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7.こう見えてわたくし、あなたを評価してるのよ

 かたや「堅物」という概念が眼鏡をかけているようなノアルスイユ。


 かたや、他国にも名を轟かす超破天荒令嬢。


 王太子アルフォンスが結婚した後、カタリナは親の選んだ相手と婚約した。

 だが、自邸で開いた舞踏会のさなかに、婚約者が複数の女性に結婚をちらつかせては遊興費や賭博の借金を払わせていたことを告発して堂々と婚約破棄。

 ついでに「自分は好きなときに好きな相手と結婚する」と宣言した。

 皆、驚いて固まっていた中、臨席していた王太子妃ジュスティーヌが進み出て賛意を示す拍手を始め、その輪が広がって、結局、父公爵が認めたのだ。


 付き合いはもう十年近くになるが、この2人の組み合わせはなかなか珍しい。


「いいじゃない、素敵よ。

 あなた、ヒョロヒョロだけど手脚は長いのよね」


 微笑んで言うカタリナに、ノアルスイユはぶふぉっと変な音を立ててしまった。


 見た目通りにインドア派のノアルスイユは、ダンスもそれほど巧くない。

 舞踏会で求められる、パートナーの美しさを周囲に印象づけるようなレベルのリードは無理なので、お褒めの言葉を賜っただけ上出来だが、超絶上から目線だし、ついでに悪口もナチュラルに混ぜてくる。

 貴族学院時代と変わらない傍若無人さだ。


「相変わらず、ですな」


「なにそのおっさんみたいなコメント」


 忖度なしのツッコミが即座に飛んでくる。


 しかし、カタリナは楽しそうだ。

 良家の令嬢がよく貼り付けている曖昧な微笑みではなく、心の底から愉快そうな笑み。

 その表情に釣られて、気がつけばノアルスイユの表情もほぐれていく。


 なんだろう、柔らかい花の香りを幾重にも重ねたようないい匂いがする。

 紅い、かたちのよい唇は、朴念仁のノアルスイユでも引き込まれそうになるほど艷やかで──


 油断してはならないと思いつつ、次第にぽわぽわしてきたノアルスイユに、カタリナは最近面白い本はないかと振ってきた。

 どうせ彼女は読むまいと思いつつ、ノアルスイユは推理小説をいくつか紹介する。

 カタリナは、興味を惹かれた様子でちょいちょい質問を挟んで来た。

 悪い気はしない。


「じゃあ『公爵令嬢の災難』は読んでみるわ。

 ところであなた、来週の土曜ってお休み?」


「あ? そうですが」


 嫌な予感がした。


「この間、ユリアーナ大伯母様からいくつか不動産を相続したの。

 来週、王都の外れにある一番大きな物件を見に行こうと思うのだけれど、一緒に来てくれないかしら。

 わたくし個人の資産だから、家の執事は貸さないって父に言われてしまって。

 檸檬荘ヴィラ・リモーネって言うのだけれど」


 ユリアーナ大伯母様というのは、先代ローデオン大公妃だ。

 先代サン・ラザール公爵の姉で、カタリナにとっては、父方の祖父の姉ということになる。

 昨年、病死したが、莫大な遺産が話題になった。

 個人資産を投資で膨らませまくっていたらしい。


「へ? なんで私が??

 声をかければ、ほいほい飛んでくる男はいくらでもいるでしょうに」


 ノアルスイユは戸惑った。


「あなたは世の中のことを広く知っているし、おまけに知らないことはごまかさずにちゃんと知らないって言ってくれるわ。

 そんな人、めったにいないもの。

 こう見えてわたくし、あなたを評価してるのよ」


 カタリナは、ノアルスイユと眼を合わせて、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

 めったに見えない片エクボがその頬に刻まれて、普段は圧が強すぎる美貌が、いきなり可愛らしくなる。

 思わずドギマギして、え?ええと?とノアルスイユは口ごもっているうちに曲が終わった。


 慣例通り、組んでいた手を離し、互いにお辞儀をする。


「じゃ、来週の土曜十時にあなたのタウンハウスへ迎えに行くわ。

 よろしくね」


「はいいいい!?」


 行くとも行かないともまだ言っていないのに、カタリナはするっとノアルスイユから離れた。

 曲が終わるのを待っていたのか、南国から来ている外交官が、さっとカタリナに寄ってきて肘を貸し、2人は楽しげに喋りながら遠ざかっていく。


「あ、あの! すみません!!

 よろしかったら、その……!」


 我に返ってカタリナを追おうとしたノアルスイユの前に、舞踏会の手帖を広げた年若い令嬢達が立ち塞がる。

 はっきり言わずにもじもじしているが、ノアルスイユにワルツを申し込んでほしいらしい。

 昔は令嬢たるもの、紳士から声をかけられるのを慎ましく待つものだったのに。


 これも、したいことはしたいとはっきり主張し、したくないことは堂々と拒否するカタリナの影響なのだろうか。

 昨今の風潮をおっさんくさく嘆きながら、ノアルスイユは令嬢達の手帖に自分の名を書き込むしかなかった。


カタリナ「チョロい! チョロぎるわ! チョロ眼鏡って呼んでやろうかしら!」

ノアルスイユ「(無視して)2022年公式企画・春の推理にも『公爵令嬢カタリナの災難──国一番の金持ち公爵家に生まれ、美貌も人望も同世代No.1。当然、わたくしが王太子妃よね?と思っていたら、人生がとんでもない方向に吹っ飛んでいくようです──』で参加しておりますので、よろしければ下記のリンクからぜひ。私も出演していますが、世界線は完全に別物です!」

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