駆除業者ハスカール
汚染地帯付近で、俺たちは当てもなくさまよい続けていた。
どこまでも続く荒野の中で、とぼとぼと歩くのだが、会話は不思議と弾んでいた。
「さっきの子たちは、ハスカールっていう会社で働いているの。ハスカールはさっきみたいな汚染された怪物を駆除して、私たちの町に近づかないようにするお仕事をしているわ」
「で、銃? バイトに銃配るとか、すげえ話だなあ……」
「ちゃんとした人を派遣できるほど、人手がないのよ」
「バイト感覚どころか、マジのバイトで怪物退治か……それにしても、俺、賞金首なんだな」
普通の人間だった時なら、賞金首になったってわかったら、そりゃあもう絶望しただろう。
だが今はそれなりに強いので、余裕もあった。
「この時代で十億ってどれぐらい? 何が買えるんだ?」
「いい家が建つぐらいじゃなの?」
「俺の命はいい家一軒分の価値か……」
「安すぎるわね……賞金を懸けたのは五大老でしょうけど、いろいろ甘く見過ぎだわ」
というか、アキラにも余裕があった。
俺が負ける、殺されるなんて考えてもいないようだ。
こいつに緊張感がないから、俺も緊張感がないんだよなあ。
「話を戻すわね。私たちの町にはハスカール以外にも武装勢力がいるんだけど、念動蓄電池を使っているのはハスカールだけよ」
「なんで」
「戦ったときにわかったでしょうけど、念動蓄電池を使った武器はそんなに強くないわ。最大出力が大したことないし、長時間維持したらすぐ電池切れを起こすのよ。たくさん念力を溜めておくには、大型の電池がいるしね」
「ふぅん……そこは普通の電池と同じだな」
あのカップルが笑っていた時とか、バカにされていた時は俺の人生が全部無駄だったのかと思ってしまった。
だけど、そんなことはないらしい。電池よりも、人力の方が上みたいだ。
「それでもハスカールが念動蓄電池を使っているのは、ちょっと講習を受けるだけで使いこなせるからよ。汚染された怪物を倒すには、あれぐらいでも十分だしね。ちょっと強いのが出ても、それより少し強い武器を持ち出せばいいわけだし」
少し強い武器、とはどんなものだろうか。
俺はちょっと考えた。
漫画で出てくるような、担ぐような大砲でもあるのだろうか。
それから赤色の攻撃が飛び出てくるのなら、いよいよ特撮番組だろう。
そう思っていると、また俺の耳に車の音が聞こえてきた。
またさっきのカップルが乗ってたみたいな、軽トラックでも来るのかと思っていたが……。
そっちを見ると、もっとすごいのが走ってきていた。
『はははは! 見つけたぞ、黒の神スサブ!』
大昔にテレビで見たような、軍用の装甲車両。キャタピラで走る『戦車』じゃなくて、普通にタイヤで走る、鉄板とか銃とかが付いている車。
それがそのまんま、こっちに向かって走ってきている。
しかも、スピーカーでこっちに意思表示までしてきている。
『お前には十億の賞金がかかっている! お前を倒せば賞金だけじゃなくて、正社員に昇格できるし、特別ボーナスも期待できる! 俺たちのために死んでくれ!』
「ハスカールには、バイトだけじゃなくて派遣社員もいるのか……」
「ま、まあ……社会ってそういうもんだし」
大学生のバイトが銃を持ってるのもどうかと思うが、派遣社員が装甲車両にのっているのもどうなんだろう。
社会人経験のない俺にはよくわからないが、多分昔なら考えられないな……。
『しねえええええ!』
そう思っていると、装甲車両の上部についている大きな機関銃から、赤い念動弾が飛んできた。
どうやら砲手がいるらしく、こっちに照準を向けてぶっ放してきている。
さっきの若い兄ちゃんが持ってた銃とは、明らかに大きさが違う。人間の手で持てない、砲台とかに固定してあるような、大型の機関銃だった。
それから出てくる弾が、赤タイプの念動弾だっていうのも笑えなかった。
やっぱりあの車にも、制限異能宝珠や念動蓄電池が付いてるんだろう。
つまりあれ自体が、ハスカールの武器なわけだ。
車に乗せている分、人間が持ち運ぶものより大きくできるんだろう。
そう考えると、さっきよりも段違いに強いことはわかる。
俺は全身から黒い煙を噴き上げて、その弾丸の嵐から身を守った。
赤い弾丸のほとんどは弾かれて地面に当たっていくが、その地面がハチの巣になっていく。
赤タイプであることを考えると、それこそ本物の戦車でも穴だらけにしそうな威力に違いない。
俺に当たる分には何とかなるかもしれないが、オモチャになったままのアキラに当たったらエライことだ。
「こりゃあおっかいないな……人に向かって撃つんじゃねえっ……よ!」
防御を固めながら、念動弾を放つ。
装甲車だろうが何だろうが、一撃でぶっ壊せるぐらいの威力を込めている。
さっきみたいに青いバリアを張られても、ぶち抜けるだろう。
『回避!』
『オス!』
ぶおおん、と急加速して回避した。
そりゃまあ、装甲車は車なんだから、動いても普通だろう。
だけど俺の知っている車と違って、急加速が過ぎた。まるでジェットコースターのようである。
それに、急加速するときに、あの車が黄色い煙を出していたように見えた。
「黄色の瞬発で、急加速できるようになってるのか?」
「そうね……運転手と砲手で、一色ずつ担当しているんでしょう」
さっきのカップルは、赤で攻撃して、青で受けるって感じだった。
それに対して今度は、赤で攻撃して、黄色で回避って感じだ。
そうなると、さっきよりも防御は薄いんだろうか。
この程度の相手を殺したら夢見が悪そうだし、ひと手間入れるとしよう。
『どうだ、効いてるか?!』
『全然効いてないです! でもこっちも弾は有り余ってますから、死ぬまでぶっ放してやりますよ!』
「そうはならねえよ!」
俺は荒れ地に掌を押し当てて、前方一帯の地面を一気に汚染する。
走っている車そのものじゃなくて、その足場、走る場所を全部染め上げる。
「ボール・プール!」
地面を構成する土を、広範囲にわたって汚染し、全部『カラーボール』に変える。
さびれた荒野があら不思議、幼児向けのプレイルームにありそうな、色とりどりのカラーボールによるボールプールになっちゃった。
お子様向けの施設なだけに、歩いていようが走っていようが、人間には何の危害もない。なんなら、普通の地面よりも安全だろう。
だが、車はどうかな? 俺が作ったオモチャの耐久度は、普通のオモチャと変わらない。ごく普通のカラーボールの上に、自動車がのっかれば……。
そりゃあ、沈没するよな!
『な、あああ?! なんかいきなり沈んだぞ?!』
『大変だ! 周りが全部、オモチャに!!』
『くそ、姑息な手を! この状態でも、銃は撃てる!』
『そ、そうっすね! もうこのまま……』
「お~い、聞こえてるか~~?」
大量のカラーボールを潰して、そのまま埋もれていった装甲車。
それでも二人は戦うつもりのようだが、俺はその二人へ警告をする。
「お前たちは土を元にしたカラーボールに埋もれているわけだが……この状態で、俺が能力を解除するとどうなるでしょう?」
『あ、ああああ!』
『に、逃げろおお!』
俺が指を鳴らすと、地面を覆っていた汚染が一気に抜ける。
それと同時に、カラーボールだった地面が、全部元の土に戻る。
カラーボールに埋もれていた装甲車は、一気に土の中へ埋もれていった。
それに乗っていたであろう二人の派遣社員のおっさん二人は、車の上にもともとあったらしきハッチを開けて、あわてて脱出し……そのまま逃げて行った。
それはもう、さっきのカップルより全力のダッシュである。
「はははは! こりゃあ正社員にはなれそうにないな!」
「あっさり勝ったわねえ……さすが、スサブ、格下には強いわ」
「嫌味かよ……ふん!」
「褒めてるのよ。これで殺したり大けがさせていたら、それこそドン引きだわ」
俺のことを殺そうとしていた二人のおっさんだが、まあ……正直あんまり憎めなかった。
良くも悪くも、俺をスコア扱いしていた。憎しみとか怒りとか、そういうのを感じなかった。
そういうのを殺したり傷つけたら、すげえ嫌な気分になる。それは……大昔に知ったことだった。
「で? 話を聞いている限りだと、ハスカールってのはたくさん従業員がいるんだろう? 汚染地帯の近くに居たら、こういうのをずっと相手にするんじゃないのか?」
「それはないわよ。考えて見なさい、こんなに備品をぶっ壊されたら会社は大赤字よ」
「それはまあ……そうだな」
よく考えたら、装甲車って十億でも買えないんじゃなかろうか?
それならハスカールは、今から俺を捕まえても大赤字では……。
「貴方が強いってことがはっきりしたんだし、ハスカールの経営陣が『もう襲うな』って命令を出すわよ」
「それで止まるのか? 十億だろ?」
「全員は止まらないけど、ほとんどはやめるでしょ。それに……ハスカールが抱える最強の異能者が動くはず」
「モータル?」
「異能技術兵器……制限異能宝珠を使った武器で武装している人の総称よ」
なんか専門用語が増え始めたので、正直混乱する。
というか、正直な感想は……。
「お前さあ、昔のラノベを参考に社会作ったの? 名前が中二病すぎるぞ」
「さ、最近はこうなのよ! 一周回って、これが普通なの! そもそも私が全部の名前を決めてるわけじゃないわ!」
「まあそうだけどさ……」
ちょっと整理しよう。
大昔にアザトスがばらまいたのが、超進化宝珠。
それが体と融合した者が、俺やアキラのような超能力者。最近は超能力者って言うらしい。
超進化宝珠を改造したのが、制限異能宝珠。
体と融合させなくてもよくて、武器とかにつけて使うみたいだ。
で、制限異能宝珠を使った武器が異能技術兵器。
さっきの銃や盾、車がそうだ。
最後に異能技術兵器で戦う奴のことを異能者って言う。
さっきの若いカップルや派遣社員のおっさん二人もそのようだ。
「もうややこしい用語はないよな?」
「……あと一個あるわ、超越者っていうのがね」
「なんだよ……それ」
「異能者の中で最強とされる五人よ。超強い異能者のことだと思っていいわ。ハスカールの中にも一人、超越者が所属している」
「で、それが俺を殺しに来ると? そいつはどの程度強いんだ?」
「あ……あ、ああ……」
よほど言いたくないのか、濁しまくるアキラ。
「超越者を名乗る条件は、私に勝つことよ。つまり……この世界には、私よりも強い子が五人いるわ」
マジで?
ついこの間戦ったアキラは、相当強かった。
そのアキラに勝つのが、この時代に、普通の人間にいるっていうのは……。
俺にとって、強い衝撃だった。
そして、その直後。
俺はこの世界に帰ってきて初めて、強い殺意を感じ取った。
「とんでもなく遠いところから、狙われてる感じがする!」
「なんですって?! それじゃあ、もう来たの?!」
全力ではあったけども、本気じゃなかったアキラ。舐めた態度だった、バイトと派遣社員。
それらとは違う、圧倒的な殺意。
それに対して俺は、思わず息を呑むのだった。




