた。
「すげえ威力だったな……ああ、お前のケリより効いたかもな」
「あれだけ爆弾があれば、そりゃそうでしょう……その爆発から、私を守りきるとはね」
「爆弾だってのは、見ればわかったからな」
俺は起き上がりつつ、ほこりを払った。
周囲を見れば、ちょっとしたクレーターになっている。
すり鉢の中心にいる俺は、改めて自分とアキラの無事を確認し、一息ついた。
「さあて……相手が俺の賞金目当てなら、死体の確認ぐらいはしに来るはずだよな……そこだああ!」
俺はすり鉢のヘリに向けて、黒い念動弾を放つ。
超巨大なその一撃は、何にも妨害されることなく突き進み、空に向かって消えていった。
だがその弾でえぐって見えるようになったところには、銃を持ったまま転がっている女がいた。
こいつがマセナとみていいだろ、俺はそっちに向かってジャンプする。
「ぐ……まさか、傷を負っていないどころか、ほとんど消耗していないとはな」
「いやいや……きれいに、きれいに罠にはまっちまったよ。びっくりだ」
そこにいたのは、腰までの長髪で、サバゲー風のミリタリー服を着ている女だった。
年齢は、二十代の後半ってところだろう。
手に持っているのは赤と紫の狙撃銃だが、それをこっちに向ける様子はなかった。
「正直に言って、なんかもう一周回って恥ずかしいから、アンタで遊ぶ気はないんだ。ここで帰るんなら、それで手打ちにするぜ」
「……なんの冗談かしらね」
マセナは、まだやる気のようだ。
「おいおい、あれだけの爆弾くらってぴんぴんしている奴と、まだやるのか?」
「逆よ、あれだけ爆弾を使ったから……もう後がないわ」
「?」
「貴方に使った爆弾……アレね、会社の支給品だけじゃなくて、手持ちの貯金全部と、おまけに借金までしてそろえたものなの」
何をバカな、って言いたいけども、なるほど、さっきの爆弾の量からすれば納得だった。
「念には念を……貴方を殺すために、念入りに準備して、在庫を全部引き取ったわ。自分でもオーバーキルだと思ったけど……それでも足りないなんてね」
「じゃああれか、これで俺を殺せなかったら借金地獄ってか」
なるほど、それなら逃げられね~わな。
だけどそれでも、わからないことはある。
「なあ、ええっと、マセナ、だっけか? アンタ、強くて有名なんだろ? なんで借金までして、俺を殺そうとするんだ?」
「お金のためよ」
帰ってきた答えは、死ぬほどシンプルだった。
「いや、お前……お金に困ってないだろ?」
「貧乏で困っては、いないわね。ついでに言うと、生まれが貧乏だからお金に執着しているわけでもないわ」
なんとも、あけすけなものだった。
「お金は、あればあるほどいい。あなた一人を殺して十億手に入るなら、やるに決まっているわ」
「俺の命じゃなかったら、同意できるんだがな……当事者なんでな……」
ここまで開き直られると、もう清々しい。
だがまだやるっていうのなら、俺も相手をしなければならない。
というか、こいつには、まだ勝算があるようだった。
「さっきの爆発から身を守るために、結構疲れているんじゃないかしら?」
「どうだろうな」
「見た目は平然としていても、あと少し押せば倒せるんじゃないの?」
「どうだろうな」
「……賭けるには十分よね」
マセナは持っていた狙撃銃を、片手でつかんで、放り捨てようとしていた。
「知っているかどうか分からないけど、私はね……アキラ様に勝ったのよ」
「ああ、らしいな」
「でもアキラ様相手に、さっきみたいな戦法が取れるわけないわよね?」
「それは、そうだろうな」
「私がどうやって勝ったと思う? 腰の、拳銃よ」
サバゲー的な軍服を着ているマセナの腰には、当たり前っちゃ当たり前だが、拳銃が付いていた。
多分だが、それも異能技術兵器なんだろう。
「これは念動蓄電池を搭載していないけど……その分、私の念力がダイレクトに乗るわ。加えて言えば、私の今までの攻撃は、全部念動蓄電池によるもので、私自身はつかれていない。私の全力を、この拳銃に込めることができる」
「……まさかお前、早撃ち勝負でも持ち掛ける気か?」
「怖いの? まあもっとも、この状況なら嫌でもそうなるけどね……」
そういって、マセナは狙撃銃を放った。
「言っておくけど……私の早撃ちは、アキラ様より速いわ」
「なに?!」
「黄色の性質を持たない私の……ただの早業、人の技よ!」
狙撃銃が地面に落ちて、その音が鳴った瞬間、マセナは西部劇のように腰のホルスターから銃を抜こうとした。
俺はそれを見て、合わせるように掌から念動弾を放つ。
「がっ!?」
「……あれ?」
アキラより速い、アキラに勝った、と言っていたマセナ。
そのマセナが絶対の自信を持っていた早撃ちよりも先に、俺の念動弾がマセナの腹部に当たっていた。
ノーガードでくらったマセナは、そのままお腹を抱えて、地面にうずくまっている。
口からは、よだれ以外のなにかも吐き出していた。どう見ても、演技じゃない。
「……おい、アキラ」
「なによ」
「こいつ、お前に勝ったんだよな?」
「ええ」
「こいつ、お前よりも速いんだよな?」
「……」
「おい、なんか言えよ!」
再会したときにアキラと戦ったときは、今のマセナより断然早かった。
それならマセナが遅くなったってことなんだろうか?
「なんていうかこう……あれよ」
「なんだよ」
「よく考えてよ、私に挑戦する人って、各組織最強の子なわけじゃない?」
「まあ、そりゃそうだろうな」
「ケガさせたら大変でしょ?」
俺の胸ポケットに入っているアキラは、もう隠せないとばかりに、素直に話始めた。
その言葉を聞いて、うずくまっているマセナも、目を見開いている。
「まさか……お前、手抜きしてたのか?!」
「だって、本気出したら殺しちゃうし……」
「そりゃそうだろうが……」
アキラが話す度に、マセナの顔色がどんどん悪くなっていく。
それはそれだけ、マセナにとってショックだったってことだろう。
「じゃあ何か? お前に勝ったっていう五人の超越者は、手抜きしているお前に勝って、それに気付かず調子に乗っているだけで、実際にはお前よりずっと弱いのか?」
「まあ……そうね」
なるほど、だから言いにくそうにしていたのか……。
「今の時代の五人に限らず、私より強い異能者なんて、今まで一人もいなかったわ。適当に戦って、ああ十分だなって思ったら、相手を立てて降参していたのよ」
「嫌な大人だなあ、おい……っていうか、だからなのか?! お前が実力を隠していたせいで! 俺が過小評価されてるのか!!」
「……ま、そうね」
マセナの顔が、どんどん青くなっていく。
今までの自信が、誇りが、消えて行ってるわけだな……哀れだ。
「ふ、ふざけるな……じゃあ私は、私の先輩たちは……勝ちを譲られていただけで、お前を、神を越えたわけでも何でもなかったのか……!」
「殺していいなら、まとめて瞬殺できるわ。でもそれを言ったら、貴方たち傷つくでしょう? どれだけ頑張っても全然勝ち目がないなんて、嫌でしょう?」
優しさで包んでいた真実を、本人に明かされる。
マセナは、心底から絶望していた。
「……かわいそうな話だが、これも勝負だ。お前は封じさせてもらう」
「クソが!」
俺は嘆き悲しむマセナへ、汚染を施す。
「クソが、クソが、くそったれがああああああ!」
「もうしゃべるな……チャイルド・ロック!」
悔しそうに泣いているマセナを、小さなキーホルダーに変える。
コミカルでデフォルメされた『泣きながら地面に拳を叩きつけているマセナ』になった彼女からは、思考もなにもかも奪っていた。
戻そうと思えば戻せるが、戻さないほうがいいかもしれない。
「……なあアキラ、残る四人も俺のことを舐めていると思うか?」
「まあ、舐めるでしょうね……私が手加減していたことを知らないから、勝ち目があると思い込んで、自信満々で襲い掛かってくるわ」
「……」
「言いたいことがあるなら言いなさいよ! でもねえ、じゃあ試験で半殺しにすればよかったって言うの?! 違うでしょうが!」
わからんでもないが、やっぱりこいつが悪いんじゃないか、と思う俺であった。




