ソルダリーの超越者、グラデ・エッタ
正直に言って、俺は機嫌が悪かった。原因はもちろん、あのヴィギレである。
お前が強いのでムカつくとか、アザトスと戦った俺に対して無体ではないか。
俺の事情を全部把握しているうえでもっと犠牲になれとか、何を言っているのか。
警察のくせに、情状酌量の余地ありって言葉を知らないのか。
「……まあ、あの子にもいろいろあるのよ」
「大人の言葉だなあ、おい」
「ただ、私は貴方の味方よ。それは忘れないでね」
「……知ってる」
キーホルダーに変えた二人の超越者を腰から下げて、俺は荒野を歩いている。
もしも今アキラたちの作った町に行ったら、腹立ち任せに暴れちまうかもしれない。
さすがにそれはダサすぎるし、今も仲間でいてくれているアキラに申し訳ない。
ただこのままイライラが募るようなら、我慢できないかもしれないな。
「で、次はだれが来ると思う?」
「……何とも言えないわ」
「ふうん……」
なんとも煮え切らない態度だが、ここであっさり色々話すようなら、それはそれで嫌だな。
そういう意味では、俺も悪い意味で大人になったのかもしれない。
そう思ってぶらぶらしていると、前から普通に歩いてくる姿が見えた。
いや、走ってきている。一周回って、これは初めて見たかもしれない。
「なんか、正統派格闘少女みたいなのが、こっちに走ってきているんだが……格ゲーのコスプレか?」
「違うわ、普通に女子格闘家よ」
健康そうな姿の女子が、こっちに来て、止まった。
それこそ格ゲーの開始線の距離で、びだっと止まっている。
「どうも初めまして! 私は異能格闘団体、ソルダリー、現チャンプにして超越者。グラデ・エッタと申します! 黒い神、スサブ様ですね!」
「あ、まあ、な」
ちょっと面食らうくらいに、敬意を向けられてきた。
やばいな、これぐらいのことで機嫌が治るとか、我ながらあまりにもちょろすぎる。
「アキラ様だけではなく、ヴィギレさんやマセナさんを破ったその実力……是非お手合わせ願いたい!」
「そ、そうか……」
本当に格闘ゲームみたいな会話の流れだ。
だがその前に、確認しておきたいことがある。
「あ、そのなんだ……お前も……君もあれだ……俺のことを、どの程度強いと思っている?」
「……?」
「なにせ今までの奴は、俺のことを『黒タイプだから弱い』とか『どうせ運が良かっただけだ』とか言ってきてたんだが……」
「ああ、そのことですか」
とてもさわやかに、彼女は『核心』をついた。
「アキラ様が、手を抜いていたこと、についてですね」
「貴方、気付いていたの?!」
これには、アキラが驚いていた。
「おや、アキラ様……喋れたのですか、挨拶が遅れてすみません」
「いえ、いいの……え、貴方気付いていたの?」
「私だけではなく、現代表も気付いていましたよ。多分過去にも、何人かは気付いていたかと」
「そ、そう……」
「冷静に戦績を見れば、わかりそうなものですがね……」
ややしらけている彼女は、気付いていない面々に呆れている様子だった。
「貴方は手加減の苦手な、黄色単色。にも拘わらず、貴方への挑戦で再起不能になった異能者はほぼいない。であれば、手加減している……手加減して勝てないなら、勝ちを譲っていると考えるべきです」
「……まあ、そうよね」
「勘違いなさらないでください、私たちはそれを悪いとは思っていません。気付いても黙っていたのは、再起不能にされたらそれはそれで困るからでしょうしね」
なんともあけすけなものだ。
これはこれで、大人なのかもしれない。
「怪我をさせて勝つよりも、諦めて負けるほうがいい。私たちソルダリーにも、そういう価値観はあります。過激な戦いを見たお客様が喜んでも、対戦相手に嫌われたり運営に疎んじられればそれまでですからね。それに、後進を育てるために胸を貸す、というのもよくあることです」
「うう……真意まで見抜かれてる……」
「上の者としての気づかい、お見事です。少なくとも私は、尊敬していますよ」
「止めて差し上げろ」
わざと負けていたことを見抜かれていた、なんてのは恥ずかしいだろう。
それを理路整然とフォローされても、結局嫌なだけだ。
「まあいいさ、それで? アキラがその気になっていれば、瞬殺されていたってわかってる。それでアキラより強い俺に、なんで挑めるんだ?」
「私は私なりに先を見ています。貴方はこのまま勝ち抜いて、そのままセントラルベースの頂点に立つでしょう。そうなるしかない」
「セントラルベース?」
「私たちの作った町の名前よ。まあ、そのまんまよね」
そうか、町の名前はセントラルベースって言うのか……。
そこは教えておいてもよかったんじゃないか?
「貴方がどんな政治をするのかはわかりませんし、正直興味もない。私は格闘家で、格闘しかできませんからね。ですが……」
「ですが?」
「だからこそ逆に、静観が許されないのですよ。パラディンやレギオンは何もしなくてもいいわけができますが、『怖いから行かなかった』なんて言われるぐらいなら、『戦って負ける』を選びます」
「よくわからんが……選手がそこまで思いつめなくてもいいだろ」
「というのが建前です」
ここで彼女は、敬意を保ったまま、戦意を全開にした。
「戦ってみたいんですよ、生き残った神の中で最強の貴方と」
「……」
「私は貴方が戦った相手である、アザトスがどの程度強いのかわかりませんし知りようがない。ですが本気のアキラ様に勝ったであろうことは明白……その貴方を相手に、どの程度戦えるのか知りたいんです」
やっぱりこいつ格ゲーとか、格闘漫画のキャラだ。
行動原理が、それっぽすぎる。
表情も、半端なく凶暴で獰猛になってきたし……。
とはいえ、気持ちはわからんでもない。
これはアキラが悪いしなあ……。
「アキラ……こういう奴とは真面目に戦ってやってもよかったんじゃないか?」
「それで殺しちゃったらどうするのよ……彼女はスター選手なのよ?」
「それで俺に狂犬が回ってきたんだがな……」
まあ言っても帰ってくれそうにないし、こうも潔いなら相手をしてもいいかもしれない。
それに正直に言って、『アザトスを倒した現役最強の超能力者』として挑戦されるっていうのは……期待していたのとはちょっと違うけど、今までよりはマシだった。
「俺に負けたら、オモチャになるぞ。それでもいいのなら……」
「かまいませんよ、こっちは殺す気で、何でもありで行くので」
「お前本当にスターだったのか……?」
賞金稼ぎ、警察ときて、格闘家が相手。
さて、今までも変な武器を見てきたが、彼女も使うのだろうか。
「では……行きます!」
グラデ・エッタは、両手を胸の前で交差させていた。
そして両手首には金属製の腕輪があり、『緑』と『紫』の制限異能宝珠が付いている。
今までのように凄い武器を使っているって感じのと比べて、なんとも正統派な特殊能力者って感じだが……。
「緑と、紫?」
正直に言って、緑と紫であることには驚いた。
今までは『僕が考えた格好いい組み合わせ』だったが、ここに来てハズレ感が否めない。
「意外ですか?」
「ああ……赤や黄がないのにチャンプってのは、驚きだ」
「そうですか……まあソルダリーでは、赤や黄色は禁止なのですがね。さすがに危険すぎるので」
「それは、まあそうか」
格闘家も警察と同じで、ぶっ殺すって感じの危険な技は禁止らしい。
そうなると、茶色や青が主流になりそうだが……。
「貴方がどこまでご存じかは知りませんが、今の時代ではどのタイプになるのか、事前の検査でわかるのです。単色の場合がほとんどですが、二色三色が現れることもあります。超進化宝珠をそのまま移植すれば、私の場合は緑か紫のどちらかになり、制限異能宝珠ではその二色両方を発揮できます」
「それじゃあいわゆるハズレアってわけだ」
「ええ……赤、青、黄が当たり。それを含まない超越者は珍しく、当代では私だけです。これはソルダリーでも同じようなもので、青や茶色、それが混じった選手が強いですね」
ハズレア扱いされても、グラデは怒らなかった。
周囲からいろいろ言われただろうし、おそらく彼女自身もいろいろ思うところがあったのだろう。
もうコンプレックスを乗り越えた後ってわけだ。
「ですが、『私』は強いですよ」
「そうか……それじゃあ、気を使って……こっちからだ!」
俺は念動弾を放つ。
バレーボールほどの大きさのそれは、高速で彼女に向かっていく。
当たれば大けがが免れない、初手にしては重すぎる一撃。
しかし相手に緑があるのなら、むしろ初手を取るのは優しさだ。
「お気遣い、ありがたく!」
グラデは両手を緑のオーラで覆い、俺の放った念動弾をサッカーのキーパーのように受け止める。
普通なら受け止めきれる重さじゃないし、そもそもボールじゃないんだから、受け止めても投げ返せるわけじゃない。
だが、緑タイプの場合はそうじゃない。
緑タイプの特性は『干渉』。相手の技に干渉してそらしたり、軌道を変えて投げ返すことができる。
とはいえ、それにも限度はあるはず。本気じゃないとはいえ、この威力の念動弾を跳ね返すのは簡単じゃないが……。
「重い……跳ね返しがいが、ある!」
「良く跳ね返したな!」
俺の念動弾をしっかりと受け止めて、逆に投げ返してくるグラデ。
大したものだと思うが、このまま喰らうのもよくないだろう。
俺はもう一度念動弾を放って、相殺しようとするが……。
「なに、軌道が変わった?!」
グラデが投げ返した念動弾が、俺の念動弾を避けた。
しかも軌道修正して、俺に向かってくる。
これは紫の特性か、なら避けても無駄だな。
「ここは素直に、受け止める!」
自分の技なだけに、そこそこ痛い。
だが本気で撃ったわけじゃないから、俺は俺で受け止められる。
しかしそこで、グラデが一気に間合いを詰めてきた。
「本当に格ゲーみたいな戦い方をしやがる!」
「堅実と言って欲しいです!」
自分の攻撃を受けている俺は、体が硬直していた。
そこへグラデは、俺の顔へ平手を打ってくる。
頭じゃない、顔。それも目のあたりを狙ってきた。
「スポーツっていうか、拳法っぽいな!」
「今回は、なんでもありなので!」
急所ねらいの打撃を、俺は腕で受ける。
そこから流れるように、グラデは金的を蹴り上げてくる。
俺はそれを察して股を閉じて受けるが、反撃する前に距離を取られた。
「嬉しいですね……今ので勝っていたら、がっかりしてましたよ!」
「それは俺も情けなくて、死にたくなるな」
ハスカールのマセナは、『アキラ様に設置爆弾なんか使えない』とか言っていた。
同じでこのグラデも、アキラや他の対戦相手に急所攻撃なんかできなかったんだろう。
だが相手が俺ということで、本気で来ているってわけだ。
「さて……遠距離攻撃は投げ返される、近距離戦闘の技術はこちらが上。どう来ますか? 力押しですか、それとも汚染を活かしますか」
「そうやって挑発されると、能力バトルがしたくなるな」
文明が崩壊する前のノリを思い出しつつ、俺は頭を回す。
力押しで解決できるかもしれないが、それはちょいと芸がない。
「じゃあ、こうだ!」
俺は念動弾を放った。
そして今度は、自分から間合いを詰める。
さあどうくる?
「なるほど、ですが!」
今度のグラデは、俺の攻撃を受け止めずに避けた。
そのまま逆に、俺へ突っ込んでくるが……。
「せい!」
「!」
俺はグラデが間合いを詰め切るより早く、連続での念動弾を放った。
さあ耐えられるかな、と思ったが、これは緑のオーラで弾いてきた。
なるほど、そりゃそうだ。受け止めて跳ね返すだけが緑じゃない。
「ここなら!」
「ここなら、なんだ?」
グラデは殴ってきそうだったが、俺は自分から拳を繰り出す。俺の方が圧倒的に速いので、彼女は出遅れる。
神域の身体能力から繰り出されるパンチを、彼女は冷や汗をかきながら避けた。
「なんの……なんの、なんの!」
グラデは俺の伸びた腕に組み付いて、そのまま体重と力を使って、へし折りにかかる。
これは関節技だなあ、と思いつつ、俺はパルクール気味に自分の全身をひっくり返した。
「!」
「甘い、甘い!」
俺は片手で地面に手をつきつつ、グラデの足をけった。
もちろん大して威力はないはずだが、彼女はそれでも俺から手を放して距離をとる。
その顔は、苦痛と屈辱で歪んでいた。
「……対人格闘技の経験は、私の方が上のはずですが」
「対人格闘技の経験が少ないのと、体術の経験はイコールじゃないだろう?」
「……そう、でしたね。思い上がりました」
俺が異次元で戦ってきた相手は、アザトスだけじゃない。
そこには人間よりも小さいのもいたし、触手を操る敵もいた。
俺の腕に絡みついて、へし折りに来る奴もいた。
関節技か、とわかっていれば対応はできる。
「どうした、まだ始まったばかりじゃないか?」
「……今の軽い打撃で確信しました。身体能力の差が半端ではなく、普通に格闘をすれば勝てませんね」
一方で、グラデはずいぶん忌々しそうに、俺をにらんできている。
「悔しいか?」
「ええ、接近戦では私の方が上、とマウントを取りたかったので。ですが……まだあきらめませんよ」
わかるような、わからないような、だ。
「ならいいさ、どんどん来い」
「ふぅううう……」
薄く、広く。
グラデの周囲から緑色のオーラが散っていく。
だがそれによって、俺が放っていた黒いオーラが彼女の元へ集まっていく。
緑色の真骨頂。周囲に残留した敵味方の念動力を集めて、自分で利用できる。
つまり、俺が戦えば戦うほど、彼女の利用できる念動力は増す。
「竜気弾!」
かき集めた俺のオーラを、巨大な竜に変えて発射する。
これは緑だけじゃない、紫の繊細なコントロールもあってこそだな。
さて、撃ち落とそうとしても避けられるだろうし、受け止めようとするのも芸がない。
俺は牽制の念動弾を撃ちつつ、グラデに向かって間合いを詰める。
「ふん!」
「な?!」
だが間合いを詰められたのは、俺の方だった。拳法の歩き方、みたいなので距離感が狂った。
彼女は俺の懐に飛び込むと、それこそ顔が胸に当たりそうな距離で攻撃を始めた。
「緑波掌!」
グラデは俺の体に手を当てて、緑色のオーラをカチ当ててくる。
俺の体の中のオーラを利用しようとしているのか?
そのまま俺の体の中を、かき乱そうとしてきた。
だが……。
「あいにくだが……その程度のオーラじゃあ、俺の体内を揺らせないぞ」
「……!」
だがしかし、俺の体の中には、それこそ『本来のMP』が渦巻いている。
これを彼女の念動力で揺さぶるなんて、大きな池をスプーンで波立たせようとするようなもんだ。
「ですが!」
「!!」
忘れたころに、背後から竜が襲い掛かってきた。
俺の体に当たると、グラデの攻撃同様に、俺の内部へ侵入しようとしてくる。
「貴方自身の攻撃を背後から当てれば!」
大したもんだ、これはショー映えするだろうな。
極めてテクニカルで、なおかつ分かりやすい。
だがそれでも、俺を倒すには足りないな。
「さて、君は今俺に攻撃をしているわけだが」
「!!」
「この状態から、俺のオーラを操れるかな?」
俺は掌から念動弾を撃ち、懐のグラデに当てた。
弱めの威力ではあったが、直撃させることはできた。
青タイプで防御を固めているわけじゃないから、今ので『イイ感じ』だろう。
背中にまだ食らいついている竜のことも弾き飛ばして、彼女の次を待つ。
「強いのは、わかっていた……弱かったら、がっかりだった……手抜きをされても、それはそれで嫌だった。でも……手抜きされてあしらわれるのは……想定していたけども……!!」
グラデは、憎悪で燃えながら立ってきた。
懐かしいな。俺もこんなふうに、あしらわれてキレたことがあった。
気持ちはわかる……そして、どうにもならないことも。
「自分の弱さが憎い、全力で頑張っても勝てないことが憎い、か? 俺にもそういう時期があった。いや……今でもそうだ」
「上には上……貴方よりも強い四柱の神が、貴方と力を合わせても、ほぼ道連れ。それでようやく倒せたのがアザトスでしたか」
「他の色ならよかった……何度そう思ったことかわからねえ」
頑張れば、案外どうにかなるかもしれない。
工夫次第で、役に立てるかもしれない。
そんなことは、一切なかった。
「俺は……弱者だ」
「そのっ、弱者にっ!」
グラデは、キレていた。
これを逆切れとは、俺だからこそ、言いたくなかった。
「この上ないベストコンディションの私が……手も足も出ない!」
その気持ちが、痛いほどわかる。
「長く生きてきた、長く戦ってきた神には……人の身では到底及ばない! そんな当たり前過ぎる残酷な真実を……私は、受け入れたくない!」
こいつは、格闘技のチャンピオンだ。そこに至るまでの『サクセスストーリー』は、決して楽なもんじゃないだろう。
何度も挫折して、何度も諦めかけて、それを振り払って栄光に至った自負があるんだろう。
だが残念なことに、俺との間にある壁は……どうあがいても、絶対に越えられない。
わかっているから、激高するんだ。
あとちょっとで勝てた、それぐらいなら『悔しい』で済む。
だがどうあがいても勝てない、そのレベルだと怒るしかない。
「はあああああ!」
その域に達したグラデは、叫びながらも立ち上がり、俺に襲い掛かってくる。
今度は総合格闘技風なことに、ジャブから入ってきた。
さすがはプロ格闘家、激高してもスマートなフォームだった。
俺はそれにつきあって、殴られつつもガードを固める。
「しっ!」
何度も思うが、さすがプロだ。
顔だけじゃなくて、腹も打つし、蹴りも混ぜてくる。
本当にスポーツ色が濃い健全な格闘技ばっかりだ、と思っていたら急所への拳法攻撃もしてくる。
服を摑んでの組技までしてくるから、動きの多彩さには驚かされる。
「ずいぶん、余裕ですね!」
「そりゃあな。異次元で戦ってきたわけのわからん怪物どもに比べれば、君の戦い方はわかりやすいぐらいだ」
正直に言って、一番戦いにくかったのはハスカールのマセナだ。
まず目の前に現れてくれなかったからな……。
だけどこの子は、本当に『格ゲーのキャラ』の枠に収まっている。
これなら能力値と経験の差で、あっさり対応できる。
「……こんな、もの、ですか!」
グラデは焦燥に焼かれながら、悲観する。
「私達の、ソルダリーの技は……エンターテイメントであり……実際に戦えば、こんなものですか……!」
「……」
「ルールの中でスポーツをして、それで対戦相手と戦って、報酬と栄光を得られるのなら……それで満足するべきでしたか……!」
「……」
「真の強者なんて、目指すべきですらなかったと……!」
報酬と栄光だけでも、十分だろう。
プロになるのも大変なはずで、チャンピオンなんて一度なれたら凄いってほどで……。
俺は、正直羨ましい。
「これは、俺がホノオたちによく言われていたことだ、正直言われてムカついていたが……他にかける言葉がみつからない」
「なんですか!」
「君はすごく頑張った、それを恥じる必要はないさ。大事なことは努力することで、勝敗じゃない」
「!!」
歯をむき出しにして、憎悪さえ抱いて、グラデは俺に最後の急所攻撃を仕掛ける。
それに対して俺は、全身から念動力を放出して、彼女を大きく吹き飛ばした。
「これで終わりだ……!」
「……最初から、こうできたでしょうに」
「まあな!」
「意地が悪い……!」
「……チャイルド・ロック!」
俺は肉体から膨大な煙を噴き上げて、そのままグラデを包み込む。
万物をオモチャに落とす俺の汚染技が、ついに彼女を捕縛していた。
ほんの一瞬で彼女はキーホルダーになり、地面にぼとりと落ちる。
完全に意識を奪っている分、辛いとか苦しいとかはあるまい。
「……なあアキラ、昔の俺はトドロキやホノオに突っかかってたよな。負けるたびに文句を言っていたけども……どんな気持ちかわかったよ」
「まあね、私も同じ気分だったわ。でもまあ……私たちの関係って、それだけじゃないでしょう」
「そうか、そうだな」
少し昔を思い出して、センチメンタルになる俺とアキラだった。