22.鍵は7つ
「ま、それはさておき。
事件の鍵になるポイントがいくつかあると思うの。
ついでに、メモを取ってもらってもよいかしら」
「あ、はい」
記者がメモのページをめくって構えた。
「まずフォンタンジュ男爵令嬢ポーリーヌについて」
ノアルスイユは少し驚いた。
そこからなのか。
「(1)誰がポーリーヌを舞踏会に手引して、マリー・テレーズにぶつけたのか」
「マリー・テレーズにぶつけた、とは?」
「ポーリーヌは、紹介されたこともないマリー・テレーズにいきなりすがりついたのよ。
しかも、ここみたいな社交場じゃなくて、貴族の邸宅で行われた舞踏会で。
マリー・テレーズが出席する舞踏会にわざわざポーリーヌを紛れ込ませて、あれがマリー・テレーズだって教えてやった人物がいるはずじゃない」
なんでわからないのとばかりに、イラッとした顔でカタリナは返す。
そっか、と男二人は頷いた。
「(2)なぜ自殺したのか。
(3)なぜ焼身自殺という手段を選んだのか。
(4)なぜ第一報で、マリー・テレーズとの諍いの話も出ていたのか」
「ええと、(4)はどういう?」
ノアルスイユは首を傾げた。
「焼身自殺が起きて3日目の朝に発売された週刊紙に、マリー・テレーズとのトラブルの話も出てたって早すぎない?」
「あー……確かに、やけに早いです。
こういう、知る人ぞ知るゴシップが出てくるのは、普通、次号、次々号ですよ。
よっぽどしっかりしたタレこみでもあったんですかね」
本職の記者が認めて、カタリナはドヤドヤドヤとノアルスイユを見てくる。
ノアルスイユは思わずむっとしてしまった。
「で、毒殺事件の方だけれど。
(1)そもそも、誰を殺そうとしたのか
(2)なぜマリー・テレーズだけが無事だったのか
(3)なぜマリー・テレーズが犯人だということになったのか」
カタリナは指を折りながら挙げた。
こっちが本題のはずなのに、ポイントの数が少ない。
「(1)(2)はさっぱりですが、マリー・テレーズの手記では、シャルル卿が彼女が犯人だと言い出した風になってましたよね」
「そうそう。
でも、姉が亡くなったからって、なんでいきなりマリー・テレーズを指弾したのかしら。
一応は婚約者なのに。
ここはシャルル卿に聞かないと、どうしようもないところだけれど……
侯爵の言い方じゃ、家は出たけれど王都にいるようだったから、どっかで引っ掛けて巧いこと釣り出したいところね。
どうせ、ろくでもないところで遊んでいるんでしょうけど」
ノアルスイユは眼を剥いた。
「……今、あなたが私営の賭場やら場末の社交場やら、怪しげなところに突入してシャルル卿を探し回り、大騒動を起こすいやーな絵が浮かんだんですががががが!」
「行かない、行かない」
カタリナは笑って手を振っているが、前科がありすぎて全然信用できない。
ノアルスイユはジト目で睨む。
「ところで、レディ・カタリナ。
そのおっしゃり方は、もしかして……犯人、わかってます?」
書き取ったメモを睨みながら、記者が聞いた。
「ええ」
カタリナは頷いた。
は?と、ノアルスイユと記者は顔を見合わせる。
「なんの毒が使われたかもわからないし、どう飲ませたのかもわからないのに!?」
「だから言ったでしょ、そういうところは枝葉なのよ。
といっても、巧く証明できるかどうかがね。
最近起きた事件なら、まともな物証だって証人だって揃えられるでしょうに。
もしまた犯罪捜査に関わることがあったら、現代の事件にしたいわ。
今なら指紋っていう便利な証拠もあるし」
指紋が一人一人異なることが立証され、犯罪捜査に取り入れられるようになったのは、この国では二十年ほど前だ。
三十年前にこの毒殺事件が捜査されていても、おそらく指紋の採取や鑑定はされなかっただろうが──
「いやいやいやいや……
事件に関わるとか、もうナシで!
あなたは公爵令嬢なんですから!」
ノアルスイユは全力で突っ込んだ。
「公爵令嬢が事件を捜査しちゃいけないって、誰が決めたのよ」
ハン、とカタリナは嗤う。
「本当に、あなたという人は……!!」
こうなると口で勝てないノアルスイユはグルルルルと唸るしかない。
「ま、いいじゃない。
こんな変わった公爵令嬢が一人くらいいたって。
きっと、女神フローラは気になさらないわ。
女神の慈悲は無窮なのでしょう?」
カタリナはけらりと笑うと、「せっかく来たのだから、誰か最近のシャルル卿を知らないか、探してみるわ」と席を立った。
カタリナ「読者の皆様の世界では、1788年にドイツの解剖学者ヨハン・マイヤーが、指紋によって個人の識別ができるのではないかと指摘していたそうですわ。犯罪捜査に用いられるようになったのは19世紀の終わりだそうですけれど」




